サイバー・ヒーロー待望論

――インターネットとは、もう一つの「世界」である。

WWW(The World Wide Web)が生まれて2019年で30周年を迎えた。インターネットは今や社会に欠かせない重要なインフラとなっている。便利になった。効率的になった。新しい産業も生まれた。楽しく利用し、幸せになった人も多いだろう。しかし、光あるところには必ず闇も生まれる。

マカフィーの発表によると、サイバー犯罪が世界経済に与える損害は年間約64兆円にのぼると予想されている。世界の企業のGDPの1%を失う可能性があり、雇用創出やイノベーション、経済成長にも悪影響を与えている。

日本ではサイバー犯罪の被害額が年間1兆円とも言われ、10秒に1人が被害にあっているとの統計もある。クラッカーや犯罪組織、サイバーテロリスト、国家によるサイバー戦争という側面もある。現実社会の犯罪においても、インターネットは悪用されている。ダークウェブでは過去に日本企業や公的機関から流出した個人情報が取引されているとの噂もあり、それが詐欺や強引な悪徳営業・勧誘などに使われていると言われる。こうした現状に、日本政府や警察のサイバー犯罪対策課が十分に対応できているかというと、甚だ疑問だ。

インターネットという新しい世界の苛烈な生存競争の中で、情報弱者である我々に今必要なのは、”ヒーロー”である。


サイバー・ヒーローの誕生

サイバーセキュリティ技術者の人材不足が叫ばれている。最先端の高度な技術を学び、世界クラスのサイバー犯罪者の脅威から貴重な情報を守らねばならない。ひとたびセキュリティを破られれば、その責任を問われる。複雑怪奇なネットワークの向こう側にいる犯人を特定するのは容易ではない。

求められる職責や能力に対して、満足な待遇を設定できている企業は少ない。公務員ならば尚更だろう。今から育てるにしても志望者が少なく、時間が掛かる。超高度で経済的に有用な知識と技術を備えた者が、公務員として働くメリットは少ない。大抵の場合は個人で活動するか企業に属し、クラッカーの方が楽に大金を稼げる場合もある。海外への人材流出にも歯止めがきかない。

一般人にとってプログラミングとは「魔法」だ。だからこそ警察や検察によってWinny事件、Librahack事件、Wizard Bible事件、Coinhive事件、ブラクラ事件などの「魔女狩り」が行われている。高度な技術を持ったハッカーを「ウィザード(魔術師)」と呼称する文化もある。プログラミング技術は、多くの一般人にとって恐るべき「異能力」である。その能力を犯罪行為や経済活動だけでなく、ヒーロー活動に転用できたらどれ程素晴らしいだろう。

そこで一種のエンターテインメント性を備えた、政府公認のプロヒーローを生み出してはどうだろうか。架空のヒーローではない。プロスポーツ選手のように企業にバックアップされながら、警察に近い捜査活動、治安維持活動をするサイバーセキュリティ技術者だ。それを「サイバー・ヒーロー」と呼称したい。

アニメ「TIGER & BUNNY(タイバニ)」をイメージして欲しい。企業と契約し高額な報酬とサポートを受けて、広告塔として活動しつつ、特任捜査官として犯罪者を追い、サイバーセキュリティの技術力を追求する。それがサイバー・ヒーローである。


サイバー・ヒーロー設立の公益性

世界には年収300億円を稼ぐプロスポーツ選手がいる。日本人で言えば、テニスの錦織圭選手が約38億円もの年収を稼いでいるという話もある。サイバー犯罪の被害額を考慮すれば、サイバー・ヒーローも同等の報酬を得て何ら不思議ではない。有能なサイバーセキュリティ技術者を公務員の給料で雇うことは難しい。世界トップクラスの技術を持った敵国や犯罪者と戦うためには、同等以上の力を持った抑止力が必要ではないか。

大手IT企業がそれぞれ億単位や数千万円単位の年俸でサイバー・ヒーローと専属スポンサー契約をするのが理想だ。企業がサイバー・ヒーローのスポンサーとなることで高額な報酬を設定できれば、世界中から有能な技術者が日本に集まるだろう。その技術が共有されるだけで、日本の技術力は一気に高まり、公益性は計り知れない。さらにヒーローに憧れるというのは子供の常である。目指すべき夢とロマンのある「象徴」が誕生すれば、インターネットモラルやリテラシーも向上し、技術者を志す若者が激増することは想像に難くない。日本の国力は確実に増強される。

正義にはシンボルが必要だ。サイバー・ヒーローが存在するという概念そのものが、社会の希望でありサイバー犯罪への抑止力に繋がる。

有能な技術者の確保、知識や技術の共有、日本の技術発展、犯罪者の検挙と抑止、モラルの啓蒙、エンターテインメント・コンテンツとしての産業創出と付随する雇用創出、技術者を目指す子供や若者の増加、プログラミング学習へのモチベーションの向上、日本人のITリテラシーの向上。サイバー犯罪を防ぐだけでなく、技術発展・経済効果の面でも莫大で多様な利益が望める。

夢と希望を子どもたちに残すことこそ、我々大人の使命ではないか。


サイバー・ヒーロー協会とプロリーグの設立

「ハッキングコンテスト」「ハッキング大会」「セキュリティコンテスト」などと呼ばれるイベントが企業・業界団体などによって開催されている。優勝賞金などもあるが、例えばJリーグやプロ野球のように、それを取りまとめる組織は存在しない。それを成す組織として、「サイバー・ヒーロー協会」を設立したい。もし実現のために必要があれば、天下り先や利権団体という側面があってもいい。

サイバー・ヒーローを正式に誕生させるためには、捜査権限などを与えるための政府によるプロ資格の制度化と法整備、プロ活動を包括的に取りまとめる組織、そしてエンターテインメント性を備えたプロリーグが必要であると私は考える。

サイバー・ヒーローを競技化するのであれば、やはり一対一の将棋や囲碁のような対戦形式が良いだろう。「名人」のような称号を懸けたタイトル戦や段位のようなランク制度も必要だろう。ただそのままを放送するとなると非常に地味な絵面になってしまうので、競技内容や演出方法、対戦イベントの構成などについては各分野のプロの方に考えて頂きたい。

言うまでもないことだが、犯罪組織からの勧誘や報復から守るため、サイバー・ヒーローにはマスクとコスチュームの着用が必要である。


サイバー・ヒーローの活動内容

サイバー・ヒーローが担うべき役割は多い。犯罪者を追い続けるヒーローがいてもいいし、研究者のように論文を発表するだけのヒーローがいてもいい。人気者としてアイドルやコメンテーターのように活動するヒーロー、教育者やコーチとして技術の普及活動をするヒーロー、犯罪やテロの情報収集のためにインターネットの監視を続けるヒーローなんていうのもいいだろう。活動内容や性質に合わせた二つ名を、サイバー・ヒーロー協会公認で必ず割り当ててもらいたい。

ちなみにこの件においては私が発案者であるので、創造主(ザ・クリエイター)の二つ名をこの場を借りてキープさせて頂きたい。創始者が実はラスボスだったという設定でいきたい。

以下に今想像できる範囲での活動内容を箇条書きにする。活動内容に対する強制は少なく、試合などは基本的に自由参加が望ましい。試合に限らず、その他の活動における社会的な功績を総合的に判断したランク制度が望まれる。検挙数などの上っ面の数字での評価はやめてもらいたい。

試合:プロリーグでの定期的な対戦イベント。トッププロでないと競技内容の設定や解説者も務まらないため、競技者としてだけではなくイベントに関わるスタッフや審査員の側面もある。

捜査:サイバー犯罪、サイバーテロの監視と、政府機関や警察と連携した公益的な捜査活動。

研究:サイバーセキュリティやサイバー犯罪の研究・調査など。発見を広めるための論文発表などもこれに含む。契約企業に利益をもたらすものでも構わない。

教育:教育機関や各種政府機関、技術者の勉強会やイベントなどによる技術の普及活動。

宣伝:CMや番組出演などの企業の広告塔や、サイバー・ヒーロー普及のための広報活動。契約企業のサービスや製品の宣伝活動なども含む。


企業のメリット

有能な技術者を確保するというのはそれだけで絶大な価値のあることだが、それが公にサイバー・ヒーローと認められ、犯罪捜査やサイバーセキュリティで人々に貢献したとなれば、スポンサー企業による社会貢献として日本のみならず世界から称賛されることは間違いない。将来的に企業の価値を表す一つの指標にもなり得る。これがどれ程の広告効果・経済効果を持つのかは、私よりも経営者の方々の方が正しくイメージできることだろう。

ソフトバンクグループの年間売上高は9兆円ほどだが、もしその1%をサイバー犯罪によって毀損しているとしたら、900億円の損害である。サイバー・ヒーローへの年俸として、例えば10億円を支払うことに何の障害があるだろう。

エンジニアの地位向上によって、高度な技術を学ぶことのメリットや学習の機会が増え、既存の技術者や業界全体のレベルアップも期待できる。子供や若者の教育・興味にも好影響を与え、未来の新入社員のレベルアップにも繋がる。世間のリテラシーやプログラミングへの理解・興味が高まれば、国と企業にとっても利益であり、そこに多様なビジネスチャンスも生まれる。

対戦イベントのプロ競技としての収益は恐らく当分期待できないが、「サイバー・ヒーロー」というインパクトのある存在は必ず世界中で話題になる。全世界のネットユーザーやエンジニアたちは、その技術や活動に大いに注目するだろう。キャラクタービジネスやコンテンツ事業として、多角的に利益を生み出すこともできる。

社会貢献の功績やプロリーグの試合結果、ヒーローそれぞれのキャラクター性を楽しく分かりやすい形で発信していけば、パソコンやスマートフォンを利用する多くの一般人の興味も引ける。国と企業が一体となって、あらゆるメディアでガンガン認知度を向上していけばいい。その見返りは国にとっても企業にとっても想像を絶するほど大きい。


サイバー・ヒーロー法

サイバー・ヒーロー実現のためには、まったく新しい概念の法律が必要だ。

サイバー・ヒーローを公に認め、国益と社会貢献を本気で目指すのであれば、警察のサイバー犯罪対策課の刑事と同等に近い権限を与えるべきである。これは警察組織を否定するものではなく、新しい世界には新しい力が求められるだけの話だ。世界トップクラスの技術者を既存の公務員待遇で雇える、または職員を世界トップクラスの技術者に育てられるというなら、これを否定してくれていい。しかし、そんなことが不可能なのは分かっているはずだ。

サイバー・ヒーローが実現すれば、国と警察はほとんど予算を使うことなく、有能なサイバーセキュリティ技術者を大勢抱え、犯罪者の検挙、防犯に使えることになる。さらに経済効果や技術発展、サイバー戦争における国防の増強にもなるとなれば、どれほどの公益性があるのか見当もつかない。

サイバー・ヒーロー法の制定に関しては、法律とITの専門家の意見を集めるべきだろう。序盤で述べたように日本は今、クラッカーや犯罪組織、サイバーテロリスト、国家によるサイバー戦争の危機の中にある。サイバー犯罪による経済的損失も甚大だ。旧態依然たる体制のままでは、進歩と発展は望めない。

「IT後進国」と嘲笑される日本を、最先端の「IT先進国」に劇的に生まれ変わらせる起爆剤として、サイバー・ヒーロー待望論をここに提唱する。


サイバー・ヒーロー待望論について

半分冗談、半分真面目なフィクションともノンフィクションともつかないコラムです。イメージしていた訳ではないのに、少年ジャンプ連載の「僕のヒーローアカデミア」に出てくる「超常黎明期」の「異能(個性)」を「プログラミング」に置き換えたような内容になりました。アンチテーゼというか問題提起というか、現状を打開する方法を考えるキッカケとなれば本望です。バカバカしい話なのに、妙な説得力を持ってしまったのは僕の責任ではありません。

参考資料:僕のヒーローアカデミア


空色即是(そらいろそくぜ) @sorairosokuze

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