プロローグ
「この世から消えたいんだ・・・あなたならできると聞いて」
「それなら自殺でもしなよ。それでキレイサッパリだ」
「・・・」
暗転。
「なんで自殺じゃないんだ?」
「死にたいわけじゃないんです。ただ、この世界に希望が持てなくて。
違う世界に行きたいんです」
「ふうん。難儀な奴だな」
暗転。
「どうやって俺を見つけた?」
「え?人づてに聞きまくって・・・」
「俺を見つけるのは容易じゃない」
話を遮るように「 」は言う。
「 」は、その存在をほとんど気に還元している。
一般の人間なら、たとえ目の前に立っていたとしても認識することができない。
この世界から消えるということは、誰からも認識されなくなる。
今の「 」はかろうじて観える陽炎のようなものだ。
「 」を見つけるならば「見鬼(けんき:鬼・・・幽霊など人ならざるモノを認識できる能力)」にしかできないだろう。
どうやら、相当な使い手のようだ。
もっとも、訓練したのではなく、天然なようだが。
「その目じゃあ、お前さん相当苦労したね」
「え?・・いやぁ・・・そうですね・・・」
そう控えめに頷いて、彼は視線を落とした。
暗転。
「あなたをなんと呼べばいいですか?」
「名前は消した」
「え?」
「これから消えていなくなろうというのに、名前を持ったままなんておかしいだろう」
「・・・」
軽く諦めたような気配が、わずかに漏れる。
その気配は、どちらのものだったのか。
「お前、名は?」
ハッと顔をあげて、「 」を見・・・そっとーーわずかに強くーー答える。
「張三 李四(ちょうさん りし)」
「ッ!! ハハハッ!! なんともフザケた奴だね!!」
「 」が肩を揺らしたように笑う。
「名無し・・・か。いいだろう。教えてやるよ。もっともお望みどおり生きて消えることができるかは、お前さん次第だがね」
「よろしくお願いします。では改めて、あなたのことはなんと呼べばいいですか?」
「好きに呼びな」
「・・・では、「 」(くうはく)と」
「勝手にしな」
「 」は鼻を鳴らして、不満げに言い放つ。
これでまたしばらく、環虚(虚に還る)はお預けになりそうだ。
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