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LINEの決算からわかる次世代SNSの稼ぎ方

先日、LINEの上場承認が下りました。日本発のユニコーンとして注目度が高い会社なので、決算の内容を詳細に知りたいと思っている方が多くいると思います。が、財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)で作られていたり、届出書の情報量がすごく多いのが辛いところです。

なので、このnoteでは「LINEって何個か事業やってるけど、結局どんな事業でどれくらい儲かっているの?」と疑問を持っている方に向けて、LINEの収益構造をざっくり解説したいと思います。LINEの有価証券届出書を参照しながらご覧頂くとわかりやすいです。

EDINET:E31238:LINE株式会社 S1007P94:有価証券届出書(新規公開時)

まずはIPOの概観。今回のIPOはいわゆるクロスオファリング(国内と国外のマーケットに同時に上場すること)です。だいたいの時価総額は約5,900億円。いわゆるユニコーン企業の仲間入りできる時価総額は約1,000億円から。日本の上場企業だと、LIXILグループ、ニコン、ヤマハ発動機等と肩を並べるレベルの時価総額。でかい!

次にLINEの沿革。LINEのルーツは、2000年、韓国NAVERが日本に設立した子会社NHN Corporationにあります。その後、2010年、livedoorを買収し、2011年、「LINE」をリリースし、ユーザー数2億人まで伸ばし、現在に至ります。

先ほど説明した通り、親会社が韓国NAVERなので、EXITによってキャピタルゲインの恩恵を受けられる人はほとんど韓国NAVERの関係者です。

では次に、LINEの業績を見ていきます。売上と経常利益は以下の通りです。

ちょっとピンとこないので、主要KPIとあわせて、売上規模を他社プラットフォームと比較してみるとこんな感じになります。

*TwitterやFacebookのデータについてはPedia Newsから引用させていただきました。本記事はキーとなる数字が完璧にまとまっている良記事なので、是非ご覧ください。

参考:SNS御三家「Facebook」「LINE」「Twitter」、決算まとめ

業績は、Facebookとは桁1つ離されていますが、Twitterに迫りつつあるといった感じです。ただ、LINEの特徴はFacebookやTwitterとは異なり、広告以外の方法によってマネタイズしている点です。

具体的に売上の内訳を見ていきましょう。「事業の状況 7 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を見ると、約1,200億円の売上のうち、40%が「コンテンツ」(=ゲーム)、ついで30%が「広告」、20%が「コミュニケーション」(=スタンプ等)から構成されていることがわかります。広告一本で稼ぐFacebookやTwitterとはこの点が違います。


LINEはユーザーにどんなサービスをユーザーに提供して、どんなロジックで売上を計上しているのか、これだけだとよくわからないので、詳細を見ていきます。

ここで注意したいのが、LINEの決算書は日本の会計ルールとは異なる国際財務報告基準(IFRS)に準拠して作成されているということです。詳細な説明を省きますが、IFRSでは日本の会計ルールと比べ、売上計上のタイミングをサービスの提供方法に応じて厳密に決めるため、売上が立つのが遅くなる傾向にあります。

「第5 経理の状況 1連結財務諸表等」の 連結財務諸表注記(21)売上収益にどうやって売上が計上されるか、説明されています。事業のカテゴリーを細分化するとこんな感じです。

例えば、コミュニケーション(スタンプ)に係る売上については、ユーザーがスタンプを買ったタイミングに購入金額を売上計上しません。なぜなら、LINEがユーザーに対するサービス提供は「ユーザーが実際にスタンプを使うとき」に生じるからです。LINEによると、①ユーザーは大体90日間、購入したスタンプを使い続け、さらに、②ユーザーはスタンプを、最初の数日間にもっともよく使うことがわかっているそうです。なので、売上は、購入金額を90日間に按分した上で、最初のほうに比重が置かれるイメージで計上されます。

コミュニケーション以外にも、コンテンツ、広告に関する売上があります。

コンテンツ売上について、特に自社開発したコンテンツ(内部コンテンツプロバイダーが開発したゲーム。ツムツムとか。)の売上計上方法が面白いです。LINEによるユーザーへのサービス提供は「ユーザーがゲームをプレイしているとき」に生じます。なので、売上はユーザーがゲームを開始してからやめる(=飽きる)までの期間にわたって計上します。その期間は2014年12月期だと7ヶ月~12ヶ月、2015年12月期だと11ヶ月~21ヶ月ということがわかっています(*1)。なので、2015年12月期のLINEの決算では、ユーザーのアイテムに対する課金額は11ヶ月~21ヶ月に引き伸ばして継続的に売上計上されます。2015年12月期は2014年12月期に比べ、MAUが15%近く伸びている(数にして2,500万ユーザー増えている)にもかかわらず、ユーザーのプレイ期間が倍近く伸びているのは面白いです。

広告売上は、LINE公式アカウントのスタンプに関する売上だと、「コミュニケーション売上」と同じロジックで、LINEスポンサードスタンプが使われる期間である208日間において収益計上されます。つまり、LINEスポンサードスタンプの広告効果があるのはだいたい208日間ということです。結構長い!

売上はこんな風なロジックをベースにつみあがり、2014年から2015年にかけて30%ほど増加しています。ただ、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等」の連結損益計算書の営業利益を見ると、2015年は赤字になっています。これは何故でしょうか。

要因については「第2 事業の状況 7 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で分析されており、①新規事業(Mix Radio)で約112億円以上(*2)もの営業損失が発生、②事業規模拡大による人件費の増加(ストックオプション付与による株式報酬費用の計上を含む)等が原因と考えられます。

この要因のうち、特に①については、2015年12月期のLINE全体の営業利益95億円に対して、112億円以上の損失インパクトがあります。その結果、2016年2月に入って、MixRadio事業撤退の意思決定をされています(下の図はMix Radio事業のKey Figureを、連結財務諸表の「非継続事業」「企業結合」に関する注記を参考にまとめたもの)。

Mix Radioとは元々、ノキアが提供していた音楽配信サービスをMicroSoftが買収した事業であり、それをLINEがさらに買収したサービス。LINE自体はLINE MUSICをMix Radio買収前より展開しており、ここまでパフォーマンスの低い事業にベットするなら、LINE MUSIC一本に集中したほうがいいというLINEの経営判断があったのでしょう。

以上より、このMixRadio事業の失敗と、IPOに伴って生じた人件費を営業利益に含めずに考えれば、業績は増加傾向にある、という会社側の「弁明」が、「第2 事業の状況 7 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に書かれています。

こうしてみると、コア領域である「コミュニケーション」から事業展開をはじめてキャッシュポイントを増やしていく戦略は非常に面白いですし、売上計上するタイミングとして、スタンプは90日間、ゲームは11ヶ月~21ヶ月等という具体的な数字が出てくるのも非常に参考になります。

今回は売上と利益を中心に見てきましたが、他にも色々面白いポイントがあります。なので、続きは7月15日に開催予定のPedia Meetup vol.3で話すことにします。興味のある方は是非Pedia Meetupにいらしてください(注1:イベントページ上では告知されていませんが、近日公開予定だそうです。注2:学生限定イベントだそうです。)。

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*1:LINEプラットフォーム上でローンチしたばかりのゲームコンテンツ等は、類似したゲームタイトルの過去のデータを使ってサービス提供期間を見積もるか、見積ることが不可能な場合は売上は計上せず繰り越して、データが読めるようになったタイミングから売上を計上します。

*2:「112億円以上」と書いたのは、MixRadioに対して認識されたのれんを減損したことによる影響(26.9億円)も含めるとそれ以上になるためです。

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