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荻上チキの小山田インタビュー

2023年の年末に、荻上チキによる小山田圭吾のインタビューが公開された。2年前の五輪の炎上について小山田本人がどう受け止めたのか、問題とされた過去の自分の行動についてどう考えているのかを、少し時間をおいた地点からあらためて語っていて、とても貴重な内容だと思う。

小山田圭吾×荻上チキ 東京オリパラ騒動から2年…小山田圭吾は何を思い、考えたのか〜いじめ、メディア、キャンセル - wezzy|ウェジー
https://wezz-y.com/archives/95845 

このwezzyというサイトは2024年3月で閉鎖されるそうなので、ぜひいまのうちに広く読まれてほしいと思ってこれを書いている。それと、荻上チキについて小山田ファンの間で評価が割れていることについても自分なりに思うところがあったので、それについても触れる。

「応答」するコーネリアス

インタビューを一読して自分が感じたのは、あの件について小山田が応答する姿を見られるのは、炎上に心を痛めたファンの一人としても希望を感じられることだということ。私は結局、「名誉挽回」というのは本人がその後の人生においてどうふるまうかでしか実現できないと思っているので、こうやって応答の機会を与えられて、本人もそれに協力するのであれば、もうそんなに悪いことにはならないだろうと感じた。

冒頭の経緯説明を読むと、荻上もまた小山田に対して応答の機会を作るアクションを続けてきたこと、小山田も何度か辞退をしながらも「いじめ問題について詳しい荻上さんにお話を伺えるのであれば」と受け入れてこの企画が実現したことが書かれている。荻上がいじめ問題について啓蒙活動なんかもしている人物だから受けた、という理由が印象に残る。

実際に、本編ではいじめについての荻上の説明にそれなりのヴォリュームが割かれていて、21世紀にはいじめ対策の研究が進んでいることや、良い効果が表れはじめていることなんかも言われていて勉強になった。

インタビューは2023年5月に行われたというが、体調がまだ本調子ではないこと、「社会貢献」をやってもわざとらしい贖罪のポーズや宣伝ととられる可能性もあって表に出さなかったということも言われている。炎上時の状況も、改めて語られるとやはり苛烈としか言いようがなく、よくぞ生き延びてくれたとの思いを新たにした。

なんとなく、2023年のコーネリアスは、6月に騒動後初のアルバム『夢中夢』を発売し、ライブ活動や展覧会への出品など旺盛な活動を見せてくれたから、観客としてはもう「完全復活」という印象ばかり抱いていたのだけど。それでも、企業やパブリックなイメージのある仕事は復活していないというし、やっぱり見えないところではまだ炎上の後遺症があるんだな、それはそうだよな……と気づかされた。

そういうわけで、「その後」の小山田を知るために良いインタビューだと私は思ったし、特にファンには貴重な内容だと思ったのだけど、ネットの反応を検索してみるとどうも様子がおかしい。ファンの一部が荻上チキに敵対していて、「小山田を批判していたくせに」「ラジオでデマをばらまいたくせに」といった方向からむしろ非難するものまであるので驚いてしまった。

ラジオでデマをばらまいた?

そもそも荻上チキはラジオを通して小山田に対する「集団いじめ」に加勢した側だったのかどうか。そこからしてすでに、私の認識と食い違っている。

根拠となる発言は、2021年7月19日放送のTBSラジオ「荻上チキ・Session」でのものだと思われる。この番組、私も本放送からそれほど時間をおかずにタイムフリーで聴いた覚えがあるし、2022年の正月に荻上がDOMMUNE辞退の件で(これまた一部の)小山田ファンから叩かれていた時にも聴き直したのだけど、どこが小山田を叩く内容と言われているのかいまいちわからなかった。

この回の書き起こしを公開している「初学者」さんという方は、公開の意図として、「Corneliusを聴いていたリスナーとして荻上チキさんの解説から小山田問題のモヤモヤを解きほぐすヒントを受け取ったような気がしたので書き起こしてみました。」とおっしゃっている。
https://twitter.com/novice_politics/status/1418240020100513793

私の感想もおおむねその通りだった。つまり私がこの放送を聴いて受け取った荻上発言の趣旨は、「いまの炎上を鎮めるのは難しいだろうが、本人が今後の活動の中で応答し続けることによって印象は変わっていくだろう」というものだ。

確かに、番組では自慰や食糞の強要などを小山田が「繰り返していたんだということを言っていたわけです」と紹介するくだりはあって、荻上を批判する人はそこを問題にしている。雑誌記事の不正確な引用だ、切り取りブログの間違った情報を公共の電波で拡散させた、炎上のさなかにわざわざ燃料を投下している、と。荻上こそ集団いじめの加害者だろう、というわけだ。

でも私が聴いたときは、話の流れ上必要な説明をしているだけだと思ったし、全体の趣旨としてはさっき言った通り、今後の活動次第という話だと受け取った。だから荻上が「叩いた」とか「炎上に油を注いだ」という印象はまったくなかった。当時小山田が、「自慰や食糞を強要した人間」であるとして世間から叩かれていたことそのものは、事実なのだし。荻上の紹介は炎上の原因というより結果であって、そのうえで前向きな道を示して締めているのがこの放送だと思ったのだ。

だから、「雑誌の内容の正確な伝達」にこだわるあまり、全体を見ずに荻上を敵扱いするのはまったく意味のないことだと私は思う。というよりも、五輪の炎上から2年経ち世間の誰もが忘れてしまった時期になっても、荻上は「その後」の小山田を気にして、実際にインタビューを申し込み、社会に向けた「応答」の機会を作っているわけで、ファンにとってどちらかといえばありがたい存在ではないかと思うのだ。

「一番悪いのはやっぱり僕」

そういう経緯からいって、このインタビューで特に印象的だったのは以下のくだりだ。

荻上 小山田さんに対して、「許されない」「適任ではない」という反応も多くあった一方で、一部「こう読めば、実際の加害加担は最小であると読めるはず」「今なお責められるべきものなのか」といったものもありました。こうした反応に対して、いまはどのように振り返っていますか?

小山田 僕のことをかばってくれているのはわかるし、とてもありがたかったです。ただ、あんなことを言っちゃった、そして長年社会的に訂正せずに放置していたのは自分なので、一番悪いのはやっぱり僕だなと思ってますね。

https://wezz-y.com/archives/95845

彼を擁護するファンについて、「かばってくれているのはわかる」と感謝は示しつつも、それでも悪いのは自分だと結論づける小山田の言葉を引き出している。非常にまともな反応で、私はほっとした。

小山田が「完全無罪」ということにならないと気が済まないファンが、「あんなのはいじめのうちに入らない」「小山田のいじめは『作られたもの』だ」みたいな変な擁護をし続けて、結果的に話を蒸し返し続けるのは、はっきり言って逆効果でしかないんじゃないかと私は思っていた。小山田本人の言葉を、もっとよく読み、よく聞くべきなのではないか。

炎上は不幸なことだったけれど、すでに起こってしまったことだし、その過去はもう変えられない。本人が「一番悪いのはやっぱり僕」と認めて、肝を据えて活動を再開しているんだから、ファンはただその姿を応援すればいいじゃないかと私は思っている。

「キャンセル」された数々の仕事のうちでもっとも残念なものの一つだった、「FLAG RADIO」のレギュラーも4月から再開するそうだ。新しい現実が動き出している。続きを、もっと見たい。最後まで、見届けたい。

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