戦う男は美しくて、眩しい。だから私は観戦にいく

戦う男は美しい。内館牧子先生の『プロレスラー美男子烈伝』恒例の書き出しをパクリました。私にも戦う男性が美しく、眩しく見えて仕方がありません。そして、彼らの戦いを観て、自分の頭で考えて、解釈するなかで、彼らから人生で大事なことを授けてもらっている感覚がある。だから、戦う競技に魅せられているのだと思います。

ちょうど1週間前となる9月18日、ディファ有明で開催されたムエタイの大会「M-ONE 2017 2nd」を観にいってきました。昨年タイを旅したときに本場で観た(ムエタイはタイの国技)のに続き、ムエタイを観戦するのは2回目です。

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今夏、こちらの取材記事を執筆した際に、ご厚意で2度も(!)レッスンを付けてくださったウィラサクレック・フェアテックス ムエタイジムさんが主催。ご縁あって伺わせていただきました。

戦う競技といえば、プロレスばかり観ている私です。生観戦と動画配信サービスを併用。プロレスと比較したいという理由で、昨年はボクシングを2度観にいき、ときどきネットで総合格闘技を観ます。ただ、やっぱりプロレスというストーリー性のある競技が一番好きで、自分にも合っていると確信し、今に至ります。

でも、戦う競技自体、観るのは好き! ということでムエタイの大会へ。率直な感想として、タイで観たときよりも、面白さが増していました。自分が取材で親切にしていただいたジムに所属する選手が多く出ていること、私に教えてくださったトレーナーがセコンドとして選手のサポートをしていたこと、などの理由もあるかもしれませんが、すごく熱中していたんです。

「受けの美学」が大事にされるプロレスとは違い、ムエタイは攻撃し、相手を倒すほうが勝利を得ます。技を受けると自分が危うくなる。原則、3分間×5R(インターバル1分)の戦いが繰り広げられます。

1週間が経過しても、記憶に残っている試合がいくつかあります。試合開始前の2試合をあわせて、全13試合が繰り広げられたというのに、です。今でもシーンの一部が思い浮かぶくらい、インパクトのあった試合たち。

セコンドをはじめとする付き人3〜4名に付き添われ、派手に登場する選手が多いなか、チャンピオンなのにひとりで地味めに登場した選手がいました。八神剣太選手です。身ひとつでやってきたぜ、という印象の彼は、試合中に不思議としか形容できないような動きをして、対戦相手の鷹大選手を戸惑わせ、うまく自分のペースに引き込み、隙を狙って勝ちを取りにいっている――そんな風に見えました。ただひたすら攻撃する、という手法ではなく、彼なりの戦い方がある。そこに個性が浮かび上がっていたし、両選手が当然真剣ながらも、一期一会の試合を心から楽しんでいるように感じられました。観る者の心をぶわっとつかんでくる試合でした。

メインイベントに登場した佐々木雄汰選手からは、17歳らしからぬ貫禄や風格が漂っていました。数々のタイトルを獲得した王者。ムエタイ界で期待される若き天才なのでしょう。とにかく一つひとつの動きが冷静で、落ち着いていて、攻撃数も絞っている――素人の私はそんな印象を受けました。それもあって、中盤までは対戦相手の薩摩3373選手が劣勢に見えたものの、途中、何かが崩れる瞬間があったんです。ある一撃が佐々木選手に壊滅的なダメージを与え、それを機に形勢逆転したかと思える時間が続きました。勝利への確信が生まれたのか、3373選手の背中がどんどん大きく、しゃんとして見えてきました。勝てる、いける、と思考を切り替えた戦う男は、見た目から変わるんだなと思いました。ほんの一瞬、一発の攻撃がかくも命取りになるのか……とドキドキしながらリング上を見つめ続けます。ただ、結果的には佐々木選手が淡々と巻き返し、判定勝ちとなりました。

M-ONEから得たこと、自分なりに考えて解釈したことがいくつもありました。たとえば1つめは、強さとは、どんなに怖くても、不安を抱えても、立ち向かう姿勢であること。戦い続けようとする姿勢であること。「諦める」という選択肢を捨て去ること。顔周りに打撃を受け、流血したら、また殴られるのが怖いと思って当然です。再び痛みを感じる恐怖を感じるのは当たり前。それでも向かっていく選手たちの姿は神々しく映ります。

2つめは、感情を制御できるスキルが、強さにつながること。熱い思いや勝ちへの欲を抱えているはずなのに、それでもどこか飄々としていて、冷静沈着で、触ると冷たそう――それが強い選手たちに共通して見える特徴のように思えました。自分の心を自在にコントロールするのは難しい。ただ、心の状態が体、動きにもおおいに関連しているのだろう、と感じさせられたのでした。

本当に、楽しく、記憶に残る数時間でした。一緒に行った友達とは、いつも文化系のお出かけ(映画、音楽ライブなど)ばかりですが、ムエタイを思いのほか楽しんでいたようで、いろいろと感想を語り合えたのも良い思い出になりました。

戦いを観て、考えて、感想を共有し合う。これからもそんな活動を続けていきます。

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