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《指向性》の侵略

実際の所、デュエルマスターズに革命をもたらしたのは"侵略"の方であった。

デュエプレがTCGにおける『革命編』シリーズに突入してから2週間あまり。ランクマッチでは今日も暴走する【バイク】の排気音が鳴り響いている。

そんな【バイク】デッキの強みは言うまでもなく《侵略》

《侵略》とは、特定のスタッツを持つ生物が攻撃する際、手札に《侵略》を持つ進化獣がいれば、無料で攻撃クリーチャーにそのまま進化できるという強力な踏み倒しギミックだ。

革命編で登場したこのギミックは、ゲームに新たな速度感を生み出し、ひいてはデュエルマスターズのゲーム性、その方向性すらも変えてしまう革命的な存在となった。

今回は『革命編』のデュエプレ実装記念として、そんな《侵略》がデュエルマスターズに与えた影響について考えていく。


・『プレイヤーの指向性』のハック

まず《侵略》が生まれた背景から触れていこう。
革命編の直前のシリーズであるドラゴンサーガ(以下DS)では、メインギミックとして『ドラグハート』がプッシュされていた。

ドラグハートはデッキ外ゾーンに存在する"武器"や"要塞"といった趣の両面カードであり、条件を満たす事で龍解しクリーチャーの姿へと変わる。
また、それらを取り出すにはメインデッキ側に『ドラグナー』と呼ばれる、ドラグハートに対応する存在が必要であった。 

しかし、このドラグナーとドラグハートというギミックは問題を抱えていた。

それは『一見しただけでは、個々のドラグナーが"何が出来るのか"よく分からない』という点である。

例を挙げよう。

この《龍覇グレンモルト》の持つ能力を正確に把握する事ができるだろうか。 

『コスト4以下の火のドラグハートを場に出す』というテキストを額面通り受け取るだけでは、このカードの本当の強さを掴む事ができない。

なぜなら、強力なのは装備者にスピードアタッカーを付与し、かつ龍解すれば7000火力を放ちつつ実質選ばれないSA・Wブレイカーになる《銀河大剣ガイハート/熱血星龍ガイギンガ》であり、出ただけで6000火力を放つ事ができる《将龍剣ガイアール/猛烈将龍ガイバーン》のような、『グレンモルトから呼び出す事のできるドラグハート』の方であるからだ。

つまり《ガイハート》の存在まで考慮すれば、《グレンモルト》は『SA・7000火力・3打点をデフォルトで持っている生物である』、と表現する事ができるのである。しかし、そんな事は《グレンモルト》のテキストを見ただけではさっぱり分からない。

このように、ドラグナー─ドラグハート間の繋がりが分断されている事で、パッと見で『強さを体感しにくい(実際の強さと強烈なズレがある)』デザインであった事は否めない。

また、ドラグナー側の条件次第で呼び出せるドラグハートの種類が変動する、という点もユーザーに混乱をもたらす要因だった。
何しろ、ドラグハート1枚につき『武器・要塞としての能力』『龍解(裏返ってクリーチャー化)する条件』『クリーチャーとしての能力』が存在しており、それらが全てメインデッキのドラグナーの能力と紐付く。
その結果として、ドラグハートが増える度に対応できる状況が増え続けるドラグナーのパワーインフレと、常に適切なドラグハートをプレイする事を問われる情報処理の複雑化を招いてしまった。

総じて、ドラグハートは拡張性・戦略性に秀でたギミックではあったものの、それと引き換えにゲームを極めて複雑なものにしてしまったのである。 

そして、《侵略》がもたらした変化は、まさにその部分であった。

《轟く侵略 レッドゾーン》のデザインを見てみよう。

注目すべきなのは、このカードが『"火のコマンドが攻撃する際"という明確なプレイパターンと、除去付き3点という分かりやすいインセンティブを提示している』事だろう。

4コストの《ザ・レッド》が攻撃するだけで、この強力な《レッドゾーン》に変身する事ができる。
このシンプルな『侵略元』─『侵略先』の関係性は、ドラグナー─ドラグハートのコンセプトをある程度引き継ぎながらも、出力先の側が固定される事で《レッドゾーン》着地という『目指すべきゴール』が設定され、誰が考えても『レッドゾーンを着地させる為にはどうする?⇒火のコマンドを沢山積んで攻撃する』というロジックへと行き着くようになっている点で、ドラグナー─ドラグハートの抱えていた問題を部分的に解決していると言える。

更に、《グレンモルト》+《ガイハート》も、『2回目の攻撃時に龍解』という形で攻撃に対するインセンティブを付与しようとしていたが、レッドゾーンは更に一歩進んだ形でその方針を強化しようとしている。

《レッドゾーン》を初めとする火の侵略者たちは、ドラグハートという"選択の繰り返し"を課せられるギミックから脱却し、『とにかく火のコマンドでデッキを固め、早々に攻撃する』というプレイパターンとゲーム方針、即ち"指向性"をこのゲームに再びもたらした。

《侵略》というギミックがハックしたプレイヤー心理の肝要は、こうした『複雑性の排除』、つまり『シンプルなデュエマへの回帰』であったと言えるだろう。

・『ゲーム全体の指向性』へのハック

こうしてデュエルマスターズを『シンプルなゲーム』へと引き戻す役割を果たした《侵略》であったが、その活躍はそれだけにとどまらなかった。
《侵略》の登場は、能動的なノーコストアクション時代の幕開けを意味していたからである。

実の所を言えば、《侵略》以前にも攻撃時に強力なインセンティブを付与するギミックは存在した。
『アタック・チャンス』はその一例だ。

特定のスタッツを持つ生物が攻撃する時、ノーコストでカードをプレイできる』というテキストの雛形がアタック・チャンスによって形成され、それを更に発展させた形で《侵略》は生まれた。

《侵略》がアタック・チャンスと異なる部分は、進化獣という単体では使いにくいスペックと引き換えに得た『打点量・スタッツの永続的上昇』である。
《ザ・レッド》から《レッドゾーン》になればパワー4000から12000、打点は1点から3点に跳ね上がる事で、強靭なスタッツによるハイスピードなビートダウンを可能とする。これは呪文という状況に依存しがちなテキストとは違い、生物のサイズを引き上げるという普遍的な強さを担保する行動である。

一方で、アタック・チャンスとの相似点も存在する。それは『cip(登場時効果)目的の侵略使用』、すなわち『cipのアタックスペル化』だ。
例えば、《レッドゾーン》の除去効果はレッドゾーン1枚につき1回発動するため、《レッドゾーン》を複数回同じクリーチャーに侵略すれば、最終的なスタッツは変動しないものの、侵略で重ねた《レッドゾーン》の数だけ除去効果が使える。

つまり、《侵略》は使い様によっては侵略持ちクリーチャーのcipをスペル(呪文)として行使する事もできる、アタック・チャンス呪文の性質を包括的に帯びてもいるギミックなのだ。

そして、先に述べた『攻撃時のノーコストアクション』、それと今述べた『打点量・パワーラインのジャンプアップ』、『cip使用を目的とする侵略使用=cipのスペル化』という《侵略》のギミック的特徴。
これらが組み合わさると、一つの道筋が導き出される。

それは『ゲームの高速化』だ。

攻撃時のノーコストアクションは攻撃という行為そのものを推奨し、打点量の増加は一撃の重さをかさ増しする。そして、それらに加えて強力なcipは本来メインフェイズに行う行動を代行してくれる。
 
要するに、《侵略》のような攻撃時のノーコストアクションが普及した事で、アタックフェイズは『第二のメインフェイズ』として機能するようになり、メインフェイズ(とマナ効率)が2倍になったゲームはその分だけ加速したのだ。

これは《侵略》の後継ギミックである《革命チェンジ》でも顕著に現れた特徴であった。

《蒼き団長 ドギラゴン剣》は『6打点の形成』という≒勝ちの条件を早々に1枚で達成できてしまうことから、その他のカードは『如何にドギラゴン剣を通すか』を軸にデッキに組み込まれる事になった。
勝つために必要な動きを全て《ドギラゴン剣》が第二メインフェイズでやってくれるからこそ、最初のメインフェイズで行うべき行動が明確になる、すなわちデッキ全体の"指向性"としてよりソリッドに進化していったのだ。  

その極地にあるのは昨今の【赤青マジック】や【赤緑アポロ】だ。
攻撃時にノーコストで勝つ為に必要な全てのアクションをこなせてしまうデッキであれば、メインフェイズではあとは手札を整えるだけでいい。

デュエル・マスターズは《侵略》の登場によって、如何にメインフェイズ中にパーツをかき集め、アタックフェイズ中に爆発する事ができるか、そういった側面を持つゲームへと変貌したのである。





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