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涙が出るような、のその先へ

4月7日のブレックスアリーナ宇都宮。
前日同様、黄色に埋め尽くされたその場所は熱狂と歓喜で揺れていた。
19連勝を記録し、20連勝の大台がかかったこの試合で、ブレックスは久々に第4Q終盤までビハインドを背負う苦しい展開だった。
12月6日の水曜秋田戦の記憶が脳裏にちらついたファンも少なくないだろう。私もその1人だった。

ここで少し自分語りをさせてもらうと、私は昨年の8月末までバスケのバの字も知らぬ人間だった。
宮崎監督の新作映画が出るというので、優雅に有休でも取って観に行くかと思っていた時にある友人から「私のおすすめの映画がもうすぐ上映終了しちゃうから観てほしい。」と勧められた。
その映画は言わずもがな井上雄彦先生が監督を務められた『THE FIRST SLAM DUNK』である。
終演3日前に観たが、終演日にレイトショーに駆け込みたいと思うぐらいの勢いでこの作品に、そしてバスケットボールというスポーツに圧倒された。
もちろんそんな簡単にレイトショーが観に行ける環境ではないのもあり、8月31日の最終上演を見ることは叶わなかった。
その代わりと言ってはなんだが、仕事から帰宅した私が目にしたのがあのベネズエラ戦だった。
もっとも、初見時は河村勇輝にしか目が行かず、一緒に観ていたバスケ経験がある父に「河村くんすごいね!」などと話しかけたところ「あの最年長の比江島?が凄いんだ。」と返され、そこから私の世界に比江島慎という存在が彗星の如く現れた。この話をしはじめると長くなってしまうので、またどこかの機会に取っておくこととする。
バスケットLIVE(以下バスライ)を登録し、Bリーグの試合を観戦し、あれよあれよという間にその魅力に引き込まれた私はついに初めてのホームゲーム観戦に行くことになる。

それが、12月6日にブレックスアリーナで行われた水曜ナイトゲームの秋田戦だった。

結果はブレックスファンの方なら誰もが知っているだろう。現地で観ていた人間としては、前半から点差ほどにブレックスが圧しているとは思えないほど秋田ペースの試合だった。バイウィーク明け初のナイトゲームということもあり、選手たちの疲労の色も濃く、後々比江島のラストプレーに対して心無い声も散見された。

バスライで夢に見ていた、試合後の選手たちのコート一周お手振りは、苦い記憶として今も私の頭にこびり付いている。

不思議なもので、目の前で敗戦を経験した後、私はよりこのチームのことを応援したくなった。その後も、片道3時間の鈍行を乗り継ぎ、可能な限り宇都宮に通った。秋田戦以外にも、幾つかの悔しい黒星を経験しながら、チームはその悔しさを糧に成長し続けてきた。
試合後はほぼ欠かさず佐々HCと選手たちの試合後会見をみた。
バスケ経験者ではない私は素人なりに、実際にコートに立っている選手と、組織作りをしているHCの言葉から"彼らが目指しているバスケットボール"を知りたかった。烏滸がましくも、彼らが見ているその先にあるものを一緒に見てみたかった。だから、発信される言葉を追い続けた。
ずっと追ってきた彼らの言葉の中でも印象に残っているのが、FE名古屋戦game2の試合後会見で渡邉裕規選手が発した「応援していてもワクワクしたりとか、涙が出るようなハッスルプレーをチームとして作っていく」という言葉だ。
佐々HCをはじめブレックスの選手たちは、試合後会見等でファンに対して言葉を贈ってくれる機会が多い。観ているこちら側に対して、自分達がこうあるべきという責任感とプライドがあるからだろう。
たくさんの言葉を尽くしてくれる彼らに、私たちファンができることはただ応援することしかない。声援を送り続けることしか出来ない。

4月7日もそうだった。

第4Q残り時間3分を切ったところで、24秒バイオレーションで自分たちのポゼッションとなったが、得点することができずその裏で相手に3Pを決められ、残り1分59秒で6点差のビハインドを背負っていた。

頭を過るのは、あの12月の水曜ナイトゲーム。

でも、それでも。
開幕から4月現在まで、約7ヶ月間彼らのバスケットボールを観続けてきて、絶対このチームは負けないという確信があった。
MCのセキさんに煽られ、会場の声援は一体感を増していく。もはやほぼ叫んでいるような、お世辞にも綺麗とは言えない声を張り上げ続けた。

まず、比江島慎の相手選手に対するディフェンスがターンオーバーを誘発させた。直後のポゼッションでニュービルが3Pを決める。秋田はファウルが嵩んでいたため、フリースローでも地道に点数を重ね、気づけばこの時点で1点ビハインドまで詰め寄っていた。
そしてこの日この局面までゴールに嫌われ続けていた、遠藤祐亮の逆転3P。

もうこの時には、私の視界は涙で歪んでいた。
しゃくりをあげながら、熱狂するアリーナの景色と自信に満ちた選手たちの表情に胸がいっぱいになった。
声援を届けることしか出来ないけれど、目の前の彼らの姿に、少しでもその背中を押せている実感があった。

この7ヶ月間、どんなに苦しい状況に立たされても、悔しい気持ちをぐっと噛み締めて、その逆境を糧に一つ一つ試練を乗り越える彼らをずっと見てきた。
体の中のものが全部出そうなほどの悔しい敗北も、涙が出そうなほどの感動的な勝利もあった。

「応援していてもワクワクしたりとか、涙が出るようなハッスルプレーをチームとして作っていく」

シーズン最終盤、成長し続けてきた宇都宮ブレックスはまさしくそういうチームに為ってきた。
久しぶりに嗚咽が込み上げるほど泣いた後、選手たちの試合後インタビューを聞きながら私は思いを巡らせていた。
そういうチームに為ったその先には、どんな景色が待っているだろう。
願わくば、金色の吹雪が降り注ぐ中でとびきりの笑顔で天井を仰ぐ彼らであってほしい。
願わくば、ではなくそれは必然であってほしい。

涙が出るような、のその先へ。
残り10試合、この23-24シーズンが彼らにとって良いシーズンであるように、と願いながら応援し続けたいと思う。


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