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恋してる時に限って…

初めて恋愛らしい恋愛をしたのは34歳。今の夫がその恋人なんですが。

34年間片思いはあれど成就せず、こじらせにこじらせていた私。

やっと好きな人と恋人同士になった私はこのチャンスを逃してならないと猫に猫を被り、本当の自分をひた隠し、失敗してはならぬと毎デートには並々ならぬ緊張感を持って挑んでいた。

今思えば自分で自分に可愛らしい時期もあったもんだと思うが、その時は必死すぎて空回る。

その日のデートも私は緊張していた。こじんまりとした雰囲気の良い美味しいお気に入りの居酒屋に入った私たち。今日は何を飲もうかな〜と彼は上機嫌でメニューを開く。私はお酒が全然飲めないのでジュースを頼む。そこのジンジャーエールはすりおろした生姜が入っていて私のお気に入りだ。

お酒と一緒にお通しが出てくる。

「お疲れ様〜。」

二人で乾杯して少し飲む。

「あ〜、美味しい。」

彼は満足げにそう呟く。

うん、かっこいい。前回よりも近くなった距離。隣り合う彼の体温がほんのり私の腕に幸福をもたらしてくる。

他愛のない話で盛り上がり、お酒も進む。私は注文したお刺身に手を伸ばすとワサビとつけ一口小さく食べ…

ゲッホ!!ゲッホゲホゲホ…!!

「き、気管に…、ゲッホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ、ゲッホ、ウッホ…ゲホ」

カウンター越しの店員が慌てて

「だ、大丈夫ですか!?」

とおしぼりを差し出してくる。なんて気の利く店員さん!

「あ、ありが…グエッホ!ゲホゲホ…ハァ…ゲホ…ハァ…ハァ…。」

さっきまでのいい雰囲気があきらかにぶち壊されている。

「フゥ…、フゥ…。」

やっと落ち着いてきた。こんなに乱れた私を見せるなんて…。ふっと泣きたくなる。

「大丈夫?」

彼が咳き込んで真っ赤になっているであろう、なんなら若干鼻水も出口にとどまっている顔を覗き込んでくる。

「落ち着いて食べてね。」

「う、うん。」

苦笑い。意気消沈。テンションガタ落ち。

その後なんとか回復してきた雰囲気とテンションと私。終電まであと30分ほど。

「そろそろ出よっか。」

「うん。」

(もう終電か。寂しいな。)

彼はすっと支払いをしてくれる。

「あ、私も出す!」

そう言って手に持っていた財布を開けると彼はいいよと。じゃ、コンビニでシュークリーム買ってと言ったので店を出てコンビニに向かう。

店を出てすぐに

「ごちそうさまでした!おいしかったね〜♪」

とお礼をいった。彼はまた来ようと言ってくれた。

(またがあるんだ!やった!)

と心は小躍りしていた。そしてコンビニへ着くと私は尿意に襲われ彼に

「トイレ行ってきていい?食べたいスイーツ探してて。」

といってコンビニの店員さんに

「トイレお借りしていいですか?」

というと初老くらいの店員さんが表情変えずに

「どうぞー。」

と言ったのでかしてもらう。私は用を足しながら

(あれ?彼に食事のお礼って言ったっけ?言ってない…、いや、言ったような…。)

はっきりと言ったという記憶が抜け落ちている。

(ヤバい、言ってなかったらかなり失礼だよ!)

と焦った私は急いで手を洗いトイレから飛び出した。すると彼はレジに並んでいた。私はお礼を言おうと思ったが順番がきたのでレジを先に済ます。ビニール袋を彼が持ってくれた。そして先ほどのコンビニの店員さんがやっぱり無表情で

「ありあっしたー。」

と言ったので私はにこやかにコンビニの店員さんに

「ごちそうさまでした〜。」

と。

「…。」

一瞬だった。時間が止まった。空条承太郎が止められる時間くらい時間が止まった。

「あ、あ、ありがとうございました!」

私は慌ててお礼を言った。彼が背中で笑っているのが分かる。そりゃそうだ。コンビニのトイレを借りた女が出てきたらごちそうさまでしたって…。トイレで何食ってきたんだよ!って汚い話。

多分、私、耳まで赤いと思う。あまりの恥ずかしさにコンビニの店員さんがツッコんでくれなかったのが悪いとか思いだしていた。

(あーーーー!!やっちまったよ!これまで可愛こぶってたのが丸潰れだよ!)

(私の恋はここで死にましたーーーー!)

私の心は荒んでいた。ひとしきり笑った彼が私の手をとった。

「帰ろっか。」

ニコッと笑う。かっこいい。

(あれ?終わってない…だ…と…。)

「いやー、今日も傑作だったねー。」

「ロロは毎回何かしらやらかしてくれるから飽きないよ。」

どうやら私は毎回何かしらやらかしてるらしい。

(結果オーライ…だ…と…。)

うーん、彼のツボがわからない。こんな私を受け入れてくれるなんて。

本当何が起こるかわからない。

未だにこの話題で夫と盛り上がれる。

そんな素敵な恋の物語でした。



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