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産みたくないと言ってもいいですか?〜命懸けの妊娠出産〜67

出産3日目、今日はお昼から夫が面会に来てくれることになっていた。

「おはようございます、空月さん。朝の検温と血圧測りますね。お風呂の許可がまだ出ないので、今日は洗髪をしようかと思うんですが、何時がいいですか?」

「おはようございます。出来れば夫が来る前にしてもらいたいです。」

「わかりました!やっぱりご主人さんには綺麗で会いたいですもんね!では午前中に洗髪の予約を入れておきます。あと、今日も午後からリハビリが入ってますし、もし車椅子に座れるのであればGCUの方に赤ちゃんに会いに行きましょう。」

「わかりました。あの…、尿道カテーテルが擦れて痛みが出てきてるんですが、まだ外すことは出来ないですか?」

「そうですか、ちょっと確認しますね。外れてきてる感じはないですが動くようになって少し擦れてるのかもしれませんね…、主治医に確認して、とっていいとなったらとりましょう!そのかわりトイレは頑張っていってもらうことになりますよ〜。」

「はい、その方が動く目的になるので。」

「わかりました!」

1日の流れを確認して助産師さんは退室した。

そこから数分後朝ごはんが運ばれてきた。メニューは食パン、サラダ、スープとフルーツの缶詰(フルーツアレルギーのため缶詰)。この食パンが5枚切りなんだがなかなかに曲者で喉を通って行かない。今日も食パンに苦戦していると助産師さんが慌てて入ってきた。

「空月さん!大丈夫!?」

「??はい。」

「今何してました?」

「食パン食べてました。」

「急に酸素の値が下がったので…、大丈夫ならよかったです。」

「あの…、食パンがとても食べづらくて…ご飯に変えてもらうことってできますか?」

「食べ辛いですか?」

「はい…、なんだか喉を通って行かないです。あとご馳走様でした。」

「半分以上残ってますが下げてもいいですか?」

「すみません、なんだか食欲がなくて…。」

出産1日目の夜以降ご飯をほとんど残してしまう…。食べようにも喉を通らない。

「あとで栄養士と相談してみましょう。ではまた洗髪の時に来ますね。」

そう言って助産師さんはご飯を下げてくれた。

(ふぅ〜…。なんだかいろんな人に迷惑をかけてるなー…。)

手術後まだ3日目なので仕方ないのとは思いつつこんな状態で本当にあと3日で帰れるんだろうか…。帰ってからの生活が不安になる。里帰りをしないと決めた為、帰ったら私と夫の二入で家事育児をしなくてはいけない。夫が家事全般出来る人なのでそこは安心だがそこに育児と寝不足が入ってくるとどうなるんだろう…。今、赤ちゃんはGCUにいて同室にもなっておらず、夜間の搾乳だけで寝不足気味なのに…。

(帰りたい、でも帰りたくない。)

複雑な心境だ。帰ってから動けるようにちょっとでも動いて自分でもリハビリをしよう。わたしはこの時脈拍が130を超えていて、ずっと肩で呼吸をしているような状態だったが気持ちばかりが焦り自分の状態も分からず頑張って動いていた。しかし、動くとすぐに助産師さんが部屋に飛び込んでくる。

「空月さん、大丈夫!?」

「はい…。」

助産師さんはモニターを確認しながらあまり動かないようにと言って出ていった。そうこうしてるうちに助産師さんが洗髪に呼びに来てくれた。手術前の夜からシャワーも浴びてない、清拭だけだった為自分でも頭の臭いが気になっていた。

シャンプー台が下がるときは痛みに呻いたが洗ってもらってかなりスッキリした。シャンプー中も助産師さんは簡易モニターで脈や酸素の値を確認している。洗ってもらって部屋に帰るとドッと疲れが出た。

ドライヤーで頭を乾かすのも一苦労だ。ハアハアと荒い呼吸をしながらもなんとか乾かすことができた。髪が久しぶりにふわっと軽い。いい匂い!それだけでも心は軽くなる。

お昼を少し食べ、休憩しているとコンコンとノックがあり、

「空月さん、ご主人さんには来られましたよー。」

と夫と入ってきた。なんだかホッとして涙腺がゆるっとなる。

「お疲れさま!汗だくだね。」

私は夫に話しかけると夫はソファに座りながら

「今日も暑い!いつ夏が終わるんだか…。元気そうだね。いっぱい管は繋がってるけど。」

「うん。しんどいけど産後はこんなもんなのかな。初めてだから分からない。痛みもだいぶましになってきたしね。」

「歩けてるの?」

「トイレまでは歩けたよ。尿道カテーテルはまだついてるけど。」

「ま、ゆっくり治していこ。赤ちゃんは今日は部屋に来るの?」

「ううん、今日は車椅子に乗れたら私がGCUに会いに行くことになってるよ。」

「そっかー、会えないのは残念…。」

他愛のない話をしていると穏やかな気持ちになっていく。

「昨日の朝は本当に怖かったよ。死ぬんだと思った。真っ白になった世界で誰かに呼ばれて目を覚ました。目が覚めたときはここがどこかさえわからなくて、誰が呼んでるのかもわからなかった。」

「臨死体験?ないない!大丈夫だって。大袈裟だなぁ。」

「本当に怖かったんだから…。」

「でも今はもう大丈夫でしょ?」

「うん。」

「なら大丈夫。」

「そっか…。」

そんな話をしているとコンコンとノックがなった。

「空月さん、理学療法士です。リハビリ行けますか?」

「あ、はい。」

「今日は座れるならGCUに行ってみましょう!」

「はい!」

「じゃ、リハビリするね。」

私は夫に向かって言うと夫は頑張れと言った。


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