貴方は新米冒険者を見た
うちの人々でやってみました。
ソフィアさんのケース
「あの、旅のお方ですよね」
不意に聞こえた人の方に斧術士が目をやると、木立の間に若いヒューランの娘が立っていた。橙色の編み込み髪にリビエラドレス姿。手には山菜を詰めた籠。地元の住民であろう。
「そうだが、何か?」
「この先の谷底には恐ろしい魔物がおります。とても危ない場所なのです」
村娘の真剣な訴えに、斧術士の後ろにいた弓術士が陽気に返した。
「なぁに、おれたちゃそいつを討ち取りにきたんだ」
「でも」
格闘士が続ける。
「アタシらの腕をみくびってもらっちゃ困るね。平気平気」
幻術士が諭すように続ける。
「あの魔物がいなくなれば、あなたも安心して森に入れるでしょう。お任せください」
「そう言って帰って来なかった方を山ほど見てまいりました。どうか引き返してください」
悲痛な表情の村娘の頭を、斧術士の大きな手が優しく撫でた。
「なら、我らこそが帰還する最初の一行となろう。いくぞ、お前たち」
応、と一行は声を上げ、冒険者たちは村娘を置いてずんずんと谷底へ続く道を進んでいった。村娘は彼らが見えなくなるまで立ち尽くしていたが、やがて大きく息を吐くと懐から小さなクリスタルを取り出した。
「——まぁ、わたしも同じ立場だったら引き返しませんね」
ばしゅっ
瞬きほどの間に、村娘の姿は白いディフェンダーコートを纏った姿に変わっていた。茂みから顔を出したチョコボの荷袋に山菜籠を仕舞うと、騎士は気配を殺しながら斧術士一行の後を追った。
◆◆◆
騎士が崖の上から谷底を見下ろすと、予想通り魔物に追い回される冒険者達が居た。鎌を持ったあの妖異はA級モブ、ファルネウス。ソウルクリスタルを持たない冒険者では、とてもではないが敵う相手ではない。まだ五体満足で持ち堪えている事が奇跡である。
「これはこれで、皆さんの冒険です」
騎士はじっと谷底の戦況を見やる。倒れた幻術士を格闘士が抱え起こし、それを斧術士が守ろうとする。だが無常にも斧は弾き飛ばされ、その鎌がいよいよ斧術士の命を刈り取らんとしていた。
「——が、ここまでです!」
騎士が腕を振り下ろす。その瞬間、妖異の鎌を持つ腕が斬り飛ばされた。光り輝く剣が、天から降って来たのだ。斧術士はその瞬間、時が止まったように感じた。目の前で、斬り飛ばされた妖異の腕がゆっくり回転している。そしてその静止したような時間の中、自分と妖異の間に、橙色の髪の女が割り込むのが見えた。
——ばかな、速すぎる。
橙色の編み込み髪の女は、斧術士に振り向き、確かに笑った。
——おまえ、まさか
「フラッシュ!」
まばゆい閃光が辺りを包んだ。斧術士の意識はそこで途絶えた。次に気付いた時、彼はベッドの上にいた。近くの集落である。仲間も無事だった。彼はあの村娘を探したが、そんな風体の娘は村にいないと誰もが口を揃えた。やがて一人の村人が新聞を手渡して来た。何ヶ月か前の日付。アラミゴ解放を伝える記事。そこに描かれた挿絵に、あの村娘が居た。——光の戦士が。
【了】
イズミとラディのケース
「お姉様、あの人たち、やばくないですか?」
「知らない」
イズミはラディの問いかけに構わず、焚き火のそばで寝転がっている。
「見ての通り、仕事明けで私は疲れてるの」
「いやいやいや!あの人たち、装備とかすごくしょぼいですよ!このまま進んで行ったらAモブの餌食です!」
「放っときなよ……。そんなやつら、今助かってもそのうち死ぬって」
「そっ、それはそうかもしれませんけどぉ……」
「じゃあアンタが助けてやればいいじゃない。報酬も無いのに動いてたらこの稼業やってらんないよ」
「……あっ!言ってる間に戦い始めましたよ!うわぁ……ひゃあ!あぶなぁい!」
ラディは双眼鏡で戦場を見やる。予想通り、ひどい有様であった。
「うるさいなもう!」
イズミは苛立たしげに起き上がり、ラディから双眼鏡を奪って戦場を見た。逃げ回る冒険者達を追い回す、A級モブの妖異、ファルネウスが見えた。
「なんだ、妖異がいるじゃん」
「……お姉様?」
「ラディ、私の異名は?」
「玄関で寝がちのイズミ?」
「そうそう、泥酔してても部屋まで帰り着けるだけえらいだろうって違う!」
「妖異狩りですね」
「そっちだよ。あんたも言うようになったね」
「えへへ。それほどでも」
「褒めてないよ。じゃあ、ブッ殺すか」
「お供しますねー」
イズミは愛刀を抜き、ラディは弾倉に弾を込めた。殺戮者のエントリーだ!
【了】
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