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The Colors

SEKAI NO OWARI ツアー2019 《The Colors》
@さいたまスーパーアリーナ Day1

今ツアー待ちに待った初参戦。Twitterをログアウトし、メンバーの投稿も一切見ずに徹底的にネタバレを回避し続けた2ヶ月。ステージセットも知らない。衣装も知らない。セットリストも知らない。何も前情報無しにただひたすら音源を聴き漁る日々を乗り越え、やっと辿り着いた。セカオワのライブはメンバーが登場する瞬間も勿論楽しみだが、そもそも会場に足を踏み入れる瞬間がまず楽しみである。しかし今回は、会場に入っても見上げるような建造物も無ければ、何か大きな仕掛けがあるわけでもなかった。200Lvの真後ろ。演出全体を見渡せる席に静かに座る。今思えばこの200Lvは凄く有難い席だった。なぜかと言うと、全く"仕掛け"に気付かない席だったからだ。スタンド席からの景色は"ただメインステージがあるだけ"に見える。無知とはたまに幸せだったりもする。 

定刻を少々過ぎ、場内アナウンスが流れた。そして真っ暗になった会場に、何かと怪しい割れたビートが流れる。すると客席だと思っていた会場中央に檻のようなスクリーンが光った。ここで初めて真ん中にスクリーンがある事に気付く。更によく見ると、スクリーンの中を人が歩いていた。よくわからない仕掛けに動揺していると、繊細で妖艶なギターフレーズが鳴り響く。同時に、会場中央にはスクリーンに囲まれたセンターステージがあること、スクリーンの中にメンバーが立っていること、1曲目は「DeathDisco」であったことに気付かされた。衝撃の3連発。(1曲目が「Death Disco」はかなり珍しい。)DJ LOVEが昨年のFCツアー同様にドラムを叩き、Fukaseは両手をあげてくるくると回る。 

花道を渡ってメインステージに着き、届けられた2曲目は「Witch」。Fukaseは目をカッと見開き、身振り手振りをしながら狂気のラップを落とし込む。Nakajinの《もしかして僕らが加害者!?》というフレーズは音源よりも迫真な叫びで、それに対して嘲笑うFukaseの姿にはゾッとさせられた。序盤からエンターテイメントと現実の間を渡り歩くようなパフォーマンス。ピンクの縦のライトが四角く浮かび上がった照明と演出は檻に閉ざされた空間のようで、何かに囚われている様子を表しているように思えた。

アッパーな2曲で勢いをつけたところで、優しいSaoriのピアノが鳴り響く「眠り姫」。驚いた。ここにくるか。思えばもう7年も前の曲になっていた。ただ、ここでFukaseの歌唱力が桁外れな成長を遂げている事を感じる。音楽に詳しくない素人な私でもFukaseの声が軽々と遠くに飛び、それでもウィスパーボイスは守るという意味のわからない技を繰り出してることに気付いた。そして、ファンの腕に着いたスターライトリングが炎の如く真っ赤に光る「MonsooNnight」が続く。Fukaseが《Monsoon nights are gonna get you so?!》と叫ぶとオーディエンスがすぐさま「high!」と返す息ピッタリの掛け合いもあり、ツアーも折り返したということで完璧にライブが完成してきてるなと感じた。

そして、Nakajinの挨拶代わりのMCを挟む。「来てくれてありがとう」という感謝、「LipとEyeをリリースしました」という改めての報告。そして「ラブさんがドラム叩いてます!」という紹介。力強いドラミングはどこか素朴だけどかっこよかった。そして「僕の曲をやってもいいですか?ちょっとSEKAI NO OWARIにあまりない感じの曲を作ろうと思って作りました。」と「ドッペルゲンガー」 を歌い始めた。Fukaseは姿を消し、ライトは3人に当たる。存在感のあるエレキギターの音に、Nakajinの美しい声が乗る。歌に合わせて身振り手振りをしながら歌う姿がどこか色っぽく、Nakajin個人の魅せ方も凄く変わっている気がした。間奏ではいつもの下手の位置から、フロントマンが立つスタンドマイクの前へ緩やかに歩く。完全にスリーピースバンドの形態になり、少し微笑ましい光景。そしてアウトロでギターを掻き鳴らしながら花道を歩き、1人でセンターステージに到着。 

「もう1曲歌っていいですか?」といつの間にかアコギにすり替え、Nakajinのもう1つの曲、「Goodbye」が届けられた。Fukaseが泣いてしまうという「Goodbye」の優しいメロディは私の目頭も熱くした。スポットライトを浴びるNakajinの姿を観客は暖かく見つめていた。天才、才能、運命というより、日々の努力をただひたすらに積み重ねてきた彼。「ファンとは言えど、あなたの並大抵ではない努力を知っているよ」と言わんばかりの包み込むような空気感。何ともNakajinらしい、人間味溢れる曲に会場は大きな拍手で包まれた。

そんな空気感を引き裂くように、痛烈なビートが響く「Food」が次に鳴らされた。姿を消していたFukaseがステージに飛び込み、手を広げ、右から左へと動き回ふ派手なパフォーマンスを繰り広げる。間奏では花道にてダンスを披露。昨年のツアー「INSOMNIA TRAIN」では多くのダンサーとのコラボだったが、今回はたった1人でのカメラとの掛け合いだった。ライブバージョンにアレンジされたビートに、操られるように上手く体を動かす。「INSOMNIA TRAIN」から本格的に変わり始めたFukaseのフロントマンとしての意識。パフォーマンスのクオリティも上がり、歌い方や魅せ方、佇まいも大きく変わった。サビでは派手なリリックムービーが流れ、会場は大合唱。最後はニヒルな笑みを浮かべて暗転。1発ドカンとかました嵐のような1曲だった。

興奮冷めやらぬ中、Saoriがセンターステージで話す。素敵な衣装を披露する場面も。そして昨年生まれた子供を育てながらアーティスト活動をする大変さや、その時助けてくれたメンバー、スタッフへの感謝の気持ち、そして新しいマネージャーとさいたまスーパーアリーナの思い出などを語り、次の曲へ。「次の曲に入ろうと思うんですが、ちょっとアッパーな曲です!大丈夫ですか?」とタイトルコールされたのは「Mr.heartache」。場内がカラフルな光で埋め尽くされ、いつの間にか姿を消していたFukaseの声がどこからかする。姿を現した彼はなんと派手な花柄ジャケット花柄短パンの衣装に着替えていて、スクリーンには蝶々が止まったり、舞ったりする華やかな映像が映し出された。蝶には良くも悪くも、楽園、快楽みたいなイメージがある。楽曲の曲調も明るければMVも明るいし、照明もカラフルだ。しかし歌詞はとっても傷付いてる。そこには一筋縄ではいかない感情や切なさが込められているようで、眉毛を下げて力なく笑うような主人公を思い浮かべた。

そして、センターステージにはSaoriとFukaseの2人になった。Saoriのクラシカルなピアノが響く。そしてFukaseから優しく発せられた言葉は《命の並んだ/午前零時のスーパーマーケット》というフレーズ。「illusion」だ。初めて生で聴いたその言葉に、頭が殴られたような衝撃を受けた。ツアー「ENTERTAINMENT」ではこの曲をかなりエモーショナルに叫んでいた。しかし今回はピアノとのアコースティックで、ぽつり、ぽつり、と歌っていく。皮肉のように檻が2人を囲み、深海に住むタコの映像が投影された。《貴方が見ているその世界だけが/全てではないと/皆だってそう思わないかい?》という、自分に問いかけられているような囁きに、ドキッとする。

続いて奏でられた今やライブの定番曲といっても過言ではない「スターゲイザー」では、青いライトが上から下に湧き上がりミラーボールがキラキラと回った。さいたまスーパーアリーナは一瞬にして満点の星が煌めく夜空に。そしてそれを見上げる観客はまるでスターゲイザー(星を見つめる人)そのものだった。そして、4人がセンターステージから花道を歩きメインステージへ戻る間、スクリーンには奇妙な映像が流れた。飛行機内のような空間に、目元が横長の画面の人間が犇めき並ぶ。そこを不気味な足音を立てて通る映像。そしてその足音をビートにそのまま「Eye」のリード曲「LOVE SONG」が始まった。灰色と青の少し廃れた照明にビンテージがかったスクリーン。死んだような空気間に流れるこの楽曲は、情熱的な子供に対する愛の歌。愛の歌を真っ直ぐ届けずに、セカオワなりの方法で届けていく。ストラップを少し短めにベースをかけているFukaseは間奏で割れる低音を這わせた。ネイルや指輪が煌めく指が弦の上を自由自在に駆け巡る。ベースボーカル・Fukase。最強にカッコイイ。 

言い忘れていたが、ステージの後ろには気味が悪い程のテレビが積み重なりひとつの画面を作り出していた。 続く「Missing」では、主人公が"君"を探し回るように、各国の映像が数多くのスクリーンに流れる。印象的だったのは Twitterのスクロール画面だ。今回のライブはセットや演出を含め立体的なものは少なく、表面的な演出が増えていた。しかし、それは今までの巨大な建造物に全く引けを取らない絶大な効果を示した。時代を感じた。物よりデータが中心になっている世界の価値観に合わせ、気味が悪い程に"今"を感じさせる演出だったのだ。それでも心の底から感動してしまう。全てがお見通しのようだ。

物語調になっている楽曲の中盤で、主人公は《これってもしかして…》と気付く。自分が好きな場所に探していた"君"がいることを。そこでFukaseは闇雲に花道を駆け抜け、最後のフレーズを歌いきる。まるで舞台を見ているようだった。 

そして「Missing」から、旅を続けるように夜の横浜を描写した「蜜の月」。またFukaseはベースをかつぐ。横からのカメラのアングルで映し出された映像では、FukaseとNakajinがそれぞれギターとベースを担ぎ、前を向いて歌っていた。よく見るスタンダードなバンド体制の姿だが、不思議な事に、今SEKAI NO OWARIがこれをやると非常に新鮮に感じて特別な画として切り取られる。ドラムがいないだの、ベースがいないだの、散々言われてきた過去。それを乗り越え、DJ・ギター・ピアノ・ボーカルというスタイルでここまで音楽シーンを駆け抜けた。そんな今、昔求められてたスタンダードをやりのけてしまう。彼らは全てのタイミングを熟知していた。変わったことをやっているわけではないのに、新しく感じる。

真っ赤な照明に黒い影を浮かべた「Blueflower」。タイトルとは正反対のカラーだ。Fukaseはステージにある椅子に行儀悪く座り、髪を掲げるように、ダルそうに、リリックを並べた。彼等の顔はよく見えず真っ赤な世界にただ映る黒いシルエット。Fukaseは立ち上がると、重い足取りでステージを練り歩く。終いにはギターを持ち、力なく引きずった。地獄へでも向かうような、その足取りに会場は息を呑む。曲が終わると暗く、でも優しく呟く。「ありがとう」と。

少しの間を置いて、センターステージに2つの椅子が用意され、NakajinとFukaseが向かい合って座った。そしてFukaseは話した。
「最近、友達にもメンバーにも新しい子供が出来ました。(中略)いっぱい遊ぶんですけど、やっぱり子供ってすっごくて。色んなことを聞いてくるんですよ。」と、観客を見渡しながら優しく話す。

「可愛い質問から…、なんというか、僕が答えていいのかなって悩む質問まで色んなことを聞かれるわけです。前に、病気の子に会いました。その時"生きてる目的が分からないんですけどどうしたらいいですか?"と言われました。思うことはあるけど、アドバイス出来るほど長く生きている訳では無いし、価値観というのは時代の流れと共に変わっていきます。僕が正しいと思ったことが彼にとっては正しくないかもしれない。そう思うと、自分が何を言っていいのか分からなくて、悩んだりもしたんです。でも、そうやって考えている時間が、愛なんだな、と思いました。そんなことを考えながら曲を作りました。聴いてください。」
そう話した後にコールされたのは「エデン」だった。

手拍子は抑え、Nakajinと向き合った繊細なエデンが始まった。先に言うが、ここがこのライブのハイライトだった。以前、LINEライブで全曲解説をした時にSaoriが笑いながら「エデン」のことを「最悪のチャラ男の歌」と言っていたけれど、それは完全にフェイクだった。先程も述べたように歌唱力が桁外れに変わったFukaseの声は、小さくても遠くまで飛んでいく。《いっそのこと/僕の心の中を見せられたらいいのにな》《こんなにも君のことばかりなのに》《それは君だって本当はわかってるんでしょう?》《君に出逢う為 僕は生まれてきたのかと/なんて思わなくもないけれど/言わないでおいてる》共感ではなく、言葉に、メロディに、気付いたら涙が零れていた。Fukaseは命に対して、世に対して、どんなことを考えていたんだろう。きっと結論は至らなくて、はっきりと何か1つの言葉を出すのではなく、"言わない"という結果に、"考えることこそが愛"という最高な結果に、辿り着いたんだろう。《僕は君に出逢えて幸せだよ》すごく愛に溢れた時間だった。

そして続く「MAGIC」。あのMCをして「エデン」を奏でた後に「MAGIC」を持ってくるなんて卑怯だ。はぁ…そうくるか、としばらく手拍子も出来ず呆然としていた。「THE DINNER」というツアーで絶大的な存在感を示したこの曲。ツアーが変われば、セットリストが変われば、同じ歌でも全く聴き方が変わる。今度は言葉を伝えた彼。失う切なさ、人生が素晴らしいと感じる気持ち、どちらも命や言葉に精通している。どうしても上手く言葉に表せないのが苦しいが、とにかくこの2曲がライブのハイライトだった。非常に肉体的な時間だった。 そして彼らの名曲「スターライトパレード」が続く。「最後の曲です!」とFukaseは花道に戻り、沢山の星のようなスターライトリングの光とともに歌い上げた。メインステージに戻るとピアノを弾きながら笑うSaori。微笑ましい幼馴染の光景。会場は大きなシンガロングに包まれ、本編は幕を閉じた。 

そして鳴り止まない拍手の中で始まった待望のアンコールでは、1曲目に「DragonNight」を奏でた。歌詞がスクリーンに映り、メンバーはFukase & Saoriペア、Nakajin & DJ LOVEペアに別れ、アリーナを左右から練り歩いた。マイクにはファンの歓声が入り、サービス旺盛な登場となった。そしてステージに戻ったFukaseは「アンコールありがとうございます!」と感謝を伝え、次の曲のエピソードを話した。

「次やる曲は、実はツアー前半はセットリストに入ってなかった曲で。Nakajinが作曲して僕が作詞なんですけど、テレビやラジオで使いづらいと言われていて。折角Nakajinがすごく良い曲を作ってきてくれたから「歌詞変えた方がいいかなあ?」とみんなに相談したら「Fukaseがこの曲に合うのはこの歌詞だって考えてくれたんだから、変えなくていいよ」って言ってくれました。それから僕はこの曲が大好きです。 」そう言って告げられたのは「銀河街の悪夢」だった。MC中、ずっと「Lip」と「Eye」の収録曲を想像していたから、タイトルコールされた時、膝の力が抜けてしまった。この曲は私の1番好きな曲である。

初めて聴けたのな去年のFCツアー「FAFROTSKIES」で、あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていた。しかき今回ばかりはそうはいかなかった。ボロボロに涙が止まらないのだ。喉が詰まって酸素が上手く入ってこない。呼吸が乱れて 涙で何も見えなかった。変わりたくても変われない自分、辛い日々。でもそれは自分のせいだって分かっている。だからこそ辛い。でも、自分の手で人生を終わりにしようとした時に気づく。私は必死に明日を変えようとしていたこと。変えられるのは今日の自分だ。それを教えてくれたこの曲は、初めて聴いた頃からずっと大好きな曲だった。涙で世界がぼやけていたからFukaseがどんな風に歌い上げたかは分からない。アンコールで聴ける日がくるなんて、思いもよらぬサプライズだった。

そして本当の本当のラストは「すべてが壊れた夜に」。ニューアルバムを引っ提げたツアーに相応しく「Eye」の最後に収録されている楽曲でライブを締める。4人が横一列に並び、Nakajinのギターのみで、アカペラに近いくらいのシンプルなスタンスで歌い上げた。Fukaseの体が震えるくらいの力強い声で歌い上げ、オーディエンスを煽る。オーディエンスも大きな太い声で応える。この曲がリリースされてからずっと待ちに待っていた光景は、理想を遥かに超える程に美しく、最高のシンガロングだった。ファンとSEKAI NO OWARI皆で一丸となって歌い上げたあと、Fukaseがラストスパートにオペラ歌手のような声量と声域の広さを披露。ロングトーンで力強い声を出し続ける。彼はいつ、こんなにパワーアップしていたんだろうか?歌手・深瀬慧としての劇的なスキルアップに、ど素人の私でも後ずさりしそうなくらいの圧巻な歌唱力だった。 

こうしてThe Colors さいたま公演 初日は幕を閉じた。
「変わらないために 変わり続ける」
そのバンドスタンスは全く変わってない。だが、勝負所、魅せ方、切り取られる面が変わり、現代の価値観に合わせた圧巻のライブパフォーマンスだった。DJ LOVEがドラムを叩き、Nakajinが1人で歌い、母親になったSaoriは喜怒哀楽様々な表情を魅せ、Fukaseはステージを駆け抜けまくった。1人1人の魅せ方もバンドとしての在り方も大きく変わった。演出もセットも一見縮小したかと思ったが、それは大きな罠だ。一人一人の存在こそが今回の最大の演出、セットだったのだろう。デカさよりもクオリティ。歌唱力、演奏力、グルーヴ。10周年を前にして、唯一無二のSEKAI NO OWARIのライブだった。

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