見出し画像

コンサル流、休暇の過ごし方

社長の身から出た錆としかいいようのない売上低下。その皺寄せにより無茶なコンサル営業を強いられたヒルズ氏たち。嵐の後に待つは、次なる嵐の前の静けさだ。(前回)


パステルカラーの家並みを抜け、小さな広場に着く。適当な白ワインを注文し日当たりの良いテラス席に落ち着いた。

「スマホは機内モードだぞ、っと!」

ここはラエコヤ広場。そう、私は今エストニアの首都タリンにいる。


◆嵐の前にすべきこと

仁義なき営業から数か月がたった。
某飲料メーカーへの営業は見事にクロージング。お嬢氏が進めていた部品メーカーへの営業も成功した。

カリフォルニアのスタートアップ買収話はどうなったって?

予想通り、日本企業サイドの意思決定プロセスは混乱を極めた。数か月にわたる企業内冷戦の末「買収」「出資」に変更された。金はついたが中途半端な落としどころであった。

何はともあれ、ついにプロジェクトがスタート!副社長とやらが参画するわけだが、、、

その前に、やるべきことがある。


ワインに添えられたオリーブをかじる。まだ肌寒い時期のせいだろうか。周りにはヒルズの民どころか、日本人すら見当たらない。

元々はスウェーデンの予定だった。直前に社長が北欧諸国に出張予定と聞き即座に行き先を変更。情報入手元はもちろん、我らが爆乳・有能の化身・総務だ。

「こんな時に鉢合わせたら最悪だからな」

やるべき事、それは束の間の休息


そしてその前に、転職活動だ。


◆コンサル人材 vs VC人材

タリンに出発する前日、
私は昼下がりの恵比寿にいた。

「ここさ、ポリエモンもよく来るんだよね」

カウンター席に並べられた肉厚なアジフライを前に蘊蓄を語るは某ベンチャーキャピタル(VC)社長。雑誌「OCEANS」 から飛び出てきたような、白Tに紺ジャケ、デニム、足元はスリッポンの爽やかな出で立ちに、脂ギッ、、、じゃないエネルギッシュな顔立ち。

まさか、と思いつつ目線を手元に向ける。

ピンポンピンポーン!!!

ハイクラス感とカジュアル感を絶妙にMixしてくれるイタリア高級腕時計、パネライ様のお出ましだ。

「さすが、素敵な時計ですね」

「あぁこれね、大したものじゃな(以下略)」

、、、コンビニ店員かよ。

マニュアル会話を繰り広げながらアジフライをつまむ。パネライ氏はアジフライに続き、鳥唐揚げ、天ぷらと揚げ物を中心にオーダー、勢いよく平らげていく。

持論なのだが、、、コンサル人材とベンチャーキャピタル人材の大きな違いの一つは「食欲」ではないか? VC界隈の「エネルギー値が高い者が成功する」思想が、彼らを暴飲暴食に走らせている気がしてやまない。

きすの天ぷらを頬張りながらパネライが尋ねる。

「でさ、ヒルズ君いつ辞めるの?」


◆パネライの誘惑

彼とは共通の知人を通じて出会った。しかし2人で会うのは初めてだ。カリフォルニア案件がきっかけでVC界隈への興味が強くなっていたところ、彼から食事の誘いをうけたのだった。

「コンサルってさ、1を10にする仕事だろ?」
そろそろ0を1にする仕事、したくないかい?

「そうですね、、、」
パネライの尿酸値を気にしつつ頷く。

私は迷っていた。

このままでいいのか?
このままヒルズ砂漠を彷徨い続ける生活で、、、

いやそれはない、砂漠脱出に迷いは1ミリもない!

私の迷いはいつ辞めるか、そしてコンサルで居続けるべきなのかーー。

「今の仕事を続けると逃げ癖がつくよ」
「リスクをとるなら若いうちじゃないか?」
おかわりの白飯を手に、パネライが続ける。

痛いところをつく。

そうなんだ、コンサル業を続けるとリスク回避能力が高まる。そりゃそうだ。リスク大嫌いな大手役員のお相手ばかりするのだから。

しかし、それで良いのか?

「失敗しないと判断力ってついてこないからね」

ぐぅ、、、

言い返したい気持ちと、謎の快感に襲われる。
まさか、私はドMだったのか?

「この後、オフィスで詳しい業務を説明するよ」

次のキャリアではスタートアップを支援するのもありかーー。

ぼんやりした将来像を思い浮かべながら、広尾方面に向かうパネライの後を歩く。

(次へ)

サポートは全て執筆中のコーヒーとおやつ代にあてられます。少しでも気に入ってくださった方、執筆者に続編に向けたエネルギーを与えてやってください。