【ネタバレあり】舞台「刀剣乱舞」无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣- 考察
真田十勇士のはじまりは10人のさむらいではなかったようです。
軍記物語の中で生まれた、真田家の架空の6人の家臣たちが、語り継がれ、脚色される中で「十勇士」になり、そして文壇でその存在が確立したのは明治~大正時代のことだと言われています。
では「无伝」に登場した十勇士はいったい何者なんだろう。
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【今回考えたこと】
▼真田十勇士が、未来世界の知識を持っていることについて
▼「放棄された世界」に生じる異常気象と、骨喰藤四郎の関係。刀ステ本丸のBAD ENDとは
▼「黒田如水」は人間なのか?黒田官兵衛と同一人物か?
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1-1.「无伝」の真田十勇士
「无伝」に登場した真田十勇士は以下の通り。
・猿飛佐助(演:風間由次郎)
→十勇士のリーダー格。メイン武器は刀だが巨大な手裏剣も使う。序盤で長谷部と戦った時は、火遁の術を放った
・霧隠才蔵(演:河合龍之介)
→ポニーテール+鉢巻。序盤で薬研を幻術や忍術で翻弄する。刀とダガーの二刀流
・穴山小助(演:牧田哲也)
→ポニーテール。大千鳥十文字槍が真田信繁の影武者を演じていたのを見破る。佩刀しているがメイン武器は槍
・三好清海入道(演:坂口修一)
→三好兄弟の兄。序盤で数珠丸と戦い、寺の雪見灯籠を破壊した。金砕棒(&仕込み刀)を使う
・三好伊三入道(演:竹村晋太朗)
→三好兄弟の弟。序盤で骨喰と戦う。力自慢。プレートメイルの亜種のような武器(&仕込み刀)を使う
・海野六郎(演:高田淳)
→ロングヘア。シルクハットを被っている。双刃剣を使う。「まァ、嘘なんだけどねェ!」が口癖
・由利鎌之助(演:行澤孝)
→動物の毛皮のようなフードを被っている。仲間や「おふくろさま」に対して甘えたなところがある。鎖鎌使いだが刀も使う
・筧十蔵(演:久保田創)
→ボブヘア。気が短く、味方相手に発砲することもある。銃剣使い
・望月六郎(演:伊藤教人)
→スキンヘッド。眼鏡を掛けている。佩刀しているが、「ウルヴァリン」のような金属性のかぎ爪も使う。発明が趣味で「二輪駆動馬車」を作った
・根津甚八(演:星璃)
→モヒカン。トンファーのような持ち手が付いた特殊な形状の双刀が武器
刀ステにおける真田十勇士は、
穴山小助いわく「真田にまつわる逸話から顕現した」存在です。
序盤で「時間遡行軍のようなものか?」と訊かれた際には「あんなの(=時間遡行軍)と一緒にするな」と猿飛佐助は言いました。
前作「天伝」では、豊臣家を存続させる(つまり「正しい歴史」に抗う)ため、真田家に伝わる刀剣を媒介とし、真田家に仕える武士10人の命を代償にして「真田十勇士」を顕現させようとする展開がありました。
(※刀剣に宿った心や想いを顕現させるのではなく、刀剣に情報を付加させて顕現させようとする試みは、一見「刀剣男士の作り方」とは相反しているように感じます)
しかし、その目論見は失敗に終わり、真田信繁は本来の歴史とは異なるタイミングで死ぬことになります。
「天伝」の大坂冬の陣と「无伝」の大坂夏の陣が連続した物語なのであれば、ここで大きな矛盾が発生します。
「天伝」の劇中では顕現に失敗したはずの真田十勇士が「无伝」に登場するのです。
彼らはどこから来た存在なのでしょうか?いったい誰が何の力をもって顕現させたのでしょうか?
1-2.「真田十勇士」の実像
真田十勇士の原型と見られる存在は、江戸時代前期の軍記物語に登場します。
1672年に成立した「難波戦記」という軍記物語では、真田幸村の架空の家臣として以下の人物の名前が見られるようです。
【難波戦記】の真田家の家臣
・穴山小助
・三好清海入道
・三好為三入道
・海野六郎兵衛
・由利鎌之助
・望月卯左衛門
その後に出た「真田三代記」という軍記物語で、新しく2人の家臣が追加されるそうです。
【真田三代記】の真田家の家臣
・穴山小助
・三好清海入道
・三好為三入道(※三好伊佐入道とされる場合もある)
・海野六郎兵衛
・由利鎌之助
・望月六郎兵衛 ← 望月卯左衛門から名前が変わる
(※望月主水、望月宇兵衛、望月太郎左衛門とされる場合もある)
・根津甚八 ←new
・筧金六 ←new
そして大正2年に立川文明堂から出版された真田幸村を主題とした小説群の中で、新たに「猿飛佐助」「霧隠才蔵」という2人の家臣が創り出され、「大坂城冬之陣」という小説において「真田十勇士」という言葉が登場します。
【大坂城冬之陣】の【真田十勇士】
・穴山小助
・三好清海入道
・三好為三入道 (※三好伊佐入道とされる場合もある)
・海野六郎 ← 海野六郎兵衛から名前が変わる
・由利鎌之助
・望月六郎 ← 望月六郎兵衛から名前が変わる
・根津甚八
・筧十蔵 ← 筧金六から名前が変わる
・猿飛佐助 ←new
・霧隠才蔵 ←new
「猿飛佐助」と「霧隠才蔵」は、他の8人と違い「忍術」を使うことができます。刀ステでもその公式設定は踏襲されています。
というわけで、文学史上においては「真田十勇士」という言葉・概念が生まれるのは大坂夏の陣より遥か未来のできごとになります。
そして望月六郎が発明した「二輪駆動馬車」……あれの動力はおそらくエンジンだと思うんですが、動力装置としてのエンジンが発明されたのは19世紀……江戸末期のことです。
だから、「无伝」の「真田十勇士」は、決してあの時間軸のあの場所にあったものだけで生み出されたのではなく、「時の政府」や「審神者」のような、未来世界の記憶や知識を持つ何者かが力を貸し、顕現したんじゃないかなぁ……と思います。
そういえば「天伝」の終盤で、時間遡行軍の「阿行」と「吽行」が、真田十勇士の媒介となった10振りの刀剣を回収しました。その時、ふたりはとても意味深なセリフを言っていました。
「逸話ある刀、顕現してもらおう」
「如水も喜んでくれるといいね」
……と。
真田十勇士の顕現には「黒田如水」が一枚嚙んでいるんでしょうか?
2.「放棄された世界」と異常気象、ふたりの骨喰
「无伝」では、5月の大坂に雪が降りました。
骨喰藤四郎(演:三津谷亮)と数珠丸恒次の前に現れた泛塵と大千鳥十文字槍———時の政府に属する刀剣男士たちは、以下のような見解を述べます。
・異常気象は歴史改編の影響によるもの
・その時その場所にいるはずの無い存在(高台院、真田十勇士、刀剣男士)がいすぎて、時間の流れが破綻しようとしている
・歴史改変の軌道修正が不可能となった時間軸は、時の政府によって隔離され「放棄された世界」となる
「悲伝」の骨喰藤四郎(演:三津谷亮)は「以前に出陣した先で、夏に降る雪を見たことがある」と言っていますが、それはおそらく今作「无伝」のことなのかもしれません。
そして夏に降る雪は「无伝」が初ではありません。
「ジョ伝(如伝)」の小田原でも季節外れの雪が降り、骨喰藤四郎(演:北川尚弥)はその光景を目の当たりにしています。
もしかすると「如伝」の小田原は「放棄された世界」になってしまっているかもしれません。
刀ステでは、作品の外で起きている「キャスト変更」という事象すら作中に組み入れているという噂があります。
(「維伝」の公式パンフレットでは、「骨喰藤四郎」「江雪左文字」「鶴丸国永」の名前が二カ所載っているということで話題になりました)
夏に振る雪の記憶もまた、
「无伝」「悲伝」の骨喰藤四郎(演:三津谷亮)と、
「ジョ伝」「慈伝」の骨喰藤四郎(演:北川尚弥)が別個体である可能性を高める材料になるんじゃないかなと思いました。
そして骨喰藤四郎で忘れてはならないのが「維伝」。
「維伝」の舞台は「放棄された世界」文久三年の土佐ですが、刀ステ本丸の刀剣男士たちが訪れる以前に、その地に出陣し、そして「朧」に敗北した刀剣男士がいたことが判明します。
・山姥切国広
・陸奥守吉行
・骨喰藤四郎
・大俱利伽羅
・宗三左文字
・日本号
この中で、陸奥守吉行は「折られた(=破壊された)」ことが明言されますが、もしかすると他の5振りも折られたかもしれません。
この骨喰藤四郎は、刀ステ本丸の骨喰なのでしょうか?
そうであれば、どちらの骨喰なのでしょう?どの世界線の骨喰なのでしょうか?
3.「黒田如水」の調略と、へし切長谷部の今後の役割
「无伝」には黒田如水が登場します。
しかし、史実では彼は1604年に京都の自邸で死亡しているので、1615年の大坂夏の陣に現れる「黒田如水」は歴史上の人物———少なくとも生きている人間ではないとみてよいでしょう。
刀ステ世界にはいくつかのルールがあるようですが、「人間」の定義付けをするようなものあります。
・人間は時間遡行することができない
・人間は刀剣男士に勝つことはできない
・刀剣男士が出陣先の時代から離脱すると、現地の人間から刀剣男士に関する記憶は消える
刀ステシリーズにおいて、時間遡行軍以外で、刀剣男士たちの敵になった異形のものについてまとめてみました。
・黒甲冑(義伝)
→甲冑の付喪神(鶴丸に憑依する)
・九十九刀(ジョ伝)
→時間遡行軍99体が合体した刀(※弥助の武器として使われる)
・時鳥(悲伝)
→複数の刀剣の想いの集合体(付喪神として顕現し、刀剣男士と互角に渡り合う)
・朧(維伝)
→坂本龍馬の拳銃を媒体に出現。「時間遡行軍でもなく刀剣男士にもなりきれない魑魅魍魎の類」by南海太郎朝尊
・キリシタン大名(科白劇)
→「鵺みたい」「混じってる」by獅子王
・弥助(天伝)
→時間遡行軍を何百体も体に憑かせた。
「人ではなく、時間遡行軍でもなく、刀剣男士になることもできないワタシは、言わば朧でしょうか」by弥助
・九十九刀(天伝)
→時間遡行軍99体の念が入っている刀に逸話を付加し、顕現させた(顕現には成功するものの肉体を保つことはできなかった)
・真田十勇士(无伝)
→「真田にまつわる逸話から顕現した存在」by穴山小助
・高台院(无伝)
→「人間ではない」by高台院
・黒田如水(无伝)
この中で刀剣男士に勝利したことがあるのは、「維伝」の朧と、「无伝」の黒田如水です。
これを踏まえると、本来生きているはずがない時代に現れ、刀剣男士たちに関する知識を保有し、そしてへし切長谷部に打ち勝ってしまった「无伝」の黒田如水はいよいよ人間ではないということに……
……しかし、ここでもう一つの疑問が浮上します。
「无伝」の黒田如水は、元人間の黒田如水なのだろうか?
黒田如水と名乗っているものの、正体は別物である可能性はないか?
黒田官兵衛、黒田孝高(洗礼名シメオン)、そして如水軒円清は史実では同一人物とされています。
「ジョ伝」黒田官兵衛→足が不自由なため、杖をついている
「科白劇」黒田孝高(前半)→足が不自由なため、杖をついている
「科白劇」シメオン(後半の白い衣装)→杖を使わない
「无伝」黒田如水→杖を使わない
……彼ら4人は、本当に同一人物なのでしょうか?
「天伝」のラストシーンで、時間遡行軍「阿形」「吽形」は「黒田官兵衛」と「黒田如水」を呼び分けていました。
これは私の妄想なのですが、「无伝」の世界では、人間の黒田官兵衛は既に死んでいるけれども、黒田官兵衛の持ち物である何かが「朧」になって「黒田如水」を名乗っている……とか。
黒田如水とへし切長谷部のラストバトル。
「黒田如水」は長谷部を圧倒しながらも「へし切長谷部」がいかに素晴らしい刀であったかを説きました。
そして長谷部にとどめを刺さず「強くなれ」と言いました。
お面を外した「黒田如水」の表情は、どこか悲しみを帯びているように見えました。
けれども「黒田如水」の言葉は、自分の記憶の中の長谷部を語るには、淡々としていて、まるで自分の経験ではなく、伝聞をそのまま述べているようにも感じられました。
三日月宗近と同じものを探しているという「黒田如水」。
三日月と同様に、何度も何度も「円環」の中で歴史を繰り返し、変化をもたらそうとする彼はいったい何者(何物?)なんでしょう。
「黒田如水」は物語論で言うところの「ヒーローの敗北」そして「克服すべき呪い」をへし切長谷部にもたらす存在でした。
では、刀ステのへし切長谷部は「黒田如水」を倒すことが運命づけられているのでしょうか?如水は何のために「強くなれ」と言ったのでしょうか?
4.今後の展望
次作は来春上演される「綺伝」。
とある本丸の出陣報告書というていで演じられた「科白劇」ではなく、今度こそ刀ステ本丸の刀剣男士たちによる「特命調査 慶長熊本」が日の目を見ます。「科白劇」と何がどのように変化してくるか、楽しみです。
そして通算12作目となる新作の制作も発表されました。
「陽伝(ひでん)結いの目の不如帰」。
「悲伝 結いの目の不如帰」との違いとして、天下五剣の一角・鬼丸国綱の登場が示唆されました。
私はついつい最悪の展開を想像することで、最悪の展開に備えてしまうタチなのですが、鬼丸国綱は刀ステ本丸の味方なのでしょうか……もちろん味方であってほしいけれど……
ずっと気になっているんですけど、刀ステで検非違使が板の上に現れたことってありましたっけ……?
もし未だ無いのだとしたら、これは後々強烈なインパクトをもたらすのではないか……
そんなことを思いながら「維伝」で登場した山姥切国広とよく似た時間遡行軍打刀のことを考えていました。
「歴史を守ることが本能」という点では、刀剣男士と検非違使ってそうそう違わないように思いますが、その違いってどこから生まれるんだろうな。
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■本記事の参考資料
【配信映像】
・「舞台「刀剣乱舞」无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-」2021/6/27 大千秋楽映像
【書籍・ブックレット】
・山村竜也「真田幸村: 英雄の実像」河出書房新社 (2015)
・山村竜也「真田幸村と十勇士」幻冬舎(2016)
・ニトロプラス「戯曲 舞台「刀剣乱舞」義伝 暁の独眼竜」(2018)
・舞台「刀剣乱舞」製作委員会「舞台「刀剣乱舞」維伝 朧の志士たち」公式パンフレット(2019)
・ニトロプラス「戯曲 舞台「刀剣乱舞」悲伝 結いの目の不如帰」(2020)
・神田鯉松「人生を豊かにしたい人のための講談」マイナビ出版(2020)
・舞台「刀剣乱舞」製作委員会「舞台「刀剣乱舞」天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」公式パンフレット(2021)
・舞台「刀剣乱舞」製作委員会「舞台「刀剣乱舞」无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-」公式パンフレット(2021)
【映像作品】
・「舞台 刀剣乱舞 ジョ伝 三つら星刀語り」
・「舞台 刀剣乱舞 維伝 朧の志士たち」
・「科白劇 舞台 刀剣乱舞/灯 綺伝 いくさ世の徒花 改変 いくさ世の徒花の記憶」
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