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思い出の地、代々木にて3年ぶりの歓声に包まれた[Alexandros]ツアーファイナル代々木公演(1日目)

[Alexandros]が8枚目のアルバム『But wait. Cats?』を引っ提げて全国各地19会場23公演を駆け抜けた。夏から秋にかけてはホール公演。秋から冬にかけてはアリーナ公演。それぞれセットリストや演出を変え、様々なアプローチでオーディエンスを盛り上げ、『But wait. Cats?』を最高の作品として磨き上げた。

そんなツアーの最終地点は、彼らにとって思い出の場所、代々木第一体育館。遅咲きのデビューだった[Alexandros]は、長い下積み時代に代々木公園で路上ライブをしていた。目の前の代々木体育館を見ながら「いつかは俺らも絶対あそこでやってやる」と思い、誰も聴いてくれなくても気にも留めなくても歌い続けたという。キャパシティとしては、スタジアムまで埋めつくしてる彼らにとってもはや小さいくらいだが、彼らの歴史としては感慨深いものだったはずだ。更には新型コロナウィルス感染症予防対策ガイドラインの緩和により、「声出し」が解禁された一発目のライブということも重なって、とにかくメモリアルな夜に。本記事では、ファンにとっても[Alexandros]にとっても特別な夜、代々木公演1日目の様子をお届けする。

[Alexandros]のSEとしてお馴染み『Buger Queen』の5カウントでライブが幕開けると、『Aleatoric』のかっこいいライブセッションを挟んで1曲目の『Adventure』へ。〈以前どこかでお会いしましたか?〉という冒頭の歌詞は路上ライブをしていた過去の自分たちに投げかけるようにも聞こえてグッときたし、何よりシンガロングパートがある『Adventure』を1曲目にもってきてくれた粋な計らいに早速涙が止まらなかった。声を出すことにどこか臆病になっている自分が悲しくて、それでもやっと大好きな歌を歌うことができたことが何より幸せで、周りからも声が聴こえるのが嬉しくて、それを幸せそうに聴くメンバーの顔が美しくて。それぞれが心の中で溜めてきた3年分の声が解放された時、会場内はすごく感動的な空気感に包まれた。

そこからは『Baby's Alright』『Waitress,Waitress』『無心拍数』と新旧織り交ぜながらボルテージをガンガンにあげていき、「尊敬しているロックバンドにリスペクトを込めて!」と、AC/DCの『Back In Black』、レニー・クラヴィツの『Rock And Roll Is Dead』、GUNS N' ROSESの『Paradise City』のカバーを披露。多国籍な[Alexandros]の音楽ルーツをひしひしと感じる最高に愛溢れたパフォーマンスと、自分たちの敬愛する音楽を思いっきり演奏する彼らが無邪気で非常にかっこよかった。いや、本当に、本当に、かっこよかった。

そこから『クラッシュ』を届け、続く『You're So Sweet & I Love You』では声の聴こえる客席を嬉しそうに見ながら4人で花道を歩き、センターステージへ移動。白井眞輝(Gt.)も3年ぶりの歓声に「泣きそうだね」と嬉しい感想をこぼした。そして川上洋平(Vo/Gt)が「東京に似合うバラードを」と一言添えて歌ったのは『City』。(全然バラードじゃないところも彼ららしい)。初期の"自分が何者なのか分からなくてもがいてる感"が詰まってるこの曲を、葛藤の味がするであろう代々木の地で鳴らしていることにすごく胸が熱くなった。聞いているこっちがハングリー精神掻き立てられる、そんな名曲だ。

[Alexandros] official Instagram(https://www.instagram.com/p/Cl3sVZ-pJWv/?igshid=YmMyMTA2M2Y=)より

そして「次もバラードを…」と超キラーチューンの『Kick&Spin』を盛大に演奏し(どこまでも彼ららしい最高の”バラード”だった)、続く『どーでもいいから』はスクリーンに映し出されたリリックムービーが、まるでクリームソーダを売りにしているレトロなカフェの看板のような字体で、洒落た楽曲にピッタリだ。そして川上と磯部寛之(Ba/Cho)の掛け合いが最高に痺れるヒップホップナンバー『Kaiju』は、お互いの脈拍まで共有してないと出来ないんじゃないか?というくらいの完璧なグルーヴで会場の心を鷲掴みに。スクリーンにはLINEのトーク画面のような映像が映し出され、2人の掛け合いに合わせて歌詞が吹き出しとなって送信されていく。凝った演出がバッチリとハマり、チーム[Alexandros]の”全員演者感”に感嘆とした。(たまに照明チームのソロパートすら感じる時もある。)

そしてスタジアム級のスケール感で会場を魅了する『Mosquito Bite』がシンガロングありで帰ってきて観客からも大きな歓声が上がり、ガレージ感バリバリの『Claw』、音楽的な遊びを詰め込んだ『Thunder』、絶妙な歌詞感が鮮やかな『日々、織々』と、持ち前の多彩な音楽性を存分に発揮。そして、「声出し」が解禁されたものの少し戸惑いを感じるフロアに川上が「まだ慣れないよね、もっと歌いやすくなるように揉みほぐしてあげるから」と言って『Rock The World』を披露。〈泣きたくなるほどなるほどに/僕らはちょっと強くなれる〉と声が揃い、こうやってまた一歩ずつ着実に歩みを進め、自分自身も音楽シーンも強くなっていくんだ、と思わせてくれる1曲だった。

大きな月の映像と共に届けた『ムーンソング』では、リアド偉武(Dr.)のダイナミックなドラミングがシルエットで映えて非常にカッコよく、続く『明日、また』では〈We're the light〉のシンガロングが美しく響いた。そしてアレンジ満載の『Girl A』で会場のボルテージをまた一段と上げ、音源以上に踊れる空間を演出した『we are still kids & stray cats』へと繋ぐ。すると、センターステージでスポットライトを浴びた川上が(スクリーンに映し出された表情を見る限り)鋭く熱い眼差しで「恥ずかしがってないで、周り気にしないで、思いっきり踊れ!」というような言葉を叫んだのだが、それはコロナ禍で必要以上に閉塞的になりがちだった世界へ向けて、閉ざさなくていい、我慢しなくていい、周りの目なんか気にしなくていい、と訴えるようだった。………いや、コロナ云々は関係ないかもしれない。彼らはずっと「周りに合わせたりせず、自分の好きなように楽しんでほしい」と言っていた。ロックが持つ自由さをずっと愛し続けていた。自由に対して遠慮がちになってしまいそうな心の扉を、一人一人が持つ心の扉を、解放するようにセンターステージで自由気ままに踊り狂う川上の眩しい姿。それはまるで音楽をそのまま人間にしたようで、自由で解放的で、すごく心を奪われるものだった。

そんな印象から自然に繋がるように、音楽を擬人化した歌、『Your Song』へ。〈だから歌ってよ〉〈君の声を乗せるよ/世界中の音がなくなっても僕を歌えばいい〉という歌詞がコロナ前に作られたとは思えないくらいピッタリだった。何も悪くないのに歌うなと除け者にされた「音楽」はどれほど寂しかったんだろう。それでも〈世界中の誰もが敵でも/僕は味方さ〉の通り、音楽はいつでも味方をしてくれる。すごく健気で儚くて。でも強くて温かくて。目には見えないしカタチもない「音楽」を、そっと抱きしめてあげたくなった。涙が止まらなかった。

続く『awkward』では、フィルムカメラで撮ったような質感のツアーオフショットが流れて終盤の空気を作り出し、本編最後は「コロナ禍になって最初にリリースした曲をやります。皆で思いっきり歌うイメージで作ったのに歌えないままで。今日、ようやく本来の輝きを放てると思います」と『閃光』へ。楽曲のスピードの中核を担うリアドのドラミングに白井の鬼のタッピング。そこへ待ちに待った何万人ものシンガロング。3年越しに『閃光』に命が吹き込まれたようで、代々木体育館に瑞々しく声とサウンドが響き渡り、最高のフィナーレを飾った。

[Alexandros] official Instagram(https://www.instagram.com/p/Cl6V6bBJGWL/?igshid=YmMyMTA2M2Y=)より

アンコールはセンターステージで『空と青』から。アコギでしっぽりと皆のスマホライトに照らされながら、優しく、強く歌う。そして歌い終わって3人がメインステージに移動している間に、川上が『空と青』の制作当初の歌詞で1フレーズ歌った。どんなに辛くても夜になったら「おやすみ」と言えて、朝になったら「おはよう」と言える、それだけのことがいかに幸せなことか。そんな、生きていることの尊さを歌うような歌詞で、悲しいことが多かったこの3年間の空気を閉じ込めたような、それでいて生きている私たちへの希望にも満ち溢れているようなフレーズ。すごく、すごく、素敵だった。

そこから、18祭で出来た『Philosophy』を歌い『ワタリドリ』へ。皆で飛び跳ね最高の盛り上がりを見せる。川上もやりきった感満載で「ありがとうございました!」と叫んだのだが、まさかの1曲やり忘れ(笑)。他のメンバーに「まだあるよ?」感で教えて貰いながら「忘れてました!最高のラブソングを届けます!」と『Dracula La』で騒ぎまくり、本当のラストを華々しく飾った。


全30曲、時間にして3時間。新譜のツアーとは言え、新旧織り交ぜ、カバーもありつつ、多彩な音楽性を存分に発揮したセットリスト。そして何よりファンが歌える曲が詰め込まれたセットリストだった。自分自身もすごく心待ちにしていたけれど、皆の声を誰よりも心待ちにしていたのは[Alexandros]だったのかもしれない。ロックが持つ自由さが戻ってきた音楽シーンの大きな一歩と、彼らにとって大切な場所でのワンマンライブ。[Alexandros]のファンとしてあの時間を共にできたことは一生の宝物である。

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