不信と疑心暗鬼の先にある身勝手で新しい景色。「Giraffe Town」

スーパーマリオの生みの親である任天堂の宮本茂氏が「スーパーマリオギャラクシー」を作る際、新入社員が描いた敵キャラがなぜダメなのかを説明する必要に迫られて「『マリオ』に出てくるキャラクターはひと目見ただけで機能がわかることがとても大事だ」と話したというエピソードがとても好きだ。

ファミコンのマリオを見ると良くわかる。
アイテムは思わず取りたくなるもの(コイン、花、スター)になっていて踏んではいけない敵にはトゲが生えている。機能から逆算してデザインが決まっていく。いまでは当たり前のことのように思えるけど昔のゲームやそれを意識してないゲームを遊ぶとパッと見なにが敵で何がアイテムかわからない事が少なくない。

そうしてゲームは歴史を重ねることで制約と世界観の狭間で様々なお約束を獲得していった。街にいる住民は同じことしか喋らない。鍵がかかった扉は"いまは"開かない。落ちている肉を食べると体力が回復する。

…でもそれはゲームの中だけの常識で本当の現実とは乖離している。同じことしか喋らない住民だらけの街があったら怖い。開かない扉だって中に重要なものがあるなら壊してしまえばいい(銃とか持ってるじゃん)。落ちている肉は…できれば食べない方がいい。

ゲームが長い年月をかけて築いてきたゲームの中だけのお約束をプレイヤーは経験が増えれば増えるほど疑わなくなってくる。それは言い換えればゲームの作法に対するある種の信用が生まれるということだろう。


「Giraffe Town」はそれを逆手にとってゲームが築いた信用をあざ笑うように利用し、プレイヤーを不信と疑心暗鬼に導く。


このゲームは生まれつき足がツルツルすべってしまうキリンがテレビで見たLOVEというアイドルに一目ぼれし隣町まで頑張って会いに行こう、と決心する所から始まる。

冒頭のチュートリアルでもわかるが主人公のキリンの足元は摩擦が存在しないかのようにツルツル滑ってとにかく操作しづらい。このキリンが隣町へ行く。目の前には細い道路が現れる。多くのゲームをやってきた者なら自然と「わかった」ような気分になるはずだ。

「ははーん、これはバカな設定と無茶な物理演算で失敗をもゲラゲラ笑いながら遊ぶタイプのバカゲーだな?」

では、いざこの道を進もう…と思ったところで背後で電話の音が鳴る。

キリンが言う。「一度家に戻って電話を取ろう」

ああそうなんだ。戻るんだ。こうなるとプレイヤーはまた思うのだ。

「ああ、こういうセリフが用意されてるってことは戻るとなんかストーリーが進むんだな」

だから戻る。いままでのゲームでもそうして来たように。「Giraffe Town」の揺さぶりはこうしてゆっくりと、気づかないようなタッチで、しかし確実に始まる。

家に帰って電話を取ると突然、得体の知れない男から「3時間後にもう一度電話するからそこで待て。待たなければお前を生贄にする」という脅迫を受ける。そして待たずに家を出ると本当に謎の宇宙人のような者達に撲殺されてしまう。

あれ…なんか思ってたのと…違う!?!?!?!?!?????

異様すぎる。意味がわからない。LOVEちゃんに会いに行けばいいだけじゃないのか?何かが完全におかしいがそれでも様々なゲームを愛してきた従順なプレイヤーは思うはずだ。

「じゃあ、3時間待ってみるか…」

「たけしの挑戦状」にだって実際に1時間待たないと先に進めない箇所があった。「どうぶつの森」だって古くは「天外魔境 ZERO」だって現実の時間とリンクする仕掛けがある 。

「Giraffe Town」の3時間は現実の3時間よりずいぶん早いみたいだし(それでも長いけど)まあ、とりあえず待ってみよう。

そんな風に過去の様々なゲームでの経験を引き合いに出して目の前の出来事をなんとか自分の知ってるゲームのお約束内に押し込めようとする。そういった素直さを「Giraffe Town」が悪用して踏みにじることも知らないで。

「テレビの中に入って別の世界へ行け」というような指示を受けてテレビの前に行くと「中に入りますか?」と選択肢が出る。ポータル?別世界?
かなり不思議なSF風味が唐突に出てきたけど、まあ入ろう。どんな世界に連れて行かれるんだろうか。「そしてテレビの世界に今から入りまーす」って感じの演出が始まる…まぁ、ワープ見たいな、よくある演出ですよね…

この演出がなっっっっがい!!!!!!

長い!!とにかく長い!!サイケデリックなビデオドラッグみたいな映像が6分弱!!こっちは実際の時間で6分弱!!長い。本当に長い。見ているうちに、あれ、これ、終わるのか?と不安になる。不安になってボタンを押してみたりする。何も起こらない。普通のゲームが使う尺じゃない。じゃあ待つしかないのか。長い。本当に長い。エンディングでもないのに6分弱の演出はちょっと長すぎる…。

そしてようやくついた別世界。崖の先に足場のような物が浮いているが「この先はジャンプできないからいけない」とあっけなく言われてしまう。は?

いやいや、そうはいってるけど6分弱もかかったんだからなんとか行けるはずだ、こんなに尺使ったんだから普通はこの先になんかあるはずだろう。周囲にアイテムらしきものを探してみるが何もない。で、無理やり行こうとして穴に落ちると即ゲームオーバー。

そして電話が鳴る前の世界まで戻されてしまう。
このゲームで「普通はこうだから」などと思ってはいけない。信用も約束も常識もこのゲームの作者が笑顔で撃ちぬく的にしかならない。

また電話を3時間待って6分弱狂った映像見せられるのか…。
実況を見ていた人達からも「異常しかないから通常がわからない」などの意見が出始める。誰もが震えていた。あまりに捉えどころがなかった。でもきっとあるんだろう。あの6分弱の先に、なにか展開が...

というわけでまた入る。テレビの中へ。そして6分弱を見る。長い。別世界に辿りつく。でもやはり手がかりはない。また落ちる。どうすればいいんだとまたテレビの中へ。6分弱。長い。操作方法を見直してみる。なにも新しい発見はない。結局、仮説を立ててチャレンジするがまた穴に落ちることになる。そしてまた6分弱…。もう見たくないのに6分弱…。プレイするのが怖くなる。別世界で死ぬ度に自動的に自分の人生から6分弱を無駄に消費することになる。


少し気になることがあった。最初にいた世界では道から落ちて死ぬと残りのハート数が出るのに別世界では死ぬと即ゲームオーバーになる。この違いはなんなんだろう。ここに何か作者の明確な意図を感じる。いってみればここにゲームが築いた信用を利用したトリックのようなものが隠されている気がした。


最初の世界で死ぬと表示される画面


別世界で死ぬと表示される画面


誰かがいった。
「TVの中に入っちゃいけないとか?」
たしかに。元の世界では何度か死ぬことができる。でも別世界で死んだら電話が鳴る前(元の世界)に戻される。それはつまり元の世界の方にゲームの先があるということではないか?

電話を無視して道の先へ行ってみる。たしかにそこには続きがあった。ああ、ここを行けばいいのか。こっちが正規のルートだったのか。と、安心したのも束の間だった。忘れてはいけない。これは普通のゲームではない。プレイヤーがやっとみつけた拠り所を即座に奪う、それが「Giraffe Town」のやり方なんだ。

この道も長い。とにかく長い…!!

ツルツル足が滑るなか細い道を歩き続ける。繊細な操作をずっと求められるのに本当に長い。少しでも手元が狂うと落下する。今回はチェックポイントがあるがその間隔も長くて死ぬとかなり戻されてしまう。疲れる。緊張する。ずっと怯えてる。なのにいつ終わるのかわからない。そもそも終わるのだろうか。

見ている人から「これ、ループしてませんか?」と怖い声が飛ぶ。あまりの長さに自分も周りも疑心暗鬼になっている。そもそもこれは本当に正規ルートなのか?他に方法があるんじゃないのか?まさかここから戻ったりしないといけないのか…?

でも、微かだがこの道には変化があった。チェックポイントをいくつか通過するごとに小雨が降り、雨が激しくなり、雪がふり、雪が激しくなる。音楽が聞こえてくることもある。なんらかの変化がある。

それはつまりゲーム側がこの先に行ってもらうことを想定しているということだ。「Giraffe Town」においてはこんな予想も簡単に裏切られるかもしれない。でも別世界では即死だったことを考えると"この演出は"信用しても良い気がした。逆をいえばそんな風な考えをゲームに持ち込まなくてはいけないくらいにすっかりと翻弄されてしまっていたのだ。

道中、「ジラフマーダー(キリン殺し)」を探しているという看板があったり

ジラフマーダーの手配書らしきものが電柱に貼られ出す。
霧は深くなり不穏さが増していく。しかし不穏さが増すということはやはりこの向こうには何かが用意されているのではないか。というか、もう用意されててくれないと困るんだ。


この道に入って実に50分以上が経過した頃、ようやくこの地獄のようなステージが終わった。


安堵したのも束の間、倒れ込むキリン。カメラがゆっくりと上にのぼっていく。画面が暗くなる。

あれ…死んだ…???

倒れ込みたいのはこちらも同じだった。混乱させて、神経が衰弱するような難所を用意して、クリアしたら即バッドエンドか。そういう露悪的なゲームか…。まあ、そいうやり方もあるよね。いじわるな感じのね。なんか笑えるしそれはそれで、いいか。

...という方面の安易な予想もさせてもらえないからこのゲームは本当にすごい。こちらの予想を裏切るが、ただ先もなく裏切るような真似はしない。食べた常識を糧にして未知の世界を見せるための推進力に使っている。

車の音がして目覚めてみると怪しすぎるピエロがそこに立っていた。

あなたは誰!?と聞くキリン。

「ぼくはトンネルズ!タイムトラベルしてるピエロだよ!」

たっぷりと間を使って不気味に何度もカメラアングルを切り替えながら喋るトンネルズ。きっと見ている全員が思ったと思う。こいつ、絶対ジラフマーダーだ。

「アイスクリームを食べない!?トラックの中にあるんだよ!!」

ああ!絶対行っちゃダメなやつだ!!毒か、トラックの中で殺されるか、とにかく絶対にいいことなんか起こらないやつ!!キリンくん、逃げて!!

「ぼ…ぼくは家に帰りたいんだ…」

やんわりとアイスを断るキリンくん。いいぞ!えらいぞ!懸命だぞ!!
でもトンネルズ(たぶんジラフマーダー)はまたゆっくりと間を使ってカメラを切り替えながら、今度は無言で近づいてきて…

「アイスクリーム食べない!??」

全く話を聞いてくれないトンネルズ。チャット欄も騒然。

キリンくんもあまりにもしつこくて断り切れずにOKしてしまう(ダメだって!!)

むちゃくちゃ喜び、もう歩けなくなったキリンくんをトラックまで引きずっていくトンネルズ(たぶんジラフマーダー)。もうダメだろう。画面だって監視カメラが捉えたこれから山に連れて行かれて埋められる人の映像みたいになってる。おしまいだ。今度こそ。

と、思いきや…(このゲームで何回目の思いきやなの)

「ごめんね!いまストロベリー味しかないんだよ!」
「これ食べたら元気になると思うよ!!」


と、ほんとにアイスをくれるトンネルズ。

それでほんとに元気になっちゃうキリンちゃん。しかも…

足元がすべらなくなってジャンプもできるようになる靴までくれる(!?)トンネルズ。

マジでめちゃくちゃジャンプできるようになるキリンちゃん。

チャットの反応を見てみましょう。

トンネルズはジラフマーダーでもなんでもない、ただのめちゃくちゃいいやつだった!!!!!!


厳しく当たったと思いきや急にやさしさを見せてきて、ホントは良い奴なんだと思った瞬間には冷たくその場を去っている。近寄ったり、離れたり、愛嬌を振りまいたり、突き落したり。緩急をつけながら間髪入れずに繰り広げ続けるゲームへの信用を逆手にとったアメと鞭。

「Giraffe Town」は狂っているがかなりゲームに対して確信的だと思う。ちゃんとわかってる。わかってるからプレイヤーの心を揺さぶれる。愛の深いストーカーのようだが(何かみたいだ)と思おうとした次の瞬間もう姿形を変えてしまう。

このゲームをやっている間ずっとそれが続いた。こうして思い返すだけでまたあの疲れが甦ってくるようだ。ここからのことは自分のツイートを貼りつけるから断片から異常さを感じて欲しい。


で、ただただ振り回され続けた「Giraffe Town」だったけどこの実況の最後に奇跡みたいな巡りあわせが起こった。

強すぎるラスボス。何発銃を撃ちこんでも倒せる気配がない。銃が効いてるのかもわからない。そもそも銃を撃つのでいいのか、他の倒し方があるのか、何時間プレイしても糸口がまった掴めない。最大の疑心暗鬼が訪れる。もう、これ無理だ。やめてしまおうか…。

もうそろそろ諦めようとしたその時、このゲームを作った作者がチャット欄に現われたのだ。

うおお!マジかよ!!これ、どうやったら倒せるの?と聞いてみる。

「73回撃てば倒せるよ」

うわ!教えてくれた!!つーかそれ難しすぎるだろう!!
作者の登場と攻略法がわかった事で一気に高揚する場。

あとは倒すだけだが、そんなに簡単な話じゃない。難しい、とにかくゲームが難しい。キリンの動きは遅くてジャンプは重たく弾の数は限られてるしボスの距離の詰め方は苛烈。何度も死ぬ。何度も何度も死ぬ。

「君ならできるよ!自分を信じて!」
なんて作者は応援してくれるけど、

死ぬと爆笑する。
なんだこいつ、「Giraffe Town」そのものじゃねえか!!

そのまま戦いは深夜にまでおよび。作者降臨から3時間、計4時間経った所でようやくその瞬間は訪れた。

思わず絶叫する。チャットのコメントのスピードが速くなる。作者も祝福してくれている。

「なんだ、こんなに長く付き合ってくれて、作者のヤツけっこう優しいな…」

と、思いきや、この作者が最後までここにいた意図はこのゲームのエンディングを見ることで判明するのだった。これはもう、ここまでこの記事を読んだ人なら絶対に動画で見て欲しい。このゲームのあんなエンディングに作者が立ち合ってるだなんて、まさに神回としか言えない実況になった。神回は神回でも「作者が神回」。

「Giraffe Town」はどこまでも「Giraffe Town」でこっちを最後まで翻弄しきった。だからこそ思う。また裏切られたってこれは確信を持って言いたい。この作者はゲームという娯楽を心の底から愛してる。ただの狂人じゃこんなゲームは作れない。愛と狂気がすべて詰め込まれているからこそプレイヤー達をすごい熱量で振り回しながらまったく新しい景色の中へと放り投げることができるんだ。

ゲームが終わったあとツイッターでも作者が直接絡んできたのには笑った。もう振り回されすぎて自分がどこにいる誰なのかわからなくなってしまった。ここは現実か?ゲームの中か?別世界か?自分はキリンでまだ「Giraffe Town」にいるんじゃないか?



明け方になってしみじみと謎の感動が込み上げてきて一人で泣いてしまった。自分が何年も愛してきたゲームという娯楽を、同じようにゲームを愛しているであろう異国の狂人と、実況という新しいゲームの楽しみ方の中でしか起こりえない体験として存分に味わった。本当にゲームが好きで良かった。こんな宝物みたいな体験ができて本当に幸せだと思った。DV受けすぎて正常な判断ができなくなった人みたいな状態だったのかもしれないけど。


作者も喜んでくれたみたいだけど、もうお前のことは信じられないよクレイジー野郎(笑)。すべての敬意を込めて、このゲームを憎みながら愛し続けたいと思う。


長い文章を読んでくれてありがとう。興味が芽生えたらぜひ動画見てみて下さい。見るときは絶対チャットをオンにしてね。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

サポートしてもらったら気持ちが上向きになります

はかせもあんたのことすきだっていってたぜ
141

なんてことなの。note

ゲーム関連のnoteをまとめました。
2つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。