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「好き」のパワーはいつの時代にも - 推し活展

早稲田大学の演劇博物館で「推し活」展。

ショッキングピンクにハートをまぶしたネオンイエローのタイトル文字。
ポップなポスターだけれど、会場は早稲田大学キャンパス内の

愛称「エンパク」

坪内逍遙発案、16世紀イギリスのフォーチュン座劇場を模したクラシックな建物。正式名称は早稲田大学坪内博士記念演劇博物館。
右手前には泣く子も黙る村上春樹ライブラリー。外まで人が並んでいたがエンパクは空いていた。

内部も古風。階段ミシミシ。

(展示は撮影禁止なので、以下写真はフライヤーより)

2021年流行語大賞ノミネートの「推し活」だけれど、大好きな芸能人を熱烈に応援する行為は古くからあった。
室町時代の能やシェイクスピア時代の演劇も、贔屓やパトロンがいてこそ発展したそうだ。
この展示ではファン活動の歴史やその文化を検証・紹介している。

そうだよね。芸術や芸能は創り出されたもの・表現されたものを受け取る側があってこそ。
支持し、応援してくれる人がいるから芸はさらに磨かれる。

演者や制作者側を中心とした従来の演劇・映像史においては埋もれてしまう、個々の観客たちの営みやその<声>をあぶりだすことが本展示の目的です。

(展覧会フライヤーより)

とあるように、受け手側の活動である推し活に光を当てたこの企画、演劇博物館ならでは。

「江戸関三十郎座付引合之図」

歌舞伎役者のファン活動。後援会メンバーたちが揃いの頭巾を被り、拍子木を打ち鳴らして踊っているが、ペンライト両手に持ってアイドルを応援する親衛隊とかヲタ芸に見えてくる…。

大阪の生薬問屋の旦那が作らせた贔屓の歌舞伎役者、三代目中村歌右衛門の豪華私家版スクラップブック「許多脚色帖」や、人気役者八代目市川団十郎の夭折後に、涅槃図のパロディで描かれた、泣き崩れる若い女性ファンが取り囲んでいる「死に絵」とか、なかなか濃い。
役者の錦絵や浮世絵は、その後もブロマイドやアクスタなど姿は変わっても脈々と続いている。

全部「屋根の上のバイオリン弾き」の
テヴィエ人形

演じた森繁久彌のファンたちの手作り。
こういうのはかわいいが、そこまでする⁈とびっくりしたのは、

等身大の森律子

明治生まれの女優の生き人形。一ファンが作らせたらしい。なんだか江戸川乱歩の話に出てきそう。

会場は館内の2部屋でそんなに広くスペースは取っていないが、ファンレターや会報誌、ピンバッジや団扇からバカラのグラスまで様々な後援会グッズからファン達の熱量が伝わってきた。
東京キッドブラザーズのKID巾着やポーチに時代を感じる。

推し活って、すごくエネルギー使うと思う。気持ちも時間もそれなりのお金も。
友人は「冬のソナタ」でぺ・ヨンジュンにどっぷりはまり、ファンサイトを運営したり関連本を出版したりと精力的に活動していた。
追いかけ続けてとうとう自分が書いたぺ・ヨンジュンを主人公にした小説を本人に直接手渡すという邂逅も果たし、その頃の友人は会うといつも瞳がスパークしていた。

家の近くの神社はあるアイドルグループの聖地になっていて、何か関連イベントがあるとファンが集結し、最寄り駅の構内には推しメンバーの記念日にファンたちからのお祝いポスターが掲げられる。日本だけでなく韓国、台湾、中国の応援会からも。
友人にしてもアイドルファンの人たちも、みんなとても楽しそうで幸せそう。
「よかったねー、楽しくて!」と心から思う。

私はそこまで誰かを熱烈に追いかけたり応援したことがない。
ずっとファンだと言えるのはジャン=ポール・ベルモンドくらいだが、既に故人だし存命中も推し活というほどの活動はしていない。
なりふり構わず誰かに憧れ、追いかけ、応援できるパワーが時々羨ましい。
きっと疲れちゃうんだろうけど、ファンにはその疲労感も心地良いんだろうな。

夫は推し活展より、同時開催の「演劇の確信犯 佐藤信」展の方をじっくり見ていた。

エンパク、数年前の「映像文化とLGBTQ+」や「別役実のつくりかた」展も良かった。
アーカイブたくさんあるそうなので、これからも斬新な企画を待ってます。

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