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削いでいく旅

飛騨のお寺で3日間断食をしたときのことだ。

口に含むものは水と塩、そして酵素だけ。

制限するのは食べ物だけではなかった。

電子機器も使わず、寺の外にも出ず、瞑想をするか、散歩をするか、寝るだけの毎日。

食事の時間とネットに触れる時間がないだけで、24時間は膨大に長く感じた。

断食をして2日もすると、体に明確な変化が訪れた。

暗闇の音が聞こえ、遠くの木々の気配までもがより身近に感じられた。

水で3倍に薄めても、舌ははっきりと濃く緑茶の味を捉えるようになった。

栄養のない極限状態にも関わらず、そこには心安があった。

不思議な感覚だった。

旅に行く時には、新しい知識と強い刺激を求めてきた。

しかし、年を重ねるごとに新しいものへの感動も薄れていっていることに気が付いていた。

感覚が疲れ果てていたのだ。

積み上げるだけが旅ではない。削ぎ落として、大切なものを浮かび上がらせる。

そんな旅もあるのだなと思った。

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