「広告」より「振る舞い」が大切な時代へ。西武そごうの広告が議論を生む理由①

2019年、平成31年。ついに平成が終わる年に突入した。平成生まれの私はずっと、この時代に生きてきた。「失われた時代」「昭和に引きずられた時代」等と言われ、朝日新聞の調査では「動揺した時代」と答えた人が最多だったらしい。ネットの普及で、大きく時代が変わったのは確か。人と人との繋がり方、コミュニケーションの形、情報やコンテンツとの接し方、言い出したらキリがないし、多くの人々が「動揺」したのにも無理がないと思う。

接するメディアが変わり、情報の発信・受け取り方が変わり、消費に対する価値観も大きく変わった。求められる広告のあり方は急速に変わり、最も動揺したのは、もしかすると広告をつくる人なのかもしれない。そんな平成が終わり次の時代に行こうとする中、2019年の年明け広告に対するたくさんのコメントを見て確信した。これからは企業やブランドには広告で「何を言うか」よりも「振る舞い」が見られる時代なのだ、と。価値観が多様化し、答えはない時代だからこそ、自分たちの態度やスタンスを決めて、きちんと社会に意思表示できるかどうかが鍵になる。

西武そごうのこの広告を見た人は、たくさんいるだろう。

▶︎西武そごうの公式サイト

最初これを見た時「あれ?この違和感は何だ。そしてパイ・・・なぜこのメッセージで、このパイ、、、。」と思ったのが率直な感想。その後何度か読み返し、色んな人のコメントも見た上でこの広告が議論を生んだ理由は、「企業の振る舞いが、いい方向に捉えられなかったからだ」と思った。これを2つの視点から書こうと思う。


①問題の理解不足は、「中途半端な態度」として映ってしまう

今回の広告については、簡潔に言うと、gender (=文化的・社会的性別)epualityに関する問題を「わかっているようで、わかってないじゃん」と思わせてしまった点が最大の問題だと思う。「この違和感なんだろう。」という人が多かったのは、表現において問題の本質をきちんと捉えられてなかったからなのでは、と。結果、コピーの内容と絵から、この問題に、企業として真摯に向き合っている振る舞いが感じられなかったのでは、と。自戒も込めるけれど、社会課題を何らかクリエイティブに繋げる時、これは本当に大切で生半可な理解で表現に昇華してはダメだと思ってる。折角挑戦的な姿勢なのに、この手の内容は本当にちょっとしたニュアンスで全然意図しない伝わり方になってしまうから。グローバルな課題だと、なおさら。

ジェンダーの問題に切り込むにあたって、きっとここで言いたかったのは「女であること」の生きづらさというよりも「女性として社会に生きること」の生きづらさなのだと思う。今年話題になった、ジェンダーギャップ指数は主に「男性、女性として社会に生きること」を評価され決まる指数。これが、日本は144カ国中114位だった。先進国の中では、最低レベル。(妊婦の死亡率(保健的視点)などを評価の主な軸に置かれるジェンダー不平等指数や女性の幸福度は、比較的日本はランクが高いのですが長くなるので割愛)この中で著しく日本の評価が低かったのが「政治」と「経済(働き方)」だった。本来、「時代の中心に男も女も関係ない」というのは真っ当な正論だけど、

・女性として社会に生きる際に生じている現実を、すっ飛ばしてしまった
・(女性をエンパワーメントすることが目的だったとしたら)西武そごうが描く理想の未来像が何も提示されていなかった

がゆえに、単なる綺麗事に見えてしまい「何が言いたいの?」という人が続出したのではと。同じジェンダーに切り込むCMでも、良い方向に議論が白熱したのが 2年前に公開されたPOLAのリクルートのCM。すべての働く女性に向けて女性が直面しがちな現実を「この国には、幻の女性像が存在する」と描きながら「縛るな、縛られるな。翼はなくても、私は飛び立てる。」とメッセージを投げかける。

このCMを見たとき、フランスの女性作家であり哲学者のボーヴォワールのこの言葉を思い出した。

人は女に生まれるのではない、女になるのだ。

「第二の性」は1949年に創刊されているから、70年前...女性として生きることの解放については本当に多大なる時間をかけ議論がなされてきたのだ。それをすべて理解し、意図を汲むなんて正直簡単なことじゃない。私自身、ジェンダーにに関する課題については何冊も本を読み、記事を読み、問いかけ続けるということを繰り返している。ただPOLAのCMは、女性が働くということの現実に向き合い、逃げずに描くことで気づきを創出し、メッセージに込めた想いをリクルートという形でリアルに取り組もうと振る舞った。ここにはある種の、覚悟を感じる。ステレオタイプのほとんどは無意識下に生じており、見逃されていると思う。無意識に「幻の女性像」を抱いていた人は、きっと多いはず。結果、多くの女性からの共感を生んだのだ。

ここからはかなり個人的な話だけれど、この広告についてこんなに考えてしまったのは、元旦に私はお正月の挨拶回りに家族で行っていて「弟は仕事の話を聞かれるけれど、私は結婚の話しか聞かれん。」と愚痴をこぼしていたからだ。ある程度想像はしていたけど、何度「今は仕事の方が楽しくて〜。」とニコニコして言えばいいのだろうと、悔しかった。「何で女の子なのに、東京の大学にまで行くとね。どうせ帰ってきて実家を手伝うのに。」と散々周囲から言われたことを、久しぶりに思い出して。母からは「悲しいけど、それが事実なん。私も子育てしながらここまで仕事をして、地域のことにも関わってきたけど本当に大変やった。環境も、人の目も、何十年前と実はそんなに変わってないと思うよ。諦めではないけど、じゃあ女性として自分はどう仕事と向き合いながら生きていくか、という割り切りは必要。最近でさえどこかに出ていくたびに『女性だから、これからの時代もっと頑張ってもらわなね!』とか言われるけど、その時点で無意識に"違うもの”に分類されているよね。毎回『女性だからじゃなく、私は私として頑張るので一緒にお願いしますね〜!』って言うとよ。」と。日常レベルでも、これが現実なんだよ〜〜〜〜〜〜!と。

例えば日本国内で今年上場し話題になった企業の役員一覧を見ても女性は皆無だったり、いても10%に満たなかったり。記事では「“唯一の女性役員”〇〇さん」ということがネタにさえなる。就労率は著しく改善されても、その先の問題はまだ山積みなんだと実感する。その背景をきちんと理解せずに「女性の生きづらさ」について言及し、「私の時代」をつくればいいじゃん、と個人が頑張るべきことに集約してしまったことで、今あるジェンダーに関する社会問題を、この企業が放棄しているという見方に捉えられかねないのだ。これは制作側の意図に反することなのだと思うけど、多くの人が違和感を感じてしまったことについては、やっぱりなぜそう捉えられてしまったのか理解することを怠っちゃいけないのではと思う。クリエイティブの力は、良くも悪くも社会を大きく動かし、人のアクションを変える力を持っているから。

「わたしは、私」であることは、当たり前。それに男も女も、その間でも性別は関係ない。人間として大前提。だけど「女のわたし」としてこの社会に生きるには、まだまだ世の中に課題がある。だからと言って“女性だから”私として生きるために何らかの努力をしなければ!とか、女性の時代をつくらなければ、とかそんなことはではないんじゃないかな。

男性も女性も、繊細でいられる自由、強くいられる自由があるべきです。今こそ、対立した二つの考えではなく、広範囲な視点で性別を捉える時です。私たちが私たちではないものでお互いを定義するのをやめて、ありのままの自分として定義し始めたら、私たちはもっと自由になれるのです。

これは、エマ・ワトソンが国連スピーチで語った言葉。(すごくいいスピーチなので見て欲しい...)ジェンダーに関する話題は賛否両論が必ず起きる。正直今回の件もそう。でも本来議論の目的は、相手を叩いたり、否定することではなく何か起こった時にはそれをきっかけに一緒に考えようよというのが大事なことだと思うのだ。

今ある事実に向き合いつつ、性別関係なく「平成に次ぐこれからを、輝ける時代にしていこう」「来るべきなのは、一人ひとりがつくる私たちの時代」というのが、ミレニアル世代が思うことではないのかな、と私は思う。

近年のカンヌライオンズ受賞作品に代表されるように、“広告の要素として”もsocial goodな視点は不可欠であるけれど、それ以上に、その問題をどれくらい真に理解しているか、いかに真摯に向き合って考えているかという点は、表現に如実に現れる。議論を生む広告はいい広告なのだけれど、中途半端な振る舞いは、時に生活者の信用を失ってしまう可能性がある。それが、企業やブランドにとって「振る舞い」が重要であるという一つ目の視点。

そして次の記事ではもうひとつ、海外の企業・ブランドの事例を交えながらなぜこの「振る舞い」が今の時代に重要なのかという視点を、さらに深掘りして書きます。

*Twitterでは主にグローバル企業が、どのように人種・ジェンダー・セクシュアリティ・環境などのsocial issueに向き合っているか、取り組んでいるかについて考えています☺︎


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Aska.Otani

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