足し算と引き算でつくる異世界! byカルロ・ゼン
足し算と引き算。
言ってしまえば、考え方は家電と同じです。
例えば、
地球+魔法=『現実の世界とは異なる地球』
と一瞬でできちゃう。
或いは、
地球-猫=『猫のいない世界』。
迷い込んでしまうことだって可能です。
特別製をお望みですか?
勿論、『オーダーメイドが良いんだ!』というカスタマーもいらっしゃるでしょう。こちらのお客様向けには、創世記というマニュアルが知られています。
ステップ1:天と地を作ろう。
ステップ2:空で区切ってみよう。
ステップ3:大地と海を作ってみよう。
ステップ4:天体の設定をやってみよう。
ステップ5:生き物を創造してみよう。
ステップ6:主人公を作ってみよう。
ステップ7:有給休暇を習得しよう。
ただ、昨今はより詳細なアナ―ル学派アプローチや、内面を重視する以下略などとの細かなアプローチが学術的にはあり得ますが……今回はさておきましょう。
『ユーザーフレンドリー』
往々にして設計者が忘れてしまう大切なものです。
大半のクリエイターにとって、『立派な異世界』作成は最終目的地ではありません。(※明日から天地創造とかのご予定がある方を除く)
それは、舞台として位置付けるべきものです。
舞台を作り、登場人物を登場させ、時にバックミュージックを提供し、或いは観客との一体感を創造し、エンターテインメントを提供すること。
言ってしまえば、舞台というのはそのための『道具』です。
幼女戦記のシンプルな世界(ライトノベルに相応しいシンプルさの秘訣とは)
自分の書いた幼女戦記を例に少し説明させてください。
幼女戦記の世界は(細かなディテール・いくつかの調整・設定に際して組み替えた諸要素を別とすれば)
現実(近現代)
+魔法
ー小ドイツ主義
というたった二つの調整で構成されています。
シンプル!
ラノベ的!
出来上がったものは
・魔法がある異世界で、HRE以上の面積を持つ統一国家。
ここに細かな風味付けとして
+IF:もしも第一次世界大戦が起きないまま1920年代の世界であれば?
ー複雑すぎる要素/細かな歴史的潮流の省略
+キャラクターに合わせての誇張した最適化
というささやかな調整を試みました。
まぁ、ぶっちゃけると
『細かな調整』というところに僕の匠としての技が光る(はず)
ということも言えなくもないのですが
実際には
『後知恵で弄った』
ところもたくさんあります。
なにしろ、最初にWEBに投稿した時は見切り発車です。
で、100話で無事に完結良かった良かった……を書籍化したので、実は何度も調整する機会があったものですから。
①思い付き→受肉。
②受肉したもの→再調整
③書籍版幼女戦記→まるで、完璧な異世界だ(自画自賛)
というように、尖がっていたり、荒かったりする部分をざっく、ざっくと鑢掛けする機会が多かったのは幸いでした。
結論としては、一つ足して、一つ引いただけでも、チマチマと小改修するだけで立派な異世界として舞台の役割を果たし得る……なんて思います。
一応、裏付けとなる知識やら何やらがあるにはあるんじゃよ……とかなんとか、みっともなく自己アピールもしておきますが、基本的なものとしては実にシンプルです。
幼女戦記はラノベです。その辺、よろしくお願いいたします。
『異世界テンプレ』という複雑なやつ
幼女戦記がラノベでないというフェイクニュースも世間様にはありますが、より世間一般でラノベと見なされる異世界系も見てみましょう。
『異世界テンプレ』と言われるファンタジー世界の方がよほど『複雑』と言っても過言ではありません。
現実(近世的)
+魔法
+種族/モンスター
+ギルド制度
と足すものだけでも、幼女戦記の三倍!
更に、ここから何を足して、引くか? というクリエイターさんの個性が煌めくところになります。
例えば、
+『地球の存在』
+『絶対王政』
或いは逆に
―『絶対王政』
でも、お好みで。
複雑怪奇と言うしかない。
でも、これでも、ラノベ。
と言うわけで、幼女戦記=ラノベ。証明終了。
さて、脱線はこの辺に。
色々なアプローチがあり得ることはご覧の通りです。案外と似て非なる世界として多様性も確保し得るのは間違いありません。
同時に、この『テンプレート』には他にない強みがあります。
なにしろ、デファクトスタンダードです。
『書く人/読む人』にとって、馴染みのあるフレームワークの重要性は、いくら強調しても強調したりないもの。
ガラケーから、スマホに乗り換えた方、
大半の方は
『スマホって便利だな。これはいい』
と
『慣れたら』
思うことでしょう。
でも、実家の両親に『スマホに変えなよ……』って説得するのがどれほど難しかったことか。
一旦変えちゃうと、『こっちの方がいい』とかなんとかで、今やnetflix会員となって、趣味の映画を見ているそうですが……
iPhoneが登場したばかりの時、だと『こっちに変えない?』というと『なんで変える必要が?』というような反応が多かったものです。
ぶっちゃけましょう。
革新的なものであっても、『新しいカテゴリー/馴染みのない物』について面白さを説明し、それを堪能してもらうには容易ではありません。
舞台に技巧を凝らし、それを『堪能していただく』というのは作り手側としては腕の見せどころではあります。
大きな嘘はよし、小さな嘘はダメ。
ただ、それは、舞台裏のお話だと思います。
こんなに資料読んで、こんなに頑張って建築した劇場だから、面白いでしょう! ってやってもあれげ。技術的には優れているんです! っていっても、UIやらのデザインに配慮がないとあれげ(自己批判込み)
というわけで、異世界を作るとき、『直感的に他者が理解できるか?』という視点と合わせて足し算・引き算を使うだけでも色々と面白いことができるのじゃないかな……と思う次第です。
掛け算、割り算、はたまた専門的な知見の数々を放り込めば、もっと面白いこともできるでしょう。
でも、異世界を創造する最初の第一歩としては足し算ないし引き算でも十分です!
※追伸
もとにする『現実』の把握度合いと、誇張・省略により完成度に差がでる部分でもあります。この辺は、実際にやってみるとなんとなーく、自分流が見つかるんじゃないですかね。