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祝❗️世界は五反田から始まった

 第49回大佛次郎賞が、星野博美の『世界は五反田から始まった』に。
星野博美ファンとして、とてもうれしい!
おめでとうございます!

ゲンロン叢書 2022 7月

大宅壮一ノンフィクション賞の『転がる香港に苔は生えない』から、著作が出るとずっと読んでいる。『コンニャク屋漂流記』では星野家のルーツが、『島へ免許を取りに行く』では父親と運転練習をする五反田近辺の道路のことが詳細に描かれていて、他の本にもたびたび登場する著者の実家やその周辺の戸越銀座や五反田の話を読んで、勝手に遠い親戚みたいな親近感を抱いていた。

五反田に行く機会があると、時々原稿書いていると言っていた喫茶店やJRのホームから見える桜田通りの広く緩やかな社会主義国っぽい坂を見ては、著者の視点を追体験する気分を味わう。私にとって戸越銀座や五反田は星野博美の町で、白金高輪の清正公は星野家のお寺だ。

著者の祖父は千葉の漁村から上京して町工場に就職し、その後独立して戸越に「合資会社 星野製作所」を興す。父もその工場を継ぎ、著者にとっては戸越・五反田界隈はふるさと。
祖父が晩年書き残した手記をもとに、戦争前後の五反田の町、人々の暮らし、星野家の変遷をミクロからマクロへと俯瞰するように綴った一冊。

外房から出てきて、丁稚から工場を築いたおじいさんがとにかく逞くてかっこいい。
星野博美氏の、一見飄々と、淡々としているようでも土台がぶれない安定感はおじいさん譲りなのか?帯にもある「杭を打て!」という言葉にしびれる。何があってもとにかく生き延びよと、私もメッセージを送られているような心持ちになった。

今年の10月、著者が通ったという幼稚園近くの五反田図書館に刊行記念の対談を聞きに行った。

著者と、出版元ゲンロン代表でロシア文学者・演劇研究者上田洋子氏の対談。
上田氏、ものすごく頭がよくて話をするのも相手の話を聞くのもすばらしく上手。聞いていて気持ちよくなるリズムとテンポ。
私が私がというタイプではない(たぶん)星野博美氏から、おもしろい話をどんどん引き出してくれて大満足のイベントだった。
筆者が子どもの頃「合資会社」という言葉に抱いていた恐怖とか、戸越銀座を舞台にしたTVドラマ Stand Up!!の事とか、本にはないこぼれ話も。

著者が提唱する「大五反田」という概念、そして本に登場する大五反田圏の史跡を追体験できるツアーマップも会場で配布された。
東急池上線もかわいくて好きな路線だし、こういうの楽しい。

対談の後は、マップ掲載の図書館近くの子別れ地蔵、五反田TOC駐車場にある筆者の実家工場製のスプリンクラーや、不動産詐欺の舞台になった海喜館跡(と、その前の電柱の著作の広告看板)を眺めて帰った。

本の題名だと知らなければギョッとしそう。
何かの宗教みたい


五反田に行ったことがなくても、読み応えのある本。おすすめです。

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