【連続小説】騒音の神様 29 盛山、夜勤で働くことに

盛山はいつもの様に朝早く出発して工事現場の仕事に向かう。いつものように出来るだけ体を動かし、重たい建築資材を率先して運んだ。盛山の体はますます逞しくなっていくようで、他の作業員からは「また体ごつなったん違うか。」「太ももも、パンパンやないか。ズボンやぶけへんか、」などと声をかけられる。盛山は「ちょいちょい破ける。今も破けてるし、」と話しながら自分がゴツくなっているのは嬉しかった。実際、股の辺りは裂けていた。時折、いちゃもんをつけては喧嘩を打ってくる者に対しては躊躇なく攻撃する。今日は、手押し車を盛山の足にぶつけておいて謝りもせずにからんでくる奴が現れた。「お前のせいで、砂利こぼれてしもたやないか。喧嘩売っとんのか、しばいたろか、かかってこんかい」と言う分かりやすい喧嘩の売り方だ。盛山は相手が喋っている最中に掌底をあごにぶち込む。ぐらついた相手の作業服の襟首をつかみ引き倒す。手のひらを相手の顔面に押し当てて「まだやるか」と落ち着いて言うと相手は、「やらん、やらん、」と言葉とぶんぶん手を振って必死でゼスチャーする。盛山は自分でヒジ討ちを出さなかったことに驚いたが、なんとなくヒジ討ちは神様との戦いにおいておこうと思っていた。「まあ、ええか。」そんな曖昧な言葉を口にしつつ、盛山はいつもの日常を済ませて夕方になった。トラックに皆を乗せて事務所に帰ると、「おい、盛山。あしたから夜勤行ってくれへんか。お前が行ってくれると助かるんや、」と仕事を割り振りする男が言う。盛山は「ええですよ。」と即答した。神様は常々「盛山君の仕事優先で。」と言ってくれているので盛山は躊躇なく返答した。盛山は、いつも同じことより何か変化があった方が良いと思っている。仕事を割り振りする男は盛山の素早い返事を聞いて喜びながら「ありがとう助かるわ。日当あがるさかいな、」と言った。盛山はそれを聞いて素直に嬉しかった。盛山はたくさん働き、しっかりお金を貯めている。収入が増えるのはやる気がでる。盛山は、夜働くのが楽しみになった。そしてそれは、万博への遠征が日中になることを意味している。「昼の万博工事は、賑やかやで。暴れがいがある。強い奴も絶対おる。」盛山の楽しみが膨らんだ。

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