見出し画像

持てる推理力を尽くしてゲーム「Return of the Obra Dinn」をプレイしたはなし

 筆者は今まで様々な“謎解き”要素のあるゲームをプレイしてきた。単純な犯人当てから、パズルのようなものまでゲームシステムは多種多様であった。そういったゲームをいくつかプレイしたことのある人なら分かってもらえると思うが、本当に全力で“謎解き”を許してくれる作品というのは意外と少ない。

 自分の持てる推理力(想像力や観察力などを含む)をすべて注ぎ込んだ結果、深読みのしすぎで逆に不正解となったという経験は誰しもあるのではないだろうか。人間は学習する生き物である。そういった経験をしたプレイヤーは、無意識のうちに自分の推理レベル(深読みレベルとでも言えばいいか)を作品に合わせてコントロールするようになる。
 例えばシリーズ物の作品であれば、過去作でのパターンやシナリオライターの癖を読み取ってこうなるだろうという、予測や決め打ちをすることもあるだろう。
 メジャーな制作会社のゲームであれば「万人受け」というのもある程度は考えなくてはならないので、謎解きは比較的やさしくなりがちだ。これは苦手な人でも楽しめるように、という配慮のもとでされていることだから批判することではないが、物足りなく感じるプレイヤーもいることだろう。
 ある意味での“慣れ”とでも呼ぶべき「パターン化した思考」のようなものが、謎解きゲームを多くプレイした人ほど持っているように感じる。これは人間が学習する生き物である限り避けられないことなので仕方ないのだが、そこから「これはこんなもんだろう」と舐めてかかる態度や「おそらくこのパターンだろう」という決めつけを生んでしまうこともある。

 本作「Return of the Obra Dinn」はそういった慣れや易しい謎解きで鈍ってしまったアタマを、ガツンと目覚めさせてくれる歯ごたえのある推理ゲームである。
 突如として消息不明となり帰還した商船オブラ・ディン号に乗り込み、船員と乗客をあわせた全員の「氏名」と「生存もしくは死亡」のデータをすべて集めきればゲームクリアだ。
 ルールは非常に簡単だが、実際にやってみると謎解きの難易度としてはかなり高いことが分かる。プレイヤーに与えられるヒントは基本的に、その人物の“死の瞬間”を切り取った「一つの場面だけ」だからだ。
 その静止画のありとあらゆる箇所を観察し、ときには推測し推理し、この人物が誰で、誰によって殺害され、もしくはどこで生存しているのか?を当ててゆくのだ。
 舐めてかかると火傷するぜと言わんばかりの態度で、表面をなぞった程度じゃ死因すら不正解になったりする。またこのゲームは3人の氏名と死因を1セットとし、そこで初めて正解かどうかの判定がされるので、総当たりのやり方は出来ない。自力で3人分の正しいデータを集めたときに初めて、自分の推理が当たっていることを知らされるのだ。
 とことん深読みを許してくれるこのゲームをプレイしている間、私はただひたすら楽しかった。乗客一人の名前を当てるだけのために、私は専用のノートを用意し乗客全員分のデータをひたすら集めた。そこまですることを許してくれる、そんなゲームは今までなかった。
 名前も知らぬ人物の国籍・船上での役割・身体的特徴・服装・持ち物・通称・相手への呼びかけかたなど、細かなところまで観察しなければこの謎は解けないのだ。フルカラーですらないセピア色のゲーム画面とにらめっこしながら、ひたすら頭を捻った。
 夢中になりすぎて、最後には正直に言って物語の結末などどうでもよくなっていた。とにかく全員分の正しいデータが書き込まれたノートが完成して、むしろそちらのほうが大事なもののように思えたのだ。実際にはただの事故処理報告書でしかないのだが。
 なにしろ主人公はただ、オブラ・ディン号の損害査定書を書き上げるためだけにこの船に乗り込んだわけで、こんなことはただの仕事の一環でしかないのだ。物語の最後に表示される、損害査定額が書かれた事務的な文書を見てもそれは明らかだ。
 けれどそのドライさが逆に心地よかったと思う。あくまでもこれは仕事です、という顔をされたほうが、一つの仕事をやり遂げた感じが強まってとても良かった。

 全力を尽くしてもまだ足りない、という手強い謎解きを求める方にはぜひこのゲームをノーヒントでプレイすることをオススメしたい。謎解きが苦手な方は、ネット上にはネタバレを避けつつも攻略のヒントを与えてくれる親切なサイトがいくつもあるので、そこを頼りつつプレイすることをぜひオススメしたい。
 いずれにしてもクリアしたあと少し自分に自信がつくゲームであり、達成感は言葉にできない。そんな作品だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?