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無垢のきもちをどう受け止めるか 《夫婦世界一周紀29日目》

まっすぐな眼差しを正面から受け止めきれないのは、自分がそれだけおじさんになったってことなんでしょうか。快晴のお日様のように輝いて、地球の始まりのように弾けている。年のまだいかない子供が持っている強烈な生の力たるや…すっかりひるんでいます。

僕は末っ子だからほとんど赤ちゃんを見たことがない。だから3歳くらいの子供と一緒にこうやって接するのは、ひょっとしたら人生で初めてかもしれなかった。赤ちゃんとのふれあい体験がスリランカで行われるなんて、貴重というかなんというか。

世界一周が普通の旅と違うのは、旅行期間が生み出す「非日常の中の日常」のせいだと思う。一週間くらいの旅なら、その期間の体験は全て非日常で収まるのだ。ずうっと旅のキラキラ感をまとっていられる。僕たちがトゥヴァでおおいに感動したのも、旅がなせる業でもあったかもしれない。

日本を出て28日たった。旅行期間一ヶ月ともなってくると、毎日の中に日常が紛れこんでくる。シチュエーションは非日常。でも心も体も時々馴染むのだ。日本での暮らしと旅の毎日の主従が逆転して、時々この環境が当たり前という気持ちになったりする。だからこうやって赤ちゃんとのふれあいがスリランカで実現しても、「いい旅の経験になった!」という感覚というよりも、もっと大きな「人生経験」にラベルされる感じだ。悪いことじゃないけど、多分この感覚を煮詰めて煎じると、旅ならではの感動を一切感じられない摩耗状態に陥るんだろうなと思う。気をつけないと。

ふう、3歳前後の赤ちゃんというのはなんでこんなに旺盛なんだろう。僕とフウロが一週間節制して集められる好奇心が、たった5分間ですべて放出されるようだ。三輪車で庭を乗り回し、リスを追いかけ、アリをつぶし、僕たちを見つけるとお花をぶちぶちとちぎって渡してくる。何度も何度も繰り返すのでせっかくのお花が丸坊主になってしまう。そわそわしている僕と、余裕な面持ちのフウロ。10歳下の妹がいるフウロにとっては、きっと見慣れた光景なのだろう。

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おっかなびっくり一緒に遊んでみたり追いかけっこしてみたりすると、心臓を取り巻く膜みたいなのがふわっとあたたかくなるのを感じた。無意識に顔がほころび、目がやさしくなっているのが自分でもわかる。子供が発する陽の力はすごい。まだ何も汚れていないキャンバスをみているようで、嬉しくも切なくもなった。周りの悪意に晒されて人は育つ。汚れずに大人になるのは愛情だけでは足りない、運もある。その運はきっと、日本とスリランカでは随分違うのだと思う。

親の気持ちを通りこして老婆心。この笑顔のまま、擦れないで育って欲しいなあと切に感じた。明日も遊ぼう。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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