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メンタリスト感想メモ 5

レッドジョン事件の大きな山場になったシーズン3から4。
このドラマの大きなテーマ「復讐」。だいたいのドラマや映画では
「復讐は不毛だ」「復讐では誰も救われない」
というのが大前提になっていて、主人公もぎりぎりで思いとどまると
いうパターンが多い。
でもジェーンはそんなことは百も承知で、
そこをとっくの昔に突き抜けてしまっている。

「復讐は生きる理由になる」
「復讐するつもりならずるくなれ。平気で嘘をつける冷酷で賢い人間に
なるんだ。自分の心を誰にも見せるな」
「恐怖の中で妻と娘は血まみれでやつに殺された。
彼を殺すのは僕の権利だ。レッドジョンは僕のものだよ」

いつもと全く違う冷ややかな声とまなざしで敢然と言うジェーンの覚悟に、誰も何も言えなくなってしまう。
ここまで復讐を是として描いたドラマはあんまり他にないかもしれない。

レッドジョンが係わるとジェーンは普段とは全く違う顔を見せる。
ぞっとするような闇を纏うサイモン・ベイカーの演技が好き。
黒いカラコン入れてるのかな。いつもはきれいな青い瞳が
暗く底知れない色になっている。
もともとジェーンは複雑で、いくつもの個性を使い分けることができる
多重人格者っぽいところがあるけれど、
レッドジョンというスイッチが入ると全く別の人格が
起き出してくるみたいだ。
悲しみで壊れてしまった、常識も限度も容赦もない危険な人格。

「麻薬を欲しがるジャンキーと同じ目をしてる」とボスコは言ったが
これは正しくて彼はレッドジョンに依存し、中毒している。
ある意味、ジェーンはレッドジョンがいないと生きてゆけない。
自責と後悔と罪悪感を彼への憎しみと復讐心に転化して、
生きる理由にしているからだ。
そうしなければ彼の心は自らに押し潰されてしまう。

そしてもうひとつ、レッドジョンに関する限り
ジェーンは半ば死者たちの列にいる。
自分の妻子だけでなく他の被害者たちや、クリスティナやボスコなど
自分と関わり、レッドジョンと関わったがために殺された者たちの
無念や悲しみを丸ごと背負ってレッドジョンを追う彼は
その亡霊たちの先頭に立っているように見える。
それがわかっているからリズボンはジェーンを拒みきれない。

リズボンとジェーンの関係も少しずつ色あいを変えてゆく。
ジェーンはリズボン(とそのチーム)以外誰も信じていないし、
彼女以外と一緒に仕事をする気は全くない。
自分の才能を人質にしてあらゆる手を尽くし彼女を取り戻す。
そしてリズボンもどれだけ絶望的な状況でもジェーンだけを信じ抜き、
まっすぐな正しさしかなかった彼女がジェーンを守るために
駆け引きをし嘘をつく。
秘密を共有する共犯者めいた信頼関係。

リズボンが負傷し停職中の部屋にジェーンが訪ねてくる。
この時ジェーンはリズボンとのコンビを解かれ、
別の捜査官の監視下に置かれているのだが、
穏やかに話をしてお茶を飲んだあと、彼ははなにげなく
「これ持って帰ってもいい?」と言って何の変哲もないマグカップを
もらって帰るのだ。

だけど、それっきりそのマグは登場しない。
オフィスでジェーンが使っているのはいつもの青いカップだ。
じゃあ、あのマグカップはどうしたんだろう?
もしかしてプライベートでひとりでいる時に大切に使っているのか?
こういうさりげなく意味深な愛情表現ほど、深い。

画面に映ってるだけが全てじゃない、という捉え方は大好き。

今日の一曲
Billy Joel 「Honesty」