見出し画像

わたしが「うっかり考えかけた」トロッコ問題の答案


向こうの線路で大きな音がした。
振り向くと、トロッコに五人の作業員が轢き潰されていた。
そしてこちらに歩み寄る人影。

「おい、お前まさかあいつらを…!」
「私は何もしてはいないさ。そう、分岐器のレバーには指一本触れていない。『何もできなかった間にトロッコはあの五人に衝突した』、それだけだ」
「違う!お前はあいつらを見殺しにしたんだ!」
「だったらもし、私がレバーをそちらに倒していたら君は喜んで犠牲になってくれたのか?」
「それは…」
「私が何をしても何もしなくても、誰かが死んでいた。そこに選択肢があるのだと思ってるのだとしたら、それこそが間違いなんだよ」
「だが、ここに私がいた事実そのものをなかったことにはできる」

俺はようやくそこで、奴が後ろ手に隠し持つものに気づいた。
レールのボルトを締める、大型のレンチに。

「君も死んでしまえば、目撃者は存在しない…」

おい

やめろ

待ってくれ

俺は何もm

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?