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本当にコロナ収束後も今までの状態に戻りたいのか

2020年3月から新型ウィルス感染症の影響によってイベントや公演の自粛が相次ぎ、4月に入ってからは緊急事態宣言によってほぼ全てのイベントが中止になった。

緊急事態宣言が明けたら、早く以前のように仕事を再開したいと思うスタッフや俳優がほとんどだと思う。

しかし、本当に以前と同じような状態でいいのだろうか。

舞台や映像を含むエンタメ業界では、早朝から深夜まで働くのは当たり前という風潮がある。(この業界だけではないという声は一旦置いておいて)

ここ数年で急速にテクノロジーが進化した結果、できることが格段に増えたのだけど、できることが増えれば増えるほどシステムは煩雑になってきた。

プログラミングなどの劇場以外での作業時間も確保しなければならなくなった。技術の進化によって楽になるどころか、よけいに作業量は増えてきている。

劇場に入っても明かり作りと修正作業は時間の許す限り続けられる。

たしかに時間とお金をかけてわずかな妥協をも許さず作り上げられる作品は、クオリティが高く素晴らしい。その一方で、作品の制作に関わる人の日常生活が犠牲になっていることも事実だったりする。

朝出勤して深夜に帰ってくると、まともな生活をする時間が全くなくなる。
洗濯物は溜まる一方だし、部屋の掃除をする暇もない。朝はギリギリまで寝ているので玄関には出し忘れた燃えるゴミとビン・カンが溜まっていく。

犠牲になるのは日常生活だけではない。時間に追われる現場ではまともな食事にありつけないこともままある。

開場時間になってようやく昼ごはんに出された冷えた揚げ物弁当をかき込み、本番を迎える。
バラシが終わって家に帰れば深夜近く。次の現場も入り時間が早い。朝ご飯を食べる時間もなく次の現場の仕込みが始まる。

バラシが終わっても機材返しでまっすぐ家には帰れず、機材を積み替えてまた別の現場へ向かう。気付けば睡眠時間は4時間程度で1ヶ月以上休みが取れていない。

有給休暇が何日残っているのかすら把握できていない。どれだけ徹夜しても、深夜早朝働いても、深夜早朝手当はおろか残業代すら支払われていない社員はどれだけいるのだろうか。

不規則な生活を送るあまり、人知れず身体の不調を抱えている人は少なくない。

そんな状態が続けば、希望を持って業界に入ってきた新人が3年も経てば疲れて果ててやめていき、気付けば中間がごっそりいなくなるのは当然である。
社員数も圧倒的に足りない中で、フリーの方を雇ってなんとか現場を回しているのが現状だ。

じゃあフリーの方が楽じゃないかというと、まったくそんなことはない。私より数段腕の立つフリーランスの方でも、月々の収入が不安定で生活が苦しいとぼやいているのをたびたび耳にしている。台風や今回のような疫病などでイベントが中止になったときに一番割を食うのはフリーランスだ。

不規則な時間で働くのが当たり前だとわかっていても、素晴らしい作品を作り上げるために必要なことだとわかっても、本当はみんな疲れて切っている。

「俺達の若い頃はそれでも食いついていったもんだ」とか寝ぼけた自慢話はもう聞きたくない。いつまで自分たちがやってきたことを当たり前だと思ってほしくない。
世代が違えば考え方が違うのは当然だ。自分たちが勝手に作り上げた常識を押し付けないでほしい。

いくら舞台の仕事が好きで続けたいと思っても、ボロ雑巾のように働いて、それでも生活が苦しかったら舞台のこと自体を嫌いになる。

そんなこと言ったら、「だったらこの仕事するな!」っていう人が必ずといっていいほど出てくる。そういう人ほど自分たちが作り上げたルールに縛られている。

日常生活は人それぞれ違うけれど、最低限の文化的で健康的な生活すらまともに時間がとれない人たちがつくる文化芸術で本当にいいのだろうか。

もう誰かの日常生活を犠牲にして作られる芸術はやめたい。

とは言っても、この仕事はクライアントがいて初めて成り立つ仕事だ。舞台スタッフだけが声を上げたところでどうにかなるわけではない。

もちろん、一人一人の負担を減らそうとすればその分余計に人件費はかかる。

だが、こんな状況だからこそ本当に今までのような状態に戻るべきなのか、それとも方向転換をするべきなのかを、業界を超えて全体で考えていかないといけない時期に来ているのではないだろうか。



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