職業、女。#6 20代女が「奢ってほしい」から卒業する瞬間
私「美味しいですねぇ」、男性「美味しいですねぇ」、私「美味しいですねぇ」……って、会話成り立ってないぞ!?
当時22歳の私は、5歳上の商社マンと恵比寿にあるタイ料理店で、激辛料理と格闘しながら汗ばんでいた。なぜ彼は「美味しいですねぇ」しか発さないのか、と脳は冷静に回転している。
楽しくない、気詰まりな2時間だった。会話は全然弾まない。彼は私が口にした何かをオウムのように繰り返すだけ。
にも関わらず、男性と3回会ったのには、意地汚い理由がある。学生の私に美味しい食事を奢ってくれたからだ。社会人になったのを機に、彼とは疎遠になった。
手取りで25万/月ほどもらえる生活になっても、同じことを繰り返していた。ごちそうしてくれる男性がいるなら、進んでデートするという、ヒモみたいな考えがあったのだ。
楽しい相手ばかりではない。酔うと説教くさくなる人、さわってくる人、会話が続かない人……原則「来る者は拒まず」の精神で応じていた私にも非はあるが、苦行に近いデートもたくさんこなしてきた。
そんな中、ふと気づくのである。帰路の電車で、窓に映る自分の顔に覇気がない、と。続いて、時間を浪費した感やムダな酒を摂取した感、早寝し損ねた感など、様々な負の感情に飲み込まれそうになる。
「奢ってもらえるから」という理由で、誘いに応じるのをやめたのは、25歳頃だ。たとえ素晴らしい料理を食べるチャンスがあろうと、疲れたり、後悔したりするなら、自腹で食べるほうが何倍もいい、と知ったから。
何を食べるかではなく、誰と食べるか(とはいえ、美味しいものを求める心は人一倍強いけれど)なのだ。遅ればせながら大切なことに気づけてよかったと思う。
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