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コンサルがM&A提案を甘く囁くわけ

社長のごり押しにより、カリフォルニアで胡散臭い投資案件対応をするお嬢氏とヒルズ氏。しかし、肝心の社長は待ち合わせの時間に現れなかった。(前回


姿をみせない社長ーー。まさかお嬢氏により物理的に抹消されたか?と期待したが、そうではないらしい。やれやれ、穏便に視察を終わらせさっさと日本に帰るぞ!

◆緊急帰国の理由

社長からのメールを開く。
御本人いわく"日本で緊急案件が発生" したため一足早く帰国するとのこと。

「「 緊急、、、案件? 」」

そんなものはあったか? 二人してロビーで首をかしげる。実態は「お嬢氏と隣部屋の試みが失敗に終わり気まずいから帰る」くらいの理由だろう。

ため息をついていると、更に社長から新メールが着弾。宛先は新人Boy氏、そしてCCに角刈り氏だ。

" いいですか? 某飲料メーカーへの支援から2日もたつのに、次の提案骨子もできていないとは何事ですが? 私が日本に戻るまでには整えておくように!"

「提案を急げ」と指示がでたのは昨日深夜だったはずだが、、、お嬢氏に精神と時の部屋(*)でも手配されたのか?

諸君、お忘れかもしれないが、角刈り氏は我々の上司だ。が、彼の提案能力は全く頼りにならない。新人Boy氏? 論外だ。ゆえに私は今、頭を抱えて座り込みたい気分になってるんだよ。

「帰国便も、眠れないのかよぉぉ、、、」

◆激甘スイーツ案件

サンノゼ、サンマテオ、サクラメント、、、スタートアップのソリューション導入事例を視察し無難に出張は終わった。ほっとしたのも束の間、最終日の昼便で帰国予定の我々に「朝食を共にしないか?」とショートメッセージが届く。

最終日の朝、指定された空港近くのホテルへ向かう。ソファから立ち上がり我々を迎える薄塩CEO。

笑顔に潜む眼光が鋭い。
あぁ、話したいことなど百も承知だ。

コンチネンタルブレックファーストをつまみながら、単刀直入に切り出す薄塩CEO。

「御社とは契約を結びたい、だから日本企業へ早急な買収提案をしてくれ」

2か月程度で買収または出資提案を複数社に実施、その後、自ら日本に出向きクロージングしたい。

ふむ。。。承知したが。。。

やんわりと、だがはっきりと告げる。

「日本企業の意思決定スピードを考慮ください」

ご存じの通り、日本企業の買収・出資はスピード感がありません。あまりのなさに米国企業からは早々に "脈なし" と判断されることも多いのです。


悲しいが真実だ。
ありがちな流れを紹介しよう。

1.幹部レベルに買収提案 
2.「検討しろ!」と現場レベルへ
3.現場、ひとまず資料をまとめる
4.「違う、ほしい資料はこれじゃなーい!」

3~4の無限ループに陥り数か月経過。混乱した幹部と現場がコンサルに分析してくれと泣きつく。よー知らんけど?状態のコンサルが適当なフレームワークで社内説得用資料を代筆。

ここまでくると冷静な判断などできない。

かけてしまった稼働・費用と幹部のメンツのために、通すこと前提の資料作成が開始される。かくしてデューデリ激甘スイーツ案件が幹部のごり押しで通されることになる。よく「コンサルの甘い言葉に騙された」と憤る方がいるが「騙してくれ」という依頼もまた多いのだ。

薄塩CEOも日本企業の習性については重々承知だろう。頷きつつ「それを早めるのも御社の役割だ、期待している」と釘を刺された。


◆ひとかけらの良心

「ビール、私はビールを飲むぞぉ!」

謎のテンションで空港ラウンジに移動、颯爽と上下ユニクロに着替える。時々「コンサルはスーツ姿以外がダサすぎる」と女性誌で酷評されているそうだが(**)、頼む、とにかく楽をさせてくれ。

お嬢氏もリラックスウェアだが、こちらは上下セリーヌ。白ワインを片手にスマホを眺めている。

、、、


さてと、この案件どうするか。

本来、考えるべきはスタートアップと買収元候補企業との相性だ。しかし、買収させることだけを考えるなら検討すべきは、どの幹部の欲望をくすぐるか、になる。

幹部になりたてで、
派手な手柄がほしいが、
経営学に疎い。

まるで嵌め込み案件だなーー。いや、買収提案というのはどれもそういった側面はあるのだが、、、エゲツないな、いかんいかん。頭を少しふり「コンサルとしての倫理観」を取り戻そうとする。


カリフォルニアのカラッと晴れた空よ。

私の心も爽やかに乾かしてくれよ。


どんよりとした喉にビールを流し込み、パソコンを開いた。

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Twitter: @soremajide

(*) 「ドラゴンボール」に出てくる修行部屋。室内に1年いても外の世界は一日しか経っていない、という時間の歪みを作り出す。コンサルをしていると上司が精神と時の部屋に訪れたとしか思えない発言をすることがある。即ち、異常な納期の発生だ。

(**) 中途半端に金を持つと、中途半端に値段が高くかつ突き抜けてダサいファッションに手を出してしまう方が多いのだろう。だからユニクロを選んだ私を許してほしい。

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