ワッセイリアに見るエンチャンシアという国

読者は『ちいさなプリンセスソフィア』に繰り返し登場するクリスマスのような架空の季節行事、「ワッセイリア」には一応元ネタ的なものがあることはご存知だろうか。

実は英語圏で育った人は必ずと言っていいほど「wassail(ワセイル)」という言葉を聞いたことがある。とある有名なクリスマスソングに登場するからだ。


曲のド頭から「Here we come a-wassailing」という歌詞で始まるこの歌(そういえばディズニーでも園内BGMとして使われてる気が?)。
近年はwassailing(ワセイリング)がcaroling(キャロリング)と置き換えられて歌われていることも多いことから、一般の英語圏の人でもワセイリングという言葉にはもう馴染みがなく、キャロリングとあまり変わらないものなのだろうということが推測できる。

※キャロリング=クリスマスに集団でクリスマスキャロルを街中で歌って回り募金を集める活動のこと

「アナと雪の女王 家族の思い出」でキャロリングしてるこの集団も語呂の関係か「wassailing」という言葉を使っている

筆者はこの歌を知ってはいたものの言葉の意味は知らず、ふと「結局『ワセイル』ってなんなんだ?」と気になったので検索をかけてみたところ、同じ名前の行事公式ドリンクらしき甘くて美味しそうな飲み物が出てきたので
これよりこの記事はそれを作ってみたレポになります。

ワセイル(5人前)

日本でも材料を手に入れやすいレシピを探しました!

【材料】
・リンゴジュース 1000ml
・オレンジジュース 250ml
・シナモンスティック 4本
・クローブ 大さじ1
・りんご 1つ
・オレンジ 1つ
(以下はお好みで)
・八角 2個
・すりおろし生姜 大さじ1/2〜1くらい
・ナツメグ ひとつまみ
・レモン汁 大さじ1
・お酒(今回はラム酒を使用しました) 

①りんご、オレンジをよく洗い、皮付きのまま適当な大きさに切る

クローブはフルーツに刺すのが定番みたいで、最初キモいと思った…イギリスっぽいというか…

②材料をお酒以外全て鍋にぶち込み、強めの中火にかける

確かにリンゴにクローブを刺すと後で取る手間がなくて便利

③沸騰したら弱火にし、蓋をして1時間ほど煮込む

ほんのり甘くていい匂いがしますぞ〜

④完成!

とりあえずできあがった飲み物をボウルに移す…

今回は省略したが濾した方がいいと思った

飾り用にオレンジ(分量外)を輪切りにして浮かべ…

ハッ!!!!!!

ずっと〜待ってた〜
楽しいワッセイリア〜♩

アレじゃん!!!!!

そう、歌の途中で出てくる何故かボウルで提供される謎のジュースの正体はワセイルだったのです!

これ調べてて気づいた時に衝撃受けすぎて即英語圏のセドフィアオタクたちに報告したところ、「何年か前に作ったなあ」的なゆるりと「知ってるよ〜」みたいな空気が流れ、ダブルで衝撃を受けた。
みんな知ってたの!!?教えてよ恥ずかしい!!!

気を取り直して早速飲んでみよう。
暖かいまま、好みに応じてお酒を入れていただきます。

シナモンスティックを添えて
もちろんソフィアちゃんのマグだ!

まずはそのまま。思っていたより全然飲みやすい。
スパイスを減らせば子供でも問題なく飲めるだろう(まあベースがリンゴ/オレンジジュースだからね…)。
個人的にはラム酒入れた方が冬ドリンク感が増して断然美味しかった!お試しあれ!

余談だがアンバーが食べていたクッキーもワセイルに関係するものだった。赤いクランベリージャムの酸っぱさがジュースの甘さとちょうど合うそうだ。

これです
ただのクッキーじゃなかったのね

しかしこれで今回分かったことがひとつ。
「ワッセイリアは『なんとなく名前を引っ張ってきただけの現実のワセイリングと無関係の行事』ではない」ということだ。

実はこの件について調べ物を始めるきっかけになったのは、「そもそもワッセイリアってなんのお祝いなんだ?」と疑問に思ったことだった。
エバーレルムにクリスマスやハヌカーが別に存在してるのはソフィアの絵本や『エレナ』本編でわかっている。どちらもそれぞれの宗教に関連するものだが、ワッセイリアはどうなのか。

Wassailingのwikipedia記事によると、ワセイリングは2パターンの祝い方があるらしい。ちなみにどちらもイギリスのものである。
①庶民がワセイルを作って大きなボウルに入れ、それを飲んで体を温めながら集団で金持ちの家を巡って歌を歌い、食べ物などのお恵みをもらう祭り(=後にキャロリングになるもの)。
②リンゴの産地の人たちが、冬になって眠っているリンゴの木を歌で起こして魔除けをし、次の年の豊作を願う祭り。

まだピンとこないが、これらを頭に入れた上で『ソフィア』シーズン1の24話「とくべつないちにち」を見てみよう。
冒頭で流れる歌に「ツリーのそばで歌を歌おう」という歌詞があるが、こちらは英語版で「My mom and I sing carols every year around the tree(毎年ママとツリーのそばでキャロルを歌うの)」となっている。

いや、キャロルはあるんか!!!
キャロルは讃美歌の一種というか、いわゆるキリスト教にしか存在しない歌のジャンルである。そしてやはりワセイリングと同じく「歌」も行事に重要な要素であることも間違いなさそうだ。
(ちなみにツリーはクリスマスのものじゃないのかという話だが、実は現在は割とその辺はゆるかったりする)

食事にも目を凝らしてみよう。

アラベラリンゴのアップルパイ!おばさん帰ってきてるのか
大量のぶどうとリンゴ
庶民のテーブルにもありますね、リンゴが

リンゴは元々『ソフィア』によく出てくるモチーフだ。大きさはあるけど片手で持ててビジュアル的にわかりやすいし、アメリカで「健康的なおやつ」というイメージがあるからというのがメタ的な視点で見た理由だろう。

『やさしいセドリックさん』で国民に配りに行ったのもリンゴでしたね

しかしクリスマスは海外でもヒメリンゴみたいなのを飾り付けに使うことはあっても、リンゴ自体が食卓において大事な役割を果たすというのは聞いたことがない。
庶民の家の食卓にもリンゴがあるというのは製作者がワセイリングを意識して意図的に置いたものであると考えて間違いないだろう。

ここで一つの仮説を立てたい。

エンチャンシアの貿易における主な輸出品はリンゴをはじめとした「農産物」なのではないかと。

ここで回は飛ぶがシーズン4の3話「はなのかんむり」を参照してみよう。

ノームたちは自分たちの国を「ここと違って土地が悪いからね」と形容している。種も祭り用に年1つ使っていただけのようだし、エンチャンシアはノームの冠の力がなくても農業が成立しているということだ。
あれだけ豪勢な「みのりの祭り」を王家が先導して毎年やっているのも、農業が栄えることがそれだけ国にとって重要なのだということではないだろうか。
エンチャンシアはリンゴを作る国だから、ワセイリングをするのである。

エンチャンシアはイギリスをモチーフにしている部分が多いというのは製作者のクレイグ・ガーバー氏も明言している。ワセイリングの要素を取り入れるのにも明らかに誰かがしっかり調べ物をした形跡が残っている以上、そのような裏設定があってもおかしくないと思ってしまうのだ。

話が少し逸れてしまったので話題をワッセイリアに戻そう。

次は行事の中心として置かれている「キャンドル」。

お城にあるのも庶民の家にあるのも全く同じデザインだ

これについては色々調べたが、ハッキリとした答えはわからなかった。なんとなーくハヌカーの要素を取り入れてるのかなという気はするが、新たな祝祭を作るのにあたって考えたオリジナル要素なのかもしれない。

ローランドは灯りを灯す際、「エンチャンシアの人々の幸せ」を願っている。
Wassailの語源は古英語のwes hálから来ていて、「あなたの健康を/幸運を祈る」という意味である。これはワセイリングから取っていると考えて良さそうだ。

最後にプレゼント。

これは言わずもがななので画像は省略するが、ワセイリングとの関係はない。プレゼントを贈り合うのはクリスマスの文化であり、そこから引っ張ってきているのは間違いないだろう。

以上からワッセイリアは「クリスマスから派生した、宗教色が弱く愛する者の幸せを願うことに重きを置いている行事」なのではないかという結論に至った。
ワセイリングの祝い方は2つあると前述したが、その2つとクリスマスをうまく織り交ぜ新たな祝祭として生み出されている。

『ソフィア』に最初にワッセイリアが出てきた時、「きっとクリスマスを祝わない人たちにも配慮した結果なのだろうなあ」と思ったしそういう側面があるのも正しいのだろう。
しかし今回のリサーチを通して、今はどちらかというと製作者たちが「私たちの現実からちょっとだけズレたパラレルワールドにあるクリスマスはどういうかたちのものなのだろう」ということに真剣に向き合った結果生まれた行事なのではないかと考える方が個人的にしっくりくる。

『ソフィア』の世界観は、パッと見た印象よりよく考えられている。その小さなこだわりひとつひとつを見つけているうちに何年も経ってしまったし、まだまだ見つけられると筆者は確信している。一生噛めるもの作ってくれてありがとうディズニー。来年の今頃にはスピンオフ始まってたりするのかな。5人前もあるワセイルを一人飲みながら、思いを巡らせるクリスマスイブなのであった。

メリークリスマス&ハッピーワッセイリア!

最後に余談:
ワセイリングはクリスマスの12日目、つまり1/5か6に行うものなのだそうだ(クリスマスイブのパターンもあるらしい)。もしエンチャンシアでも同じ日程だったとしたら1/1〜17のどこか生まれのセドリックさんは子供の頃間違いなく誕生日と1つにまとめてお祝いされていたのだろう。どこまでも不憫な子…

参考資料:
歌の和訳
https://www.worldfolksong.com/sp/christmas/song/wassailing.html

Wassailingのwikipedia
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Wassailing

ワセイルのレシピhttps://rootsandrefuge.com/homemade-wassail/

クッキーの写真拾ったところhttps://www.slaveryandremembrance.org/almanack/life/christmas/hist_wassail.cfm

クッキーについての説明
https://iwannabake.com/2015/12/16/wassail-cookies/

現代のワセイリング
https://youtu.be/kFwKFseL8WQ?si=JmfcNkGx9fe24IWV

今回の記事のきっかけになった動画 (Gracias Tsuki!)
https://youtu.be/aEbO80_4uyM?si=NEe7HZA_wbSpQM_I


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?