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また別の日がないということ

未発表の作品です。落選した作品の『らんぼうなボクとやさしいボク』の主人公、陽(はる)と陽のお母さんの別の物語で「生と死」にまつわる物語です。
この物語を考えることになったのは、我が子が、知的障害を伴う自閉症(重度)で、行動障害が起きていたことがキッカケで夜な夜な戦っていた時に、
実際私が我が子へ語りかけた言葉の一部です。前作と同じように、その時々で段階を踏まえて息子に声掛けしていたことを覚えてる限りになりますが、文章化したものになる未発表の作品です。
自分でイラストもかけるのですが、そこまで自分で考えるといつまでたっても人前に出せないので、文章だけNOTEに掲載することにしました。

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『 また別の日がないということ 』

 ―ボクのいのち、みんなのいのち―

今日は友だちのこうくんと公園で遊ぶ約束をしてたんだけど、こうくんのおじいちゃん死んじゃったから遊べなくなっちゃった。すごく残念だけど、しかたがないな。

ママ「あら?陽(ハル)今日はこうくんと遊ぶんじゃなかったの?」
ボク「うん、あのね…。こうくんのおじいちゃん死んじゃったんだって。」

ママにそういうと

ママ「そうなんだ…。残念だね、でもしかたがないね。」
ボク「うん。また別の日に遊ぶことにしたよ。」

と、ボクはママにそういって今日は自分の部屋でゲームをすることにした。

ボクが今よりもまだ小さかった時、おじいちゃんのおじいちゃんが死んじゃったことがある。
小さい頃のボクは〝死んじゃうこと〟がちっともわからなかった。今も、どういうことかあんまりわからない。
少し前にママが教えてくれたんだけど、死んじゃったら、ケンカをして絶交したり、引っ越しをしたりしても〝会いたい〟と思ったら会うことはできるけど、死んじゃったら、また一緒に遊べないし、また〝会いたい〟と思っても、会えなくなっちゃうってことなんだよってママが教えてくれたことがある。


それと…。

ゲームみたいに〝LIFE〟を他の人にあげたり〝リセットボタン〟を押して、勇者を〝ふっかつ〟なんてこともできないんだって。
それは、おじいちゃんのおじいちゃんやこうくんのおじいちゃんだけじゃなくてボクもだし、ボク以外のみんなも同じなんだって。

死んじゃっうってことは、学校の先生や友だちと会ったりできないし、僕の大好きなオールドファッションも食べられなくなるし、お隣のクウのしっぽをモフモフしたりもできなくなっちゃう。

おじいちゃんやおばあちゃんとお出掛けしたり、ママのつくってくれるご飯も食べられなくなっちゃう…。また別の日がないってそういうこと。

そんなことを考えてたら、なんだか悲しい気持ちになってきちゃったから、ゲームをやめて、ママにもういっかい聞いてみることにした。

ボク「ねぇ、ママ? 
   死んじゃうって、また別の日がないってことだったよね。」

ママ「そうだねぇ…。また別の日があるから今日できなかった約束を
   また別の日に変更できるよね。
   お天気が悪かったり、病気になったりして、
   別の日に変更しなきゃいけないこともあるじゃない? 
   その別の日は明日かもしれない時もあれば、
   来年かもしれないこともあるし、
   オリンピックみたいに4年後とかもあるよね。
   でもね、死んじゃうってことは、
   その別の日の約束がなくなっちゃうってことなんだよ。」

ボク「別の日がなくなっちゃうの?」

ママ「そう。別の日がなくなるってことは、
   約束も守れなくなっちゃうってこと。
   別の日がなくなっちゃったら、
   遊ぶことを約束したお友だちとも遊べないし、
   メールをしてもお返事は返ってこないし、
   顔をみることも声を聴くこともできなくなっちゃうの。
   ゴメンナサイしたくても〝ゴメンナサイ〟も
   
伝えられなくなっちゃうんだよ。」

ボク「…。」

ママ「たとえばね、おじいちゃんのおじいちゃんのおうちにいっても、
   おじいちゃんのおばあちゃんはいても

   おじいちゃんのおじいちゃんはいないでしょう?」

ボク「…(涙)」

ママの話を聞いてたらもっと悲しくなっちゃってポロポロと涙がこぼれてきた。

ママ「ごめんごめん。もっと悲しくなっちゃったね。
   ごめんね。でもね、本当のことだから、ママはお話してるんだ。
   だってね、いつかママやパパだって
   おじいちゃんやおばあちゃんだって死んじゃう時がくるの。
   お隣のクウだって同じ。
   陽だっていつかは死んじゃうんだよ。
   動物も人間もそれぞれに寿命っていうのがあって、
   いつまで生きれるかも決まってないし、
   何歳まで生きれるかもわからないの。
   それにね、死んじゃう理由も人それぞれ違うの。
   病気の人もいれば事故で死んじゃう人もいるし…。」

ボク「…ママぁ? 死んじゃう順番ってあるの?」

ママ「順番は決まってるのかもしれないし、
   決まってないのかもしれない。
   陽よりママのほうが早く生まれたからって
   先に死んじゃうかどうかもわからないし、
   順番は決まってはいないんだよ。」

ボク「ママ… ママはいつ死んじゃうのぉ?」

ママ「そうだなぁ…。ママは今すぐ死んじゃうって決まってはいないよ。
   それに、ママだってまだ死にたくはない。
   だって、ママ、陽がどんな大人になるのか楽しみだもん。
   どんな大人になってどんなお仕事をするのかなぁって
   楽しみにしてるんだ。
   だから、なるべく長生きできたらいいなぁって思ってる。
   だからさ、ケガをしたり病気になった時
   陽が苦手な病院にいって、
   注射をしたりお薬を飲んだりするんだよ。」

ボク「(くすん)…注射もお薬も苦手だけど…
   これからちょっとは我慢する…よ」

ママはちょっと笑いながら

ママ「そうしてもらえると助かるなぁ(笑) 
   病院にいったりすることを治療っていうんだけどね、
   それは、自分の〝いのち〟を守ることになるんだ。
   そして、そういうことも自分を大切にすることになると
   ママは思うの。
   それとね〝いのち〟がいつまであるか決まってないから、
   ママは陽やパパとのどんな小さな約束でも
   守りたいなって思うし、
   もし守ることができなかったら、
   ちゃんと〝ごめんなさい〟できたらいいなぁって思うの。
   それが、自分のことや自分以外の人のことも
   大切にすることになるんじゃないかなぁって
   ママは思うんだ。」

ボク「うん。」

ママ「でね、また別の日がないかもしれないから、
   今日一日を大切にできたらいいなって思わない?」

ボク「ママ? あのね、
   今日一日を大切にするってどうしたらいいのかなぁ。」

ママ「そうだなぁ…。陽はどんなことだと思う?」

ボク「うーん。」

僕はしばらく考えてみたけど、わからなかった。
だからママに

ボク「ママー。難しいよ。ボクわかんない。」

ママ「ごめんごめん。まだ難しかったかなぁ。 
   そうだなー…
   みんなはどうかはわからないけど、
   ママが大切にしてるのは、
   できるだけ〝また別の日に〟しないことかなぁ。って思う。」

ボク「また別の日にしないこと?」

ママ「そう。今日思いついた自分にできることは
   今日終らせておくことと
   できない約束はしないことかなぁ。」

ボク「僕にもできるかなぁ?」

ママ「陽にもできると思うよ。」

ボク「……宿題とか?」

ボクがそういうとママは“ふふふ”って笑いながら

ママ「そうだね。宿題も別の日にはしないほうが
   いいかもしれないね…(笑)」

ママはそんなことをボクに話しながら
リビングの窓を開けてお空を見上げて
僕にこういったんだ

ママ「ママが一番大切にしてる【今日できること】は
   “ごめんさない”と“ありがとう”って
   今、すぐできることかなぁって思うんだ。
   それと、あと1つママが
   陽に大切にしてもらいたいことはね…。」

   自分にも自分以外の人にも
   嘘をつかないこと


※最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます。


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