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【映画】憧れを超えた侍たち

WBC 2023のドキュメンタリー映画を観た。

台本もない。演技もない。仕込みもない。全てがリアルな物語。全身全霊で世界を掴みに行った一人一人の人生全てがドラマティック。

なんでこんなに美しいんだろう。なんでこんなにカッコイイんだろう。なんでこんなに熱いんだろう。なんでこんなに感動するんだろう。最高の感情に何度もなれる濃密な2時間だった。

代表選手選考の段階からカメラはずっと追っていた。指揮官・栗山監督は、最初からずっと「世界一になるために」という本質からブレることなく、一人一人の選手、関わるコーチ、スタッフ、全ての人を心から信じていた。映像で見れたのはほんの一部だろうけど、栗山監督の「信じる力」の凄さや、真っ直ぐに熱い言葉はやはり惹かれるものがある。

そして、代表選手が決まり、いざ始動。

結束力抜群の侍ジャパンがどう作られていくのかが見れてとても面白かった。栗山監督が隅々まで選手のことを気にかけているからか、所属チーム、年齢、歴問わず色んな選手が密にコミュニケーションをとっていく。特に、移動中のバスの中でダルビッシュ有がラフな雰囲気で佐々木朗希に変化球の話をしていたのも印象的だったし、その後の本格指導を経て、変化球の質が変わったと喜ぶ佐々木の姿も良かった。あとから合流した大谷翔平は丁寧に一人一人の名前と年齢を聞きながら挨拶して距離感を詰めていき、ラーズ・ヌートバーは持ち前の明るさで言語の壁を超えていった。

未だに各種SNSで侍ジャパンメンバー同士のやりとりを映した動画が人気だが、名物にもなったチームの良い雰囲気が作られていく様子はすごく気持ち良いものがあった。

そして、バンテリンドームでの強化試合で特筆したいのは、大谷が体勢を崩して膝をつきながらも打球をスタンド放り込んだシーン。すごいホームランだった!ということを言いたいのではなく、ベンチに戻ってから「もうちょい盛り上がってほしいな。なんか、ファン全然盛り上がらなくない?」と言っていたこと。

ヒーローインタビューで「まだまだ声援が足りないので、もっともっと声援を宜しくお願いします!」と笑顔で観客を沸かせた大谷を見て「あぁ、この人は日本まるごと抱き抱えて世界一になるつもりだな」と思った。世界の舞台をよく知る大谷。「自分だけが活躍すればいい」ではなく、「チームメイト皆で」という考えに留まることもなく、応援してくれているファンの力の必要性を知っているからこそ、日本国民全員を「世界一になろう!」という気持ちにしてくれる。大衆の気持ちを熱くさせられる。世界のスーパースターたる所以が、よくわかるシーンだった。


第1次ラウンドでは源田壮亮位の怪我、栗林良吏の離脱などのハプニングの裏側を通して、一人一人の「日本を背負っている」という意識の高さをビシバシと感じた。自分に出来ることを考え、ピンチでも不穏な空気が流れることはない。全員が向いている方向が同じで、前へ前へと向かっている。栗山監督がキャプテンを置かなかった意図が、狙い通りチームの団結力を引き出している気がした。

そしてマイアミで開催された準決勝、メキシコ戦。スリーランホームランを浴びて降板した佐々木朗希が泣いてる姿は胸が締め付けられた。ロッテファンである私の勝手なイメージだと、チーム全体が佐々木朗希に一目置いている雰囲気を強く感じる。だが、やはり各球団のエースが集まると彼もまだ若手。打たれてもダルビッシュが拍手して鼓舞してくれたり、源田が励ましの声をかけてくれたり、と頼もしい兄貴たちに囲まれる姿を見て、もっと強くなるんだろうな、と思った。悔し涙を流す佐々木朗希を通して世界の舞台の重さをひしひしと感じた。

その後、岡本和真のホームラン性の当たりもファインプレーで捕られ、結果を知っていても手に汗握る時間が続く。そして、甲斐と源田の素晴らしい守備で盗塁を阻止し少しずつ流れを持ってくると、メジャー移籍のタイミングでも強い意志でWBC出場を決めてくれた吉田正尚が、起死回生の同点HRを放り込んだ。喜びに溢れた戦士達は力強く抱き合いながら興奮を露わにし、その後、佐々木朗希は「良かった」と安堵の言葉を吐きながら涙を流した。

伝説となった9回裏。村上宗隆のサヨナラのシーンは感動を何倍にも増幅させる映像だった。打った瞬間、無音になった。村上の表情、打球の行方を追う二塁上の大谷、飛び出すベンチ、それらをマルチアングルで無音で映す。そこから爆音の大歓声と共に勝利の瞬間が再生された。あの時の感動が映画の演出相まって何倍にも膨れ上がり、全身鳥肌が立った。侍達はこれでもかというくらい叫び、飛び跳ね、拳を突き上げ、抱き合った。その中心には、村上。対するメキシコベンチは項垂れていた。スポーツの世界には勝ち、負けがある。野球は一球でそれがひっくり返る。感動と残酷さが混ざった球場の空気が、スポーツの面白さをより濃く伝えていた。

これがまだ準決勝だからすごい。
決勝戦。侍達は騎手の大谷に続いて入場した。日本の国旗を持つ大谷の姿は、すごく胸を打たれるものがあった。世界的スーパースターが、母国、日本を背負って戦う。同じ国に生まれたことを誇りだと思った。

そして試合は終盤、ダルビッシュからの大谷というゴールデンリレーが実現。中4日登板となってしまう為、栗山監督は本人たちから「投げます」と言ってくるのを信じて待っていたという。そして、決勝当日に本人達は監督に意思を伝えた。そんな夢の投手リレーは最後、大谷翔平 vs マイク・トラウトという漫画でも書けないような結末もセットで実現した。こんな試合をリアルタイムで観れただけでも、自分の人生が伝説だな、と思ってしまうほどだ。



『唯一無二、泥だらけのクローザー』

二刀流を象徴する、素敵な言葉だ。
大谷翔平のピッチング、バッティング、ベンチでの声掛け、発する言葉、他人に向ける表情、ブルペンとバッターボックスの往来、選手間のコミュニケーション。一挙手一投足が凄すぎて、同じ日本人というだけで自慢になってしまうようだ。

映画の序盤に、時代を感じるシーンがあった。それは王貞治と大谷翔平が握手して会話してるシーン。きっといつか、大谷翔平も引退し、年を重ねて、未来のスーパースターと握手する日がくるんだろう。このWBCを見て目を輝かせた少年たちがその『憧れを超える』時がくるんだろう。あっという間に時代は変わっていく。大谷翔平も歴史上の人物になっていく。歴史に大きく感動を刻み込んだWBC 2023、ずっと忘れたくない。

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