草作

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マガジン

  • 音楽とエッセイ

    音楽が人生と交わる瞬間は、僕らは音と共に生きている。

  • ものづくり夫婦世界一周紀

    2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載したエッセイです。

最近の記事

あなたはどう暮らしていますか

前の家が気になってしょうがない。これってみんなそうなんでしょうか。 全寮制の学校に暮らしていた中学時代からそう。自分のぎっちりと書類を詰め込んでいた棚が、次の住人はさっぱりと整頓されていたり、はたまた大きく散らかっていたり。 ただの長方形2段の木製棚だけでも、レイアウトは無限大。ゆえに楽しいもの。 流石に社会人になってからは、新しい住人に中の間取りまで見させてもらうことはモラルに反するので外から眺めるだけだが、それでも充分楽しめる。 玄関の出で立ち、洗濯物の干し具合、

    • 心の風邪をやりすごす

      1月・2月って、どうしてこんなに体調を整えるのが難しいんだろう。 三が日を終えることにはもう気持ちを保つのが難しくなって、1月末の妻の誕生日を迎えることにはすっかり難しい顔になっている。今年もなかなか大変。 やるべきことはやっているはずなのに、心に充足感が生まれない。 天が休めと言っているに違いない。それならゆっくり休もうかと思い立ち映画を見て酒を飲み、スナックを食べたら良くなるどころか悪化した。 なにもしないって、なんでなにかしてるよりも疲労感が残るの?うーん、生ま

      • なんにもない日は、火をくべようっと

        ・ 岩魚の塩焼きを給仕する。 18歳、浪人、僕の仕事だった。まだ雪深い春の上高地の山小屋で、囲炉裏の脇に設けられた段差に腰を下ろし、英単語帳を片手に囲炉裏を眺めていた俺。今あのときの場所に戻れるなら俺に言ってやりたい。単語帳片手にバイトするとは何事だ!と。先輩怒ってるぞ。 男は誰しも火を見るのが好きだと思うけれど、僕が火の魅力を殊更感じたのはあの18歳の囲炉裏だったなあ。 帝国ホテルの従業員が休日の楽しみに食べに来たバイト先の岩魚の塩焼きは、まさに芸術。炭一つ落ちてい

        • 空気が変わったくらい それだけでも人生は大きく変化する

          ご無沙汰しております。 2021年の草作です。 昨年の夏ごろに10年近くを過ごした埼玉を離れ栃木県益子町に引越しました。 今住んでいるところは住居と作業場と冷蔵庫室がひしめく一風変わった物件だけど、ポテンシャルは大。 休日になれば作業着に着替え、こつこつとリノベを楽しんでいます。 妻一人アヒルとアイガモが一匹ずつ。おおむね幸せに暮らしています。 益子町に越したきっかけ今はいろんなことを準備している段階でまだ形になっていないことばかりなので、今日は引越して思ったこと

        あなたはどう暮らしていますか

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        • 音楽とエッセイ
          5本
        • ものづくり夫婦世界一周紀
          114本
          ¥100

        記事

          僕のZ1-J

          「清水の舞台から飛び降りる」という言葉はたいてい冗談で言うもので、本当にそんな気持ちで物を買うことはそうそうない。 僕が初めて「清水」を経験したのは浪人生の時だった。山小屋の住み込みバイト代を叩いて、僕は25万円のSONYの業務用カメラを買った。 買った場所は中野のフジヤエービック。撮影機材専門店だった。煌々と蛍光灯が光っている店内に歩く人たちは、一様にチェック柄のシャツにメガネをかけていて、体型が良かった。ひょろっとしている坊主姿は僕一人だった。 何も買うつもりはなか

          僕のZ1-J

          ドラム音が映し出す景色 The 1975 If You're Too Shy

          薄い雲空をジェット機が切り裂き薄藍色の空が顔を出す。人間の脳は概ね3歳以降の記憶しか保てないというから、僕の記憶は1994年からスタートしていることになる。でも、僕の記憶を煌びやかに蘇らせるその音楽は、僕が生まれる5年以上前に作られたものだ。 そのドラムの音の音が一つのその光景を映し出す。突き抜けたようなドラムの音、音圧は低く、遠くではスーッというホワイトノイズが聞こえる。でもそれがまるで自分が空でそれを聞いているような錯覚を与えてくれるのだ。 94年。ダボついたトレーナ

          ドラム音が映し出す景色 The 1975 If You're Too Shy

          スリランカからの手紙

          いつものメールの中に混ざっていた英文タイトルのメールは、スリランカから送られたものだった。 「久しぶり。コロナで大変だけど、私たちは元気です。」 それは、ウナワチュナでお世話になった宿主からのメールだった。 メールには、僕がプレゼントしたワイヤレススピーカーを毎日使っていること、男の子が生まれたこと、コロナが収束したらまたスリランカに来て欲しいことが書かれていた。 そのメールをみたとたん、僕は目が潤むのを感じた。朝っぱらから、仕事の前なのに。 思えば長い1年半だった

          スリランカからの手紙

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          ポルトのB級グルメ|フランセジーニャを見よう見まねで作ってみた。

          夫婦で世界一周旅行をした時に、世界各国で様々なご飯を食べてきました。 その中でも毎回「あれは旨かったね」と話に上がるのが、ポルトガルの港町ポルトで食べたフランセジーニャという料理です。 あの味だけでもポルトに行ける…家でも作れるんじゃなかろうかと考えて、夫婦であの味を再現しました。また食べたくなる味…!

          ポルトのB級グルメ|フランセジーニャを見よう見まねで作ってみた。

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          世界一周の意味が変わったんだ、たぶん。

          最近フウロと家でワインを飲みながら、世界一周のことをよく話す。手元にはスペインの白カビサラミ、フエ。イタリアの赤ワインを傾け目をつぶれば、バルセロナでお世話になったカルロスさんのお家にトリップ出来る。 でも、もうあの時のスペインも、僕らの自由も、どこにもない。 コロナウイルスが変えたのは、行動だけではなく、世界そのものではないかと思う。 スリランカで出会ったマハジさん、バルセロナのカルロスさん、サハラ砂漠のオットマン、ハワイ島のサンシャイン。世界を旅して僕たちに好意をも

          世界一周の意味が変わったんだ、たぶん。

          ものをつくる

          大人になって一番自由になったことは、自分の世界が作れるようになったことだと思う。 子供のころから、子供のころは特に、心と体の調和が取れなかった。 頭の中で暴れる感情を体で抑えることができなかった。 自由に描いた木の色は赤色をしていて幹は見たままのものより10倍も太く、先生はそれを見て素晴らしいと褒めたたえ、同級生には変な絵だと貶された。 いつのまにか背中や肩だけでなく指先まで萎縮して、自由に作れなくなった。 ひねた、つまらないものを、ちょっとかっこつけて作るようにな

          ものをつくる

          藤原さんの思い出

          一度だけ藤原啓治さんと仕事をしたことがある。
3年前のことだ。
新しいサービスのプロモーション動画として、藤原さんに仕事をお願いしたときのこと。
療養明け直後のお願いだった。 お会いした藤原さんは想像以上に具合が悪そうだった。
無理を押して収録をお願いした自分に後悔していた。
ところが、藤原さんがスタジオブースに入り、最初のテイクがスタジオに流れた時に僕は戦慄した。
スタジオに届く声は驚くほど張りがあり、僕が慣れ親しんだあの野原ひろしの声そのものだったからだ。
声の収録という

          藤原さんの思い出

          埼玉に届いているよ- What Can I Say?〔Sam woods〕

          Youtubeのレコメンドって、改めてすごいと思う。彼がこの動画をYoutubeに上げたのは一週間前。昨年5月ぐらいに出会ったチャンネルがマジでナイスすぎて、日本の誰もまだ記事にしていないようなマイナー中のマイナーなアーティストを取り上げて24時間音楽を流してくれる。 そこからちょっと売れたりする人も出たりすると、日本から足が離れ、世界中に足を伸ばせそうな気がしてほっとする。世界一周をした時には簡単に伸ばせた足は2年もたつとあっという間にすぼんで、今はバルセロナのairbn

          埼玉に届いているよ- What Can I Say?〔Sam woods〕

          おやつのおうち支店化をはじめました

          おやつの支店化運動|おうちでおやつを食べることをレジャー化したい!家で独自の通貨を発行し、家の中のお菓子屋支店で購入をする。日常の買い物ができない変わりに買い物を楽しみを。 埼玉県に住んでいる我が家。近所のスーパーで買い占めなどの騒動は無いものの、基本外出自粛中なのであまり外には出歩けません。 夫婦共々、おやつが大好き。ついでにスーパーで買い物をするのがなによりの楽しみでした。でもこんな状況下ではスーパーに行く回数を出来るだけ減らさなければなりません。それなら、家にいなが

          おやつのおうち支店化をはじめました

          アメリカ人夫婦バンド tennisの世界 ‖ 音楽とエッセイ

          tennisの新曲が衝撃的すぎたので、彼らのことがもっと知りたくなった。 白ひげ真っ赤なサンタに、ぼうっとした穏やかでまばゆい電飾の光。曇りガラス越しに見るような靄がかった景色が、僕が小学生の時に夢見たクリスマスだった。アメリカが掲げた余裕があってきらびやかで、それでいてどこか厳かなクリスマス。50年代から80年代後半ぐらいまであったあの時代の空気がtennisにはある。 tennisのことは数ヶ月前に知ったばかりだった。数年前にも何枚か音源を出していたようだけれど、有線

          アメリカ人夫婦バンド tennisの世界 ‖ 音楽とエッセイ

          あの日の赤飯が僕を受験生にした。

          この時期になると決まって赤飯のことを思い出す。大学受験の10年前の記憶だ。 楽がしたかった。というと語弊があるけど、誰しもAO受験で受かりたいと思うものだと思う。しなくていいなら勉強したくないし、大学入学までにいっぱい時間が取れるのも魅力だった。僕は金城一紀のレボリューションNO.3や、村上龍の69sixty nineが好きだったから、高校三年っていうのは文化祭を企画するし、沖縄にも行くし、彼女もできて人生最高の時間が流れるものだと信じていた。 僕は勉強していなかった。内

          あの日の赤飯が僕を受験生にした。

          ただいま、うーちゃん。<夫婦世界一周紀 あとがき>

          まさか100日ぶりに口にする日本食が「しゃぶ葉」だとは思いもしなかった。水菜に長ネギ、しいたけにえのき、カレーもあれば、お麩まである。しゃぶ葉なら日本で食べたいと思っていたものが一通り食べられてしまう。 わくわくしながら和風だしに浸した水菜を食べて、はたと、微妙な違和感を感じ取った。 なんだか、口がもやもやするのだ。 もわん、もやもや、かゆい感じ。それが化学調味料で作られた旨味によるものだということに気づいたのはもう少し先だったが、日本のご飯たちに感じたのはまずそのもや

          ただいま、うーちゃん。<夫婦世界一周紀 あとがき>