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マシュマロ回答(小狐丸について調べてみたい新人審神者さんへ)

書いてから1年半が経過しようとしてるエッセイです。たくさんの方に読んでいただけてうれしい。ありがとうございます。
拙作をきっかけに「自分も小狐丸について調べてみたい!」という方が、質問をお送りくださいました。
本記事はそのマシュマロの返信になります。

はじめまして。
わたしの「刀剣乱舞」におけるキャラクターの推しは小狐丸山姥切長義
刀剣の推しは徳川美術館所蔵の重要文化財「本作長義(以下58字略)」です。長船の長義や兼光など「相伝備前」という括りにカテゴライズされる刀剣が結構好きです。

いわゆる「沼」に転がり落ちたきっかけはこの通り。

◆小狐丸
 →ミュージカル「刀剣乱舞」の2018年公演
◆山姥切長義
 →「刀剣乱舞-ONLINE-」実装時から
◆本作長義(以下58字略)
 →京都国立博物館 特別展「京のかたな~匠のわざと雅のこころ~」

1.調査の進め方について

調査をする時、はじめにわたしがしたことは
「何を知りたいか」「そのために何を調べるか」を明確にすることでした。

たとえば今回のエッセイを書こうとした初期衝動は、
「『小狐幻影抄』に登場する狐面の小狐丸は、何者なのか?」という疑問でした。
そこで、まず

「能楽において狐面はどんな意味を持つのか?」
「小狐幻影抄の演出に能楽をオマージュしたものはあるか?」

……と疑問を細かく分けました。
そして、それらを知るために、

「能面・狂言面について専門書にあたってみよう」
「『歌合』以前の刀ミュの小狐丸のセリフ・所作に注目して観賞しよう」
「原典の『小鍛冶』について調べよう」
「能楽の基礎知識を身につけたいので、実際に鑑賞しよう」
「『小狐丸』と呼ばれる刀剣の逸話について集めよう」

……とさらに疑問を細分化し、それらを知るために具体的に自分がとる行動について考えました。
そうした調べを進めていくと、

◆能面の中に狐面は無いが、「釣狐」という演目に使われる狂言面は狐面である(※ただし刀ミュで用いられた白狐面とは色・形状ともに異なる)
◆刀ミュの1作目「トライアル公演」の時から能楽へのリスペクトを思わせるセリフがある
◆「あどうつ聲」「向かう槌音」の時、キャストは履物を履いているが、本式の能舞台の上では白足袋を着用する
◆能でシテ(能の主役)が登場する順番は、決まっていつも最後になる
◆「あどうつ聲」の歌詞は「♪うち重ねたる 鎚の音 天地に響きて 夥しや」だが、能の詞章は最後が微妙に違っている。「夥しや」である
◆奈良県には「小鍛冶」の物語と全く接点が無い小狐丸の逸話がある

……ということを知ることができました。

さらにそこから、
新たに得た知識・疑問をもとに検索ワードを工夫して調査範囲を広げたり、
似たような内容が載っている資料同士を突き合わせて違いを検証したり、
書籍の巻末にある参考文献の欄を見て原資料を確認したり、

……という風に調査を進めていきました。
そして調べた色々なことを、1つの大きな流れを作るように、読みやすいようにまとめました。

2.情報をまとめる作業について

まとめる作業はわりと感覚的に行っているため、説明するのが難しいです。すみません。
あれを何かにたとえるとしたら、小説を書いたり、歌や楽器を演奏する時のような感覚に似ています。
イントロでどのように引き込むか、どこが自分の主張のサビになるのか、そのサビに向けてどんな風に情報を連ねていくか。
収集した情報は箇条書きにして管理していますが、1つにまとめる時はそのような事を考えながらまとめていっています。

3.調査をする時に気を付けたいこと

調査を進めるにあたって「対象に関する知識を身につけていく」ことがとても大切だと思っています。
一見スルーしてしまいそうな物事の繋がりも、知識があれば察知する事ができます。
重要な手がかりに気付けるかどうかは、知識の有無にかかっています。
……と書いてみると、なんだか探偵みたいですね。

たとえば、刀ミュ「小狐幻影抄」における明石国行の役割について、わたしはこのような考察を加えましたが、

……これって、実際に現地で能楽を鑑賞してはじめて気付けたことだったりします。

4.重要な事実はネットの外にある?

調査活動において、インターネットやSNSは大変便利なものですが、決して万能ではないということも心にとめておきたいです。
そこには「ネットが使える人間」がアップロードした情報しか上がっていません。誰もがいつでも編集できるWikipediaだってそうです。
出典が不確かだったり、見方が偏っていたり、抜け漏れがあるかもしれません。
最新の研究結果が必ずしも最速でネットに上がるとは限りません。

わたしの書いたエッセイも、わたしなりに気を付けて書いていますが、それでも絶対的な情報の正確性は保証できません。
(※「小狐調査録Ⅰ」では、執筆するにあたって参照した資料類を全て巻末にまとめています。気になる情報があったら原資料にもあたってみることをおすすめします)

より正確な情報や専門性の高い情報を求めるのであれば、書籍媒体での調査を強くおすすめします。

5.それでは、いったい何から読めばいいの?


なんでも大丈夫です。
はじめは論文や専門書じゃなくても、大丈夫です。

▼たとえば、「鬼を切った逸話を持つ刀剣」について知りたいなーと思った時に、わたしが最初に読んだのはムック本「鬼を切る 日本の名刀」でした。
東京国立博物館のミュージアムショップで見掛けて購入しました。
小狐丸に関する記述があったのも、購入を決めた理由の一つです。

刀剣の写真がフルカラーで掲載されており、「刀剣本体」と「逸話」を読みながら結びつけやすくてよかったです。
ここで「鬼を切った逸話を持つ刀剣」についての一般的・基礎的なワードを見につけ、そこから段階的に専門書や論文に手を伸ばしていっています。

「週刊日本刀」もいいですね。
1冊につき1振りの刀剣を特集しつつ、刀鍛冶、逸話、刀装具、著名な持ち主についてのコーナーもあり、分厚くないし、リーズナブルなので、
調査のとっかかりに必要な「知識を身につける」ことを、気負いなくできると思います。
まずは気になる刀剣が載っている号を購入してみてはいかがでしょう。

バックナンバーはこちらで確認することができます↓


なお、拙著「小狐丸調査録Ⅰ」では、
「三日月宗近が渡邊家から東京国立博物館に送られる日、カセットテープで謡曲「小鍛冶」が流された」というエピソードについての調査結果を掲載していますが、その話について知ったきっかけは週刊日本刀の16号でした。

では、いざ専門的な領域へ踏み込もうとする時、どういう本から手に取ればいいのか?

綴虚堂さん主催の「刀剣ブックレビュー集」には、実際に調査を行っている刀剣ファンのおすすめ本が載っています。
(※とらのあなへの委託分は残り僅かのようなのでお気をつけください)

▼小狐丸ファンには、伏見稲荷大社の機関誌「朱」もおすすめです。
この雑誌には様々な立場や視点を持つ人が執筆した、稲荷社に関する論文や随筆が掲載されていますので、何かしら調査のヒントが見つかると思います。

バックナンバーは国立国会図書館にはすべてあるはず(※確か)です。わたしは後述の遠隔複写サービスを活用して気になる論文を取り寄せました。

6.国立国会図書館収蔵の絶版本が自宅で読めるようになりましたね

原資料を読みたいな、と思った時に
目的の本が絶版のため購入困難になっていた……という状況は珍しくありません。
そういう時、図書館で本を借りることができたら助かりますが、
近所のA図書館には無くて、隣の県のB図書館とか、
それこそ国立国会図書館にしか無い……という状況もあります。
ところが国会図書館は、COVID-19が流行して以降、一部の時間帯を除いて、入館するには抽選に当選しなくてはならず、都内在住者でもなかなか気軽に利用できなくなってしまいました。困ったものです。

しかし2021年12月、知の探究者たちへ朗報がありました。
2022/5/19より、国会図書館内でしか閲覧できなかった資料も個人のPCやスマホでも閲覧できるようになったのです!
な、なんだって~~~~~~~~???????
あと1年早くこのサービスが開始されて入れてば本を作る時にめちゃめちゃ助かったんだけどな……

利用無料ですが利用者登録が必要になります。詳しくは公式サイトにどうぞ。


7.餅は餅屋へ、郷土資料は地方図書館へ

先述の国立国会図書館には、日本で発行された本がほぼすべて揃っているといわれますが、実際には所蔵していない本も結構あります。
郷土資料もその一つ。
●●県に関わる資料を探しているのであれば、●●県の図書館にあたってみることもおすすめします。

「●●県に伝わる「△△△」という刀剣の伝説について調べたいな!」
「でも何という本に書いてあるんだろう?何を読んだらいいんだろう?」
……と思った時、はじめに行ったのは、

カーリルローカルで「△△△」というキーワードが含まれる郷土資料を調べること

……でした。
「●●県の××図書館」に「△△△」という刀剣の伝説が含まれる本があることがわかったり、それだけでなくどうやら▼▼県や◆◆県にも似たような記述の本があるらしいということが見えてきます。

地方図書館以外にもおすすめなのが、公的機関・公共機関の資料室です。
専門書の類はそれを専門とする場所に多く集まります。
一般の人も利用が可能なものもありまして、たとえば、わたしの場合は、文楽の「小鍛冶」の資料集めは大阪府にある国立文楽劇場の資料室をメインに行いました。

8.レファレンスサービス・遠隔複写サービスを活用しよう

レファレンスサービスとは、利用者が探している資料や情報に辿りつけるよう、図書館職員が手助けをしてくれるサービスのことを言います。

図書館のウェブサイトを確認してみると、レファレンスサービスの窓口ページがあると思いますので、そこから『「△△△」という刀剣の伝説について載っている郷土資料を探している』旨を相談しました。
(※見つからなかった場合は、図書館の問い合わせメールアドレスに、メールでのリファレンス相談は可能か質問しつつ相談しました)

遠隔複写サービスとは、図書館に直接来館することなく資料の複写(コピー)を申し込み、郵送で複写物を受け取れる……というものです。
申し込むには、複写したい資料の名前と複写したいページも合わせて伝えなくてはいけませんが、先述のレファレンスサービスを利用すると、該当ページNo.込みで資料を教えてもらうことができます。
ですので、レファレンスサービス+遠隔複写サービスを組み合わせて活用すると、資料を手元に集めやすくなります。


……長くなってしまいましたが、自分の身に置き換えて、最初から知っていたら良かったのにな~と思う事を中心に書いてみました。

完全に専門領域外の調査活動だったので、わたしはかなり難儀して試行錯誤しました。
欲しい情報に真っ直ぐたどり着けることはなかなかありませんが、その試行錯誤の中で、後々の重要なヒントになる寄り道ができました。
マシュマロ主さんも楽しい調査ができますようお祈りしています。
最後にもう一つ。

9.復習も大事

知識を身につけていく中で、それまでには気付けなかったことに気付けるようになります。
なので、ある程度調査を進めたら、最初に読んでいた資料・ウェブページをもう一度読み返してみたり、自分の資料検索の足跡を辿り直してみることを強くおすすめします。
きっと世界が変わって見えるはずです。

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