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中途採用者が霞が関で能力を発揮するには?【ソトナカメンバーと、受け入れ側の元上司お2人が対談】

こんにちは。
このnoteをご覧になっている方の中には、霞が関の仕事に興味はあるけれど、中途採用で入ってもちゃんと仕事ができるのか、自分の経験を活かすことができるのか、不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、中途採用者が霞が関に定着し、民間で培った知見やスキルをスムーズに発揮していくためには、入省する側・受け入れ側それぞれに何が必要か、当事者にざっくばらんに語ってもらうべく、座談会を開催しました。
出席者は以下の3名で、司会はソトナカプロジェクト共同代表の佐伯健太郎が務めました。

吉井弘和:民間のコンサルティング会社と厚生労働省の外郭団体を経て、2020年4月より任期付職員として厚労省保険課課長補佐に着任。ソトナカプロジェクト発起人・共同代表。

姫野さん:吉井の霞が関における最初の上司(課長)。2020年4月から約1年半、共に働く。

江口さん:姫野さんの後を継いで2021年7月から約1年間、課長として指導に当たる。
(※姫野さん、江口さんはお二方とも総合職(旧Ⅰ種)事務系の生え抜き職員です。)

Q:中途採用者の印象は?

(司会)厚労省で今、どんな仕事をしているのでしょうか。
(吉井)保険局保険課のデータヘルス班で、健康保険組合が予防・健康づくりの事業を行う際の旗振りのような仕事をしています。

(司会)最初の上司である姫野さんは、霞が関の経験がない、コンサルティング会社出身の人材が課長補佐として課に来ることについて、事前にどう感じていましたか。
(姫野さん)コンサル出身と聞いて、具体的にどういう仕事の仕方をするのかイメージがなく、こうあるべきという「べき論」で突っ走ったりしないか、という懸念はありました。ただ霞が関では、自治体や民間企業からの出向者も多く受け入れているので、霞が関での勤務経験のない人と働く際の許容量は大きいと思います。

実は出向者が多い霞が関。ソト人材の受け入れ許容量は大きいと語る姫野さん。

(司会)姫野さんに続いて課長となった江口さんの場合はどうでしょうか。
(江口さん)私は2年3か月ぶりくらいに出向先から本省に戻ってきたところで、課の中にこれまで一緒に仕事をした人がほとんどいない中だったので、任期付きで外から来ている吉井さんだけが特別だという意識をもって仕事をしたことは、ほとんどありませんでした。

Q:中途採用者がもたらしたものは

(司会)実際に一緒に働いてみてどうでしたか。
(姫野さん)入省して3日目から力を発揮してくれていました。課内の議論であえて高めの球を投げて、議論を活性化してくれることもありました。データヘルス関連の人脈も広がりました。また、資料を作成したり、議論したりする際に、吉井さんがフレームワークの知見を活かして、物事の本質をきちっと整理して議論を展開するということを毎回してくれていたので、一緒に仕事をしている人も新鮮だったと思います。

(吉井)課の業務にどういう価値を与えられたのでしょうか。
(姫野さん)我々が物事を整理しようとすると、もちろん個人差は多々ありますが、複数ある選択肢を概括的にメリット・デメリットで整理することがあります。吉井さんがやるともうちょっと複雑な表を作成して、6つくらいの項目を設けて、論点を細分化して整理していく。そうすると、今行っている議論に穴がないということがよく理解できました。

(江口さん)吉井さんの担当する業務は、課の中だけで完結する業務はほとんどなく、常に他の課や局、更には他省や外部機関と連携しながら進めていかなければなりません。姫野さんの言う通り個人差はありますが、吉井さんは生え抜きの職員よりも、フットワーク良く、良くも悪くも所掌にとらわれすぎず、全体を見ながら仕事を進めていると感じました。生え抜き職員の中には、自分の担当業務に一生懸命になるばかりに、周りが見えなくなっている人もいます。より広い視野で仕事を進められるという点は、他の霞が関の職員にとっても見るべきところは多いと思いました。

フットワーク良く、俯瞰的視野で仕事をしていた点を評価する江口さん。

Q:中途採用者を受け入れる際の改善点

(司会)受け入れに当たって足りなかったこと、こうすればよかったと振り返ってみて感じることはありますか。
(姫野さん)先ほど、霞が関には民間や自治体からの出向者が多くいるという話をしましたが、そういう方の場合は大体前任者がいて、事前にレクチャーを受けることができます。他方で、新設の任期付きポストの中途採用者である吉井さんの場合は、前任者がおらず、そのような事前のレクチャーが不十分だったかもしれません。例えば予算をどういうスケジュールで要求していくのか、具体的なプロセスが文字化されておらず、また省内、局内で誰がどういう役割を持っていて、誰がキーパーソンなのかといった、不文律を手探りで理解していかなければならなかったと思います。

(吉井)たしかに、こういう場合には誰に聞いたらいいとか、役職の位置付けが分からず、逐一課の企画法令の補佐や、チームメンバーに尋ねたりしなければなりませんでした。もう少し省内の人が分かるような仕組みがあると、仕事がしやすかっただろうと思います。
(姫野さん)中途採用を受け入れる側の経験や慣れも大事だと思います。私も最初、吉井さんが何を知っていて、何を知らないのか理解できていませんでしたが、今は一応経験したので、仮に今度中途採用者が来るとなれば、何を準備しなければならないか、どこで躓きそうかと考えて、サポートすることもできると思います。

今後はより、ソト人材は何を知らないかを理解したうえでサポートできそうと語る、姫野さん。

Q:事務系総合職としての働きはできた?

(司会)事務系総合職として、生え抜き職員に代わる働きはできたでしょうか。足りなかった部分はありますか。
(姫野さん)自分がこれからやろうとしていることが、法律や政令、省令に反しないのか、判断基準が慣れないのでよく分からないとおっしゃっていました。経験、場数を踏むことが必要なので、そういう法令業務も担ってもらえばよかったかもしれません。自分のような生え抜きの職員は、上司から「法律のどこに根拠があるのかちゃんと示せ」と都度言われて勉強してきたのだと思います。

(司会)そういう意味では、民間でキャリアを積んできた人に、「勉強してこい」と強く言うのは言いづらい面もありますか。
(姫野さん)言いづらいところはありますね。本当は言わないと伝わらないのですが。

(吉井)これは大丈夫かなという点は、課の中の法令係に確認しながら仕事を進めていました。

(江口さん)生え抜きの職員は、与えられた環境で仕事をしていく中で、そうした感覚を身に着けていきます。例えば、法律の解釈は、最終的には内閣法制局に資料を作って、確認を取って政策を進めていったりします。ただ、そうした仕事は個人プレーではなく、組織として進めていくので周りがサポートすればよく、そこまで気にしなくてもいいとも思います。

Q:中途採用者が省内でキャリアを築いていくには

(司会)吉井の場合は任期付きですが、期限の定めのない、事務系総合職として中途採用者が入省した場合、室長や課長、さらにはその上の役職までキャリアを重ねていくために必要なことはなんでしょうか。
(江口さん)役所の中での作法など、外から来てなかなか分からないことも多いと思います。経験して初めて身に着くものもあります。引き継ぎを受けたとしても、物事が発生した際にその通りに動けるかどうかは別なので、上司がきちんと目配りする必要があります。
経験値がものをいうところはありますが、逆に言えば経験すればカバーできるところはかなりの部分であると思います。

(吉井)通常、生え抜き職員は1~2年の異動ローテーションであるところ、中途採用者は経験できる残り年数が少ないので、半年~1年で異動させる省もあると聞きます。そうした考えはどうでしょうか。
(江口さん)私自身も、厚生労働省の中でまんべんなく部署を経験しているかというと、そうではありません。特に最近は、生え抜き職員でも省内まんべんなくいろんな部署を経験する人はそう多くはないと思いますので、そんなに「幅広い経験」を気にしなくてもよいのかと思います。後は、局の筆頭課の課長補佐のような要となるポジションがあり、局の立場だけでなく省全体を見て調整をすることが必要になるので、そういうポジションを経験してもらうことも大事だと思います。

幅広い経験をすることを、そこまで気にしなくてもよいのではと語る、江口さん。

Q:今後、霞が関に中途採用者は増えていくか

(司会)今後、霞が関に中途採用者はどんどん増えていくと思いますか。(姫野さん)終身雇用を前提とする労働市場ではなくなってきているので、霞が関だけが終身雇用を維持するというのは難しい状況です。必然的に、中途採用者を増やしていかざるを得ないと思います。

(江口さん)中途採用の枠は増えていくということだと思いますが、中核をしっかり担ってもらえるような人材に来てもらえるよう、霞が関席の側の取組がしっかりできているかというと疑問もあります。

(吉井)例えばどういう取組が必要でしょうか。
(江口さん)霞が関に新卒で入って辞めたり、任期付きで霞が関に来て民間に戻ったりしている人もいます。
そういう人たちの中には、霞が関の仕事にシンパシーを感じている人も多いと思うので、中途採用の枠があり、自分が辞めた時よりも環境が良くなっていて、仕事にもやりがいがあるということを広く発信してもらう、という手は一つあるのではないでしょうか。

霞が関の中途採用の未来について、姫野さん、江口さん、それぞれのお考えを伺いました。

姫野さん、江口さん、ご協力どうもありがとうございました。


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