赦し⑦

 彼女は覚悟を決めた時から、積極的にサークルのメンバーに関わるようになった。そして、メンバーにわからないよう苦しんでいる人を援けサークルから脱退させていたようだ。初めのうちは誰にも知られることはなかったが、さすがにオカシイと思い始めたリーダー周辺のメンバーが、脱退したメンバーを問い詰め聞きだしたらしい。それからは、彼女を危険人物扱いする人たち数名で、法的に捕まらないような手法を使って餌を巻き、彼女をおびき寄せ様々な仕打ちで追い詰めていたのだとか。
 それでも、彼女はそれをわかっていながらも受け入れそれなりに対処していたらしい。そして、どんな理不尽なことが起きても彼女は仕返しなんてことはしなかった。ただ、不思議なことに彼女を陥れようとした人たちには因果が返るような出来事が起きた。
 はじめの頃は彼女はそういったことに気がついてなかったようだが、敏感で察知することが人一倍強かったからこそ、己は何もしなくても相手に何かしらが返ってしまうのだということに気がついた時には、自身の行いについてさすがに悩み苦しんだらしい。それでも、たとえ自身が地獄におちるようなことになろうとも、相手が天に召される事態になったとしても、やりはじめたからには最後までやり遂げると肚をくくったことで、罪悪感が吹き飛んだそうだ。そこまでの話を聞き私はぽつりとTにこぼした。

「どれだけ彼女は辛く苦しかっただろうか。毎日毎日煮え湯を飲まされているような気持ちで、一人闘っていたというのかな? あの時、彼女のことを思い、遠い場所からでも手を差し伸べている人たちは少なからず存在した。それでもその援けを拒み続けていたのは一体なぜだったのだろう…。それにしても、なんて人なんだ。」

 私の言葉を聞いたTは少々驚いた様子だったが、事件の話を坦々と続けて語りはじめた。
 彼女はまた過去に入院した時と同じように追い込まれることになったそうだ。今度は精神的苦痛だけではなく、社会的制裁のようなカタチで最終的に生活が困窮するように追い込まれたそうだ。引き寄せやシンクロニティは疑似的に起こせる仕組みに気がついた彼女は、それらを一切受け取らず無視した生活をするようになったらしい。
 そちらを選べば自身の生活は楽になるとわかっていても、できなかったようだ。何故なら、自身の能力を悪用されるだろうということに気がついたからだった。でも、そうしたことで、彼女は職を追われ、次の職を懸命に探してもみつかることもなく生活していくことがままならなくなり、生活保護を受けることになった。
 そうしたことから、彼女の身の上に起きていたことを公的な機関が水面下で調査を行い、事件が発覚することになった。そして、彼女に関わった全ての人たち一人一人が捜査の対象になったということだ。

「そのうちSさんとこにも連絡がくると思いますが、こちらにいらっしゃることを刑事さんに伝えてもよろしいですか?」

とTはいったので

「ああ、いいよ」

と私はそれだけを伝え、事件の話についても彼女のことに関しても自分の思いの丈は一切話す事はしなかった。その後は、しばらくくだらない雑談をした後、Tは

「また来ますね」

といって病室を後にした。

⑧へつづく

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