見出し画像

視座

オラクル教団の本拠地直下。信者達が埋葬された棺が並ぶ共同墓所(カタコンベ)。
そこには一際巨大な棺が横たわっている。

棺の中で眠りに就いたはずの人造神(オラクリオン)は、今しがた足元を覆う魔法陣に訝しげな視線を送った。

──────我を再び喚び出すとは、何を企む

そう巨大な体躯からオーラを放ち睨め付ける姿に、仮面の魔導師はおためごかしが無用である事を悟った。

シューゲイザー。

それは『靴を睨む者』という意味を持つ。
その言葉は、足元に生い茂る草ですら踏む事を避ける彼の慈愛を表している。
その言葉は、足元に集う信者たちを教え導く彼の啓蒙を表している。
その言葉は、足元に群がる敵を撃滅する彼の苛烈を表している。

信者達の犠牲を悼み、自らの死を受け入れた人造神は、この共同墓所の墓守となった。
納得した死を、慮外者に覆された不本意。
死の理を否定する儀式(インフェルノ・サイン)の紋章の上に座す彼の表情は、困惑と怒りに染まっていた。

魔導師は外套を翻し、そんな彼を笑う。

「"こんな櫃の中"で満足していられたら困る」

魔導師の背後に示された幻影(ビジョン)には、『時間の枠を破る無法者』、『超合金の放浪者』、『電脳の女王』といった、敵対していたはずのアウトレイジ達と共闘するシューゲイザーの姿が映し出されていた。

「貴方は教導者だ。貴方を慕う者達が選択した世界の、その後を見守る義務がある!」

魔導師は咆哮する。
その姿は神を挑発する愚か者か。或いは、神に傅く敬虔な信徒のようにも見えた。
魔導師の言葉を聞いたシューゲイザーは、何か、思い当たったかのようにその鋭い視線を緩める。

「……!……そうか。貴様は、やはり……」

棺を閉ざす前、思い残した事があった。
信徒ではない。だが、誰よりも共に戦った、自由の王女。そして死神の様な容貌の、仮面の男の事を。
死を覆す儀式。
死を恐れぬ咆哮。
それを行使できる者など、一人しかいないではないか。

人造神は瞑目する。そして決意する。
自らを慕う者の為に、死すらも乗り越える事を。

「……ならば、そうだな。再び、我が導こう。共に参ってくれるか?

”キリュー・ジルヴェス"よ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?