見出し画像

VFRクロスカントリー考 倍角修正を解説します

前回の記事で、A地点からB地点に向けてナビゲーションを開始する「発動」手順として、3Tチェックを紹介しました。

今回は、その後どのようにナビゲーションを維持するのか、また、ズレが発生した場合にどのように修正するのかを解説します。

本稿を含めたマガジンの収録記事は、著者の私見であり、あくまで参考情報の提供が目的です。実際の訓練にあたっては、それぞれの国の法律を尊守し、担当インストラクターの指示を優先してください。

倍角修正

3Tチェックで発動したあと、パイロットは保速、保針に努めます。ここで、パイロットの飛行技量に問題がないと仮定するならば、トラックがずれる(=オフトラックする)原因は計画時と風が変わったことが主な原因と考えられます。

この時、どれだけずれたのかを定量化して、修正角を求めます。やり方はいろいろありますが、そのうちの1つに「倍角修正」があります。文章で説明すると長くなるので、まず絵で見てみましょう、要するにこういうことです。

画像6

1. 黒線のトラック(TR)を飛ぶつもりで、計画のヘディングで発動(3T)。

2. チェックポイントで、計画では左に見えるはずの池が真下に。右からの横風が予想より強かったと判断。トラックエラー「α」を求めて、その倍量の「2α」分、右に首を振って修正する。

3. 「1」から「2」までかかった時間を計っておき、同じ時間飛んだところでTRに戻ったはずだと判断し、「α」分、ヘディングを左に戻す。

4. 風が変わらなければ、適切なヘディング(WCA)でTR上をトラッキングできる(はず)。

倍角修正は、実際の、現場の風に対する修正であり、かなり正確なトラッキングができます。その割に、修正角の算出が比較的簡単(ナブコンがいらない)ので、個人的によく使う修正方法です。

当たり前ですが、保針、保速ができなければ、今から言うことをいくらやっても意味がありません。全くの無風時に、風が変わった!と大騒ぎしたら自分で創り出した誤差だった、というのはよくあるオチです。

チェックポイント

まず計画時に、AからBの間に、オフトラックを測定するためのチェックポイントを設けます。

画像2

15マイルのところに大きな池がある!

どのくらいの感覚でチェックポイントを設けるかは、その飛行機のスピードレンジによります。間隔を詰めすぎると、ナビゲーションが忙しくなりますし、拡げすぎるとチェックポイントに来たときの誤差が大きくなります。

個人的には、訓練に使うような120ノット前後の飛行機なら、15-20マイルごとにチェックポイントがあるとやりやすいと感じますが、チェックポイントに使えそうなユニークな地上物標が自分のほしい間隔であるかはわからないので、プランニング時に航空図をよく吟味する必要があります。

条件に合わせて、色々と試してみてください。

地上の物差し

チェックポイントを決めたら、計画のトラックがチェックポイントの物標からどのくらい離れたところを通っているかを見ます。計画時は、地図上で物差しを当てればすぐにわかりますが、現場上空では、オフトラックは目測しなければなりません。水平距離の感じ方は高度によって違うので、これが容易ではない。

そこで、景色の中に、物差しに使えるものがないか事前にチャートをよくみておきましょう。例えば、上記の例なら池の大きさを地図上で計っておきます。池の端から端が約1マイルだとしたら、実際に池のアビームに来た時に、「池何個分離れているだろう?」と考えることで、まずオフトラックを距離にできます。

画像3

計画通りなら、池2個分(=2マイル)右側を通るはず!

池や湖の他にも、少し大きめの市街地や川はチャート上で幅を持って描かれていますし、橋などはグーグルマップなどで大きさを測っておくこともできます。AIPを見れば滑走路の長さが書いてあります。2000m級の滑走路は約1ノーティカル・マイル(=1.852km)ですね。

あるいは、海岸線と幹線道路が並行して走っていれば、その間の距離を測っておいて、それを物差しに自分が海岸線からどのくらいの距離にいるのか推しはかることができます。

地図上だけではなく、実際の景色の中に物差しがあると、目測に自信が持てます。

オフトラックの出し方

いわゆる「1 in 60 rule」でオフトラックを角度に変換します。このとき、チェックポイントを15マイルから20マイルにしたことの意味が出てきます。

「1 in 60 rule」では、

15マイル「縦に」行って、1マイル「横に」ずれた場合、ずれた角度は4度です。(15×4=60)

同じように、

20マイル「縦に」行って、1マイル「横に」ずれた場合、ずれた角度は3度です。(20×3=60)

画像5

なぜこうなるか、詳しい「1 in 60」の説明は、後述します。

上記の例では池から2マイル離れたところを飛ぶはずが、池の直上だったので、オフトラックは2マイルということになります。15マイルの場合、1マイルは4度ですから、8度ずれたことになります。

画像4

「15」行って、「1」ずれると4度。「2」ずれたら8度ですね。

これで、オフトラックを定量化(2NM)して、さらに角度(α)として出すことができました。この角度「α」のことをトラックエラー(TE)と言います。

ここで、最初の絵に戻ります。

画像6

計画のトラック(TR)に戻るために「2」で変針しています。「2α」、つまりトラックエラー(TE)αの「倍量」右に戻すので「倍角修正」です。TEは8度でしたから、この場合、16度右にヘディングを振ります。例で見てみましょう。

画像7

1. トラック090°に対し、ヘディング095°で発動。
2. 倍角修正により、16度右にヘディングを振る。ヘディング111°。

「1」の時点の時間は、3Tで発動しているので記録されています。「2」も3Tで変針するので、記録されます。仮に、00:00に発動し、チェックポイントが0010、つまり10分かかったとします。

画像8

そうしたら、「2」から10分間飛んで、「3」で8度戻します。こうすると、「1」「2」「3」で二等辺三角形を作ることになり、戻したヘディング(103°)が「変わった風」に対する新しいヘディングだと結果的にわかるわけです。

画像9

パイロッテージの限界

「3」にチェックポイントがないことに注目してください。ここは「1」から「2」が10分だったのだから、「2」から「3」も10分だろうという「推測」(DRプロット)なのです。ですから、作ろうとした三角形が完璧に二等辺三角形になるかといえば、そうではありません。

風は常に変わりますし、オフトラックが2マイル、というのも池の物差しを使うとはいえ、誤差があります。また、「2」でヘディング「111°」などと言いましたが、実際にはキリよく110°を守ろうとするでしょう。

前回、前々回と推測航法の誤差について言及したのは、こういうことです。どんなにがんばっても、エラーは出ます。

でも、それでいいのです。

地図の上に引いた線の上をピッタリいくことにこだわりすぎてはいけません。パイロットは一人しかいないのですから、ナビゲーションの比率を増やせばそれだけ他の仕事を圧迫します。そして、クロスカントリーではその一人しかいないパイロットがやることは、山のようにあります。

安全と効率を犠牲にせず、いいところで手を打つ。ナビゲーションにどの程度こだわるのかを決めるのはパイロット自身です。

グラウンドスピードとETAリバイス

余裕があったら、ここでグラウンドスピード(GS)を出して到着予定時刻(ETA)を更新することも簡単にできます。ナブコンに、チェックポイントの距離(15マイル)の下にかかった時間(10分)を入れるだけです。

画像10

緑がグラウンドスピード(90ノット)。
全体で35マイル(例)のレグだとしたら、23分30秒。

0000に発動したのなら、ETAは0023ですね。

ただし、グラウンドスピードによるETAのリバイスは、ある程度の距離を、まっすぐいける場合でないと、あまり意味がありません。15マイル以下の短いレグの場合、パイロッテージの精度であれば、多くの場合、TASで十分です。

***

これまで、VFRクロスカントリーの基本的な話をしてきました。いったんここらでお開きにします。お疲れ様でした。

やってほしいネタなどあれば、以下からお知らせいただければ考えてみます。

***

以下の有料パートでは、GSを出すことの意味と「1 in 60」の原理を説明しています。

GSを出す意味


ここから先は

1,604字 / 2画像
この記事のみ ¥ 200

いただいたサポートは、日々の執筆に必要なコーヒー代に使わせていただき、100%作品に還元いたします。なにとぞ、応援のほどよろしくお願いします!