物語100連発その12 ~ Alchimiste~

キーンッ
人間の可聴域の範囲外いや、
ギリギリ範囲内の高音が耳に入って目が覚める。
何だ、耳鳴りか?
最近、ある研究成果を盗み、
その再現のために2~3日寝ていなかったので当然だろう。
だが喉が乾いたな。
耳栓を外し、水を飲みに
「主!」
ベッドから出て前を見た瞬間、女性の下半身が網膜に焼き付く。
思わずまじまじと見てしまう。
その凄く綺麗だ。
かなり鍛え上げられているが適度に脂肪の乗った肢体、
彫刻とも言うべき腰の曲線、
おへそから胸部にかけては彫刻そのものと言っていいほど、
さらにうっすら腹筋が割れていてそれも良い。
腕もかなり筋肉質に見えるが、嫌な感じはしない。
全身のバランスの中で調和が取れている。
だが髪が長すぎて顔が見えない。
腰まで届きそうな髪が顔全体を隠している。
「ってそうじゃなくて、誰?」
さっきまで人体錬成の実験をしていたとは言え、
その実際に出来てしまうとは思っていなかった。
というより、まだ出来ないはずだ、
一番必要な膨大なマナがない。
それが人体錬成に絶対に不可欠なもののはずだ。
「その、迷子なら服を貸そうか、
あと家まで送ろうか?」
手元にあった毛布を彼女に渡す、まとう。
「いいえ、主!あなたが私を創造してくれたのです。」
出来ちゃってたよ、しかし何でだマナなしで出来るなんて
古今東西どこの研究資料にもない、というか理性的に考えて不可能だ。
だがマナは普通の人には見えない、体内に魔法石の内の何かが入っていない人間には
マナの流れも密度も動きも見えないし、感じない。
錬金術のように見えるかもしれないが、実際はマナをちまちま集め、
それを用いて何かを作ったり動かしているに過ぎない。
ゴーンゴーン
朝3時を知らせる低音の鐘が鳴る、
変な街だが、この街は昼夜の交代制であるため、
本来、夜の時間にでも鐘は鳴る。
耳栓はこの街では生活必需品だ。
「じゃあ、本当の、本当に。その僕が創り出したんだよな?」
「もぉ~、主、もうちょっと自分に自信を持ったらどうですか?」
ジト目にふくれっ面で反論してくる、
だがそれが可愛い。
「じゃあ、とりあえず名前でも決めるか。」
そう言って起き上がり、研究机に向かって一枚白紙の紙を取り出す。
「私の名前!! その、良いんですか?」
「良いというか、困るだろ。」
彼女がキラキラと顔を輝かせる。
「僕の名前がアラン、だからそこから何か取って。」
「で?で?」
近い、近い、綺麗なんだからもうちょい自重してくれよ。
「さっき鐘がなったから、ベル、アラン・ベル、いや呼びづらいな、
どこか削って足すか変えるか。」
「ん~。」
彼女も一緒に悩んでくれる。
優秀だな、普通女って奴はこういう時に限って、
癇癪を起こしたりするんだ。
少なくとも学院時代はそうだった。
アラン・ベルと白紙の一番上に書き、
下に一文字消した字を順に書いていく、
ラン・ベル
アン・ベル
アラ・ベル
そこで思いついたぞ。
「アルベラ!
お前の名前はアルベラだ!」
「私の名前、アルベラ、アルベラ」
「いや、適当に考えちまったかもだ、
嫌なら別のを考えるが。」
「ううん、私アルベラ。アルベラだよ。
アルベラで良い、いやアルベラが良い。」
なんだか馴染んでくれたみたいだな。
「分かった、とにかくまだ日も出てないし、あと3時間ぐらい寝てもいいかな?」
「はいっ、私もご一緒しますね。」
しまった、ベッド一つしかないんだった。
「いや、やっぱりやめだ床で寝たくなった、アルベラはベッドで寝ろ。」
「いいんですか、ふかふかですね、このベッド。」
メチャクチャ安物なんだが気に入ってくれたみたいで、良かった。
「おやすみなふぁー」
寝付き良すぎるだろ、もう寝ちまった。
「ああ、お休み。」
そう言って毛布を纏っただけの彼女の肩に僕の上着をかけてやる。
床は冷たいな、だが寝れない感じじゃあない。
一応、敷物を床の上にしき、予備の掛け布団をかぶって寝る。
だが寝れない、当然だ。
いつの間にか僕の夢がかなってしまった、
どうなっているのか気になって眠れない。
ふとんをはねのけ、
外に出ると皆既日食が半分まで終わりかけていた、
そうか今日は皆既日食だったのか。
だが、月の満ち欠けに関するマナの変化はこの星レベルの話であるため、
未だに解明されていない。
「月も綺麗だな。」
月がさっき見てしまったアルベラを連想させる。
一人で夜風、いや早朝の風を感じていると、
いつの間にか熱が冷めたようだ、眠くなってきた。
部屋に入り、眠りに落ちる。

「おはようございます。」
ペコリ、いつの間にか僕の服を着ていたアルベラが三つ指付いてお辞儀をしてくる。
「いつの間にそんな作法を。」
「街の人に聞いて。」
「街に勝手に出たのか!!」
「主がいくらゆすっても起きないから。」
「その、何かされなかったか?」
「みんないい人でしたよ。」
「ついにアランに嫁ができたか~って
みなさん喜んでいらっしゃいました。」
「まぁ見た目的にはそう見えるよな。
ていうかよくごまかせたな。」
「この錬金術でも人体錬成が禁忌中の禁忌であることぐらい私も知ってますから。」
「だよな~。じゃあ社会の一般常識は予め持ってるのか。」
「ええ、引きこもりの主以上には。」
そう言って部屋を指差すと、物凄く綺麗に片付いている。
それに簡易な台所からは物凄く美味そうな匂いがする。
「朝食は、ブロブロのステーキです。」
「は?あんな魔獣の肉なんてメチャクチャ高いだろ?
まさか俺の全財産...」
「いいえ、狩ってきました、それに調味料は一応あったので。」
「な、あんなデカい奴を!」
ブロブロはこの地域ではかなり有名な魔獣だ、
猪型で、かなり力が強いし、速い と本で読んだ。
「その、アルベラは実は強いのか?」
「ええっと、多分騎士の序列で言うと3番ぐらいですね。
主を守って生活出来る最大限を目指してます。」
いや、普通は最小限じゃないのか。
だが僥倖だ、こっちも本でしか知らないが、
騎士の序列には、12段階ある、本来は見習いを入れて13なんだが
宗教上の理由で公式には12とされている。
その中で序列5以内は化物だ、世界的に活躍した傭兵だった奴や、
一度は聞いたことのあるような英雄の末裔が名を連ねる。
その、何でそんな高性能なホムンクルスを錬成できたんだ?
何かがなければ人体錬成しても泥ぐらいしか出来ない、それが本来の俺の実力だ。
だがアルベラのそれは現在の錬金術の水準いや、歴代合わせても及ばない水準だ。
何かがあると考えるべきだろうな。
ステーキをかじりながら、ぼーっとそんな事を考えていると。
「その美味しくなかった?」
物凄く心配そうにこっちを見てくる。
しまった、食べながら考えてしまうのは悪い癖だ。
「違う、美味すぎてそのぼーっとしてしまったんだ、すまん。」
「そうでしたか。」
パッと顔が明るくなる。
嘘付いてでもこの笑顔を守りたくなる、
力関係的に守られることになるんだろうけど。
「ていうか、アルベラは食べなくて大丈夫なのか?」
「私はもう食べましたから、毒味です。別にお腹が減っていたわけじゃ。」
グーッ
アルベラの腹の虫が鳴く、想像以上に燃費が悪いな。
「あははは、その一切れもらっても?」
「ああ、もうこれだけしかないし、全部やるよ。」
大きかったので半分ほど食べたら結構腹が満ちてきた。
俺の使っていたナイフとフォークを素早く取り去り、
指でくるくる回転させたあと、
物凄く整ったナイフ、フォーク捌きで次々と食べる。
「すごい食べっぷりだな。」
口の周りに肉汁を少しつけながら、
こっちを見てニコニコと笑う。
本当に美味そうに食べるな。
そしてものの1分もしない内に食べきってしまった。
「じゃあ、調べ物があるから、家の留守は頼む。」
「駄目です、私も行きます。」
「何でだよ、そう言えばもう街には出てたんだな。」
この家は結構な町外れにあるが、
ブロブロが居そうな湿原に出たってことは
街の真ん中を突っ切ったのだろう。
「一応、文字は読めるんだよな?」
「はい、古今東西あらゆる文字、言葉をインプットされてますから!」
何だそれ、じゃあ。
「私は上手にステーキを作れます をシュベル語で。」
古今東西ってことは古代の言葉でも良いんだろ。
「ア マカ ステーキ ウル ですね。」
「マジか。」
合ってる、
というのも難読単語は知らんが、基本的な文法は分かってる、
それに人差し指でスペルらしきものをなぞっていたが、それも合ってる。
逆側からだから読みづらかったけどな。
「マジです。何なら他の言葉でもしますか?」
「いや、良い。他の言語は多分使わないし、
今のなしだ、頼むから手伝ってくれ。」
分かりましたと言わんばかりにニヤニヤし始める。
「何だ、その満面の笑顔は?」
「意外と素直で可愛いなって。」
「可愛いはお前だろ。」
カァーッ
アルベラの顔が急に赤くなる。
すごいな、まるで油に入れた炎のようだ。
「片付けが。」
「そのぐらい俺がやるさ。」
僕は食べ終わった食器に手から出した炎を当てる。
「おおーっ。」アルベラが少し驚いている。
男の一人暮らしだと家事を如何に効率化するかについて研究しつくすことになるんだ。
肉汁は油だから燃やすのが手っ取り早い。
そして燃えカスをゴミ箱にぽいっと捨てる。
フォークとナイフは使い捨ての紙でさっと拭き取る。
これが最速だ。
わずか数秒で終わった片付けに驚いているな。
「とにかく行こう。」
「は、はいっ。」
アルベラの手を引いて家から錬金書庫に走って向かう。
この街には錬金術師のたった4人しかいない錬金術師だが、
資料には恵まれている。
町外れというか近所に書庫がある。
そこは自動人形が管理していて、
あらゆる錬金術師が今まで公開した資料を自動で収集するようになっている。
活版印刷と智網と言う、世界をつなぐネットワークの産物だ。
公開した資料は自動的に全世界の書庫で即時印刷される。
「着いたぞ。」
家から小走りで約2分、歩けば4分のこの書庫、
見た目は完全にただの巨大な箱だ。
「初めて見ました。これが書庫ですね~。」
「ああ、取り敢えず目標は、
皆既日食とマナについての資料の要約をこの紙に書き込んでいってくれ。
雑にまとめてもらっても構わない、読める程度なら。」
そう言って円形の石で束ねた白紙を30枚ほど渡す。
「分かりました。頑張ります!」
両手でグッとガッツポーズしてやる気みたいだ。
「えっと、書庫内はしゃべるとマズいから
12:00にここで合流しよう。」
今は大体8時だから約4時間だ。
こうして僕達は書庫に入る。
僕は手で指差し、予め目星を付けておいた棚で
アルベラに範囲を指定する。
僕はもう一つのテーマについて調べるために別の棚へと向かう。

4時間後
「終わったな、紙を見せてもらってもいいか?」
「はい。指定された範囲の物は全て読み終わりました。」
パッと見せられた紙の1枚目にはマナと月の満ち欠けについての仮説のリストが、
2~10枚目まではそれに関する事象の説明、
10~20枚目には考察がそれぞれ分かりやすくまとめてあった。
「すごいな。だがこれは。」
17枚目のこの考察「皆既日食にはこの星のある一点、
正確には5レール×5レールにマナが急激に集まる可能性があるが、
全く予想が出来ず、計画的な運用には不適だろう。」
これは、まさに昨日の現象と一致する。
僕の部屋には程度は低いが媒介もあったし、素材も揃っていた。
魔獣から逃げ惑いながら集めた物だが人から盗んだものではない。
恐らく、素材の所有権は僕が握っていた。
錬金術ではこの所有権が重要になる、
というのも本来の所有者ではなく、
盗難したものを錬金しようとすると代償が発生する。
主に古来から呪いと呼ばれるものや流行の疫病がそれだ。
世界の仕組みとしてそれは起こる。
譲渡という手段もあるが、期間がかかる。
「分かった、だがそんな確率が起こりうるのか。」
正直、これが起こる確率はほぼ0と言って良い、
今少なくともこの国の人間はこの星の全容すらつかめていない
そんな巨大な星の中の一点、正確には家一件程度の面積にマナが急激に集まる。
「気づいたようだな。」
後ろから男の声が聞こえる、
それだけじゃない、足音からして二人いる。
「アルベラ、逃げろ。」
振り向いくと3レールほど離れたところに背の高い男女がいた。
激しい殺気が放たれていることがひと目で分かった。
「アルベラ、おい、聞いているのか。」
ダメだ、こいつも殺気を放ち始めた。
まるで番犬が主を守ろうとするかのように。
「こっちだ。」
アルベラの手を引っ張り、全力で走る。
走る、走る。ひたすら。
「どうして、主! 私は戦えます。」
「ダメだ。絶対にダメだ。」
「どうして!」
「黙れ!!!」
そう言ってもっと強くアルベラの手を握る込む。
絶対に離さないように。
「待ちたまえ。」
いつの間にか回り込んでいた男が俺達の前に降り立つ。
いくらアルベラを引っ張って走っていたとは言え、
全力で走った。
いくら何でも息一つ切らさず回り込めるわけがない。
「そちらの青年は名乗らずとも察しがついているようだが、
麗しくもおぞましいそこの魔女に自己紹介をしよう。
我が名はアーサー、アーサーペンドラゴン7世とでも呼んでもらおうか。」
この威圧感、腰から異常な圧力を放つ、剣と鞘。
確かにお伽噺の中から飛び出してきたとして思えない。
そして後ろから追いついた人物も恐らく。
「ボーヤは察しが良いのね、あたしはグィネヴィア7世。
歴代アーサー王の妻にのむ与えられる名よ。」
パシッ
僕が本気で握り込んでいた手を軽く払う。
「主、私が戦います。」
「ダメだ、逃げるぞ。」
「どうして!私なら戦えます。」
「なら何で手をそんなに震わせてるんだよ!
万が一にもお前じゃ勝てないのがわかってるんだろ!」
「おやおや、仲間割れか。」
「ふふっ、若いって良いわね。」
もうダメだ。
話している間に距離を詰められてる。
「しかし、主どうやって。」
「これだ。」
俺は上着を上からビリビリと破る。
「あらっ。」
グィネヴィアがおどける。
「妻に若い男の体を見せつける気かね? ん?」
アーサーはおちょくるが気づいたな。
「アルベラ、お前は生きろ。これを持ってろ。」
そう言って緑色の手ほどの大きさの結晶を渡す。
ブワーン
緑色の結晶から緑色の球が現れ、彼女を包む。
「$&Y#$%&!」
アルベラが中で何かを叫んでいるが、もう聞こえない。
この球の中には物理的に完全に遮断されているし、
いかなる魔術も錬金術も通さない、
だが代償として所持者のマナを急激に吸いとるが、
彼女なら数分は固い。
「アルベラ、短い間だったが楽しかった。」
俺は心臓部に埋め込んである、賢者の石にマナを注ぎ込む。
賢者の石とは本来マナと触れさせることは禁忌だ、
それはアルベラのように奇跡を起こすこともあれば、
こうして悪意が入ったマナを流し込めば、
依然一つの街を消し飛ばすほどの爆弾になる。
「こぞおおおおおおお!」
見ろ、あの世界No.1の騎士アーサーが慌ててやがる。
いい気味だ、命と時間をかければ世界No.1だろうが倒せるんだ。
「&#%#&’$!」
アルベラが泣き叫んでいる、
あーあ綺麗な顔が台無しだ。
賢者の石がどす黒く染まっていくのが分かる。
もうそろそろだ、
最後にアルベラの方を向き、
笑う。
だが目から冷たいものが頬を伝う。
「ありがとう」
ドゴオオオオオオオオオオ
辺りを青色の炎が包む、
何も感じない。
死んだのか。
「何をぼーっとしておる!馬鹿者!」
上から声がする。
「しゃがめ!」
すぐさま体を縮める。
ガシッ、
とんでもない強さで胴体を捕まれ窒息しそうになる。
だが心臓部の賢者の石が元の色に戻っている。
アルベラを入れた緑色の球はもう片方の巨大な手に握られていた。
それに飛んでるのか?
下でアーサーとグィネヴィアが炎を消そうと、
水の呪文を唱え始めている。
バシャアアア
アーサーの真上から大量の水が突如現れ、二人の火を消す。
「おい、小僧、余は貴様を認めるぞ。」
上を見上げると巨大なドラゴン、
10レールはあろうかという巨大なドラゴンが両手に僕とアルベラの入った球を握っていた。
「余の名は湖の精、と言えば分かるか?」
「あの有名な?」
「そうじゃと言っても余は2代目じゃがな。」
「そろそろ娘の結界を解いてやったらどうだ?」
そうこの球体の結界の媒介である結晶の所有権は未だに僕のものだ。
パリッ、パァッ
「おっと。」
球が割れた瞬間に空中に放り投げられたアルベラを泉の精がつかむ。
「積もる話もあるじゃろうが、先ずは我が居城に向かうとしよう。」
そう言うと急上昇を始める。
く、息が苦しい。
「もう少しで着く。」
ボフッ
雲の上に出た。
遠くに城が見える。
あれが、いや何で泉の精をなのに天空に城があるんだよ。
「お主が考えてそうなことの答えとしては、
湖の水を全て蒸発させ、雲を形作ったが正解だろう?」
「ああ、心が読めるのか?」
「いいや、老獪というものじゃよ。」
見た目は若いドラゴンだが、確かに威厳を感じる。
泉の精と話している間、ずっとアルベラは黙っていた。
スーッ
まるで重力がないかのように城の入り口に着地し、
ギギギッ
泉の精が左手をかざすと巨大な扉が両側に開く。
何か錆びてるからか耳が痛くなる音がする。
「それ、油きれてるんじゃないのか?」
「そうじゃの、後でな。」
あ、これ絶対やらないやつだ。
「失礼します。」
あれから初めてアルベラが口を開いた、
しゃべれなかったわけではないんだな。
入ると赤い絨毯がまっすぐに引いてあり、
大きな廊下が広がっている、
左右に無数にも見える扉がある。
天井は高いが、内部は全て人の大きさのそれだ。
「よっと。」
ポンッ
体中を煙に覆われた泉の精が消えた。
いや人型に変化したのか。
「驚いたかえ?」
黒髪をオールバックに整え、
荘厳な衣装を身にまとった偉丈夫が現れる。
「ああ。どんな姿にでもなれるのか?」
泉の精っていうぐらいだし、まぁ水みたいに何にでも形を変化させられるのだろう。
歩きながら、話を聞く。
「そうじゃな、じゃが嫌いな物にはなりとうない。」
「例えば?」
「アーサーとか。」
「あー、そうだよな。」
こいつはアーサー7世だったかに目すら合わせなかった、
それほど嫌いな相手なのだろう。
出会い頭に炎をぶつけるほどだ。
「そういえば、あの炎は僕には効かなかったけど、何か仕掛けがあるのか?」
「あ、あれはの、体内の人のマナを焼くものじゃ。」
さらっととんでもないこと言いやがったな。
マナは本来自然にある程度存在していて、
それが人間にふれると、ろ過装置みたいに中にとどまることがある。
そしてろ過装置の歪がデカいほどマナが溜まりやすい。
これが少し大きいのが俺達いわゆる錬金術師で、
巨大になるとアーサーみたいな感じになる。
あれほどになるとマナだけで
サーカスみたいなものが出来る。
炎を出したり、敵の走る方向に先回りしたり。
さらにアーサーは序列1の中のNo.1
騎士のNo.は強さだけで決まるわけじゃないが、
序列1には数人しかいないし、その内の1人があのアーサーだ。
俺達を何で殺そうとしたのかは知らないが、
死にかけたとは言え、敵の最高戦力を見れたのはありがたい。
「それで、焼くって言っても具体的にどうなるんだよ?
マナが低い僕には効いてなかったが。」
「ふん、当然じゃ、針山の上に紙を乗せても貫かれまい、
だが本、数百冊の本を乗せたら?
分かるじゃろ、お主とアーサーとのマナの絶対量の差が。
そしてやつは数日の間一切のマナを使えぬ、
当然じゃ、焼いたのだからな。」
「でもさり際に水をぶっかけてたろ。」
「あれは予め仕込んでおいたものじゃ、
あやつは石橋を叩き壊して飛んで渡るようなやつじゃからな。
わしの出現も薄々は気づいてあのようなものを仕込んでおいたと考えるべきだろう。」
「そもそも何であんたもアーサーも俺の居場所が分かったんだ?
いくら禁忌を破ったとは言え、アルベラのことは街の人しか知らないはずだろう?」
「馬鹿か、お主は!そのような巨大なマナを持った人間が唐突に現れれば、気づくわ!
序列1の人間ならこの星の反対側でも気づくやもしれん、というよりそのようじゃ。」
何か怒鳴られちゃったよ、学院以来だ。
「そ、そういうもんか。」
「全くお前にはこの本を舐めるように読ませねばならんな。」
そう言って泉の精が人差し指を折り曲げると。
扉が勝手に開いて本いや辞書が飛んできた。
ドスッ
何とか受け止めるが、重い、デカい0.6レールぐらいないか、これ。
「お主等の部屋はこっちじゃ。」
今度は指差しただけで扉が開く。
中にはベッドが1つ、木製のボロそうな机とイスが置かれていた。
「その、何でベッドが一つしかないんだ?」
「?」
分かってないみたいだな。
「アルベラと僕はまだそういう関係じゃない。」
「まだか まぁ良いじゃろう、若い男女、いずれは結ばれる。」
ニンマリと笑いながらそんなことを言い残し
ザザッ
偉丈夫の姿が水に代わり、地面に落ちる。
「ったく。取り敢えず入るか?」
アルベラがこくっと首を縦に振る。
そして彼女は下を向いたままベッドにこしかける。
ガチャッ
手を離すと、扉は勝手にしまった。
机の上にさっき飛んできた辞書を置く。
「主、私は頼りないですか?」
「そんなことはない、だがアイツには勝てなかったろ?」
そう言うと目に涙を浮かべ、再びこくっと頷く。
「言い過ぎた、ごめん。」
「うっ。うっ。」
泣き初めちゃった、僕の人生経験上、目の前で女性を泣かすというのは初めてだ。
泣かされたことはあるけど。
こういう時はどうすればいいのか分からない。
だが、何となく1人にしてはいけない気がする。
僕はベッドの隣に腰掛け、
アルベラの目に添えられた左手を両手で握る。
あの時と違って優しく、包み込むように。
「今回は僕の無知が全面的に悪かった。
ごめん。」
アルベラはうつむいて黙っている。
やっぱり怒っているんだろう、
勝手に創り出して、頼らずに自爆しかけてバカな僕のことを。
「ボソッ」
「何か言ったか?」
「じゃあ、キスして!」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう、
何を言ってるんだ?
「おかしいよ!アランは!だってずっと私のことばっかり、
もうちょっと自分を大事にしてよ!」
そう言われて気づく、
彼女は僕の心臓部の賢者の石を媒介にして創造したのだ、
よく考えれば僕の心がある程度分かってもおかしくはない。
初めて会ったときから、僕はアルベラに恋をしてたんだ。
綺麗で、それでいて強くて、
僕が勝手に創っちゃったホムンクルスだけど、
今までで会った中で一番人間らしい彼女に。
「目を閉じて。」
右手でアルベラの顎を支える、左手で彼女の左手を握る、アルベラが握り返す。
アルベラの目が閉じられているが、それでも溢れ出した涙が頬を伝う。
僕の心がきゅっとなる。
これが恋なのか。
そっと口づけする。
柔らかい、そして生命力に溢れた彼女の息遣い、脈、思いを感じる。
そっと離れる。
「何だ?」
僕の心臓部が発光している。
賢者の石が光ってる、それも紅色どこまでも透き通すような光だ。
「なんだろ?」
すっかり元の調子を取り戻したアルベラが不思議そうに僕の胸を撫でる。
念のために上着を全て脱ぐと、
賢者の石の色が紅色に変色していた。
「これが。」
そう言ってアルベラが僕の胸に触れる。
石の色が揺らぐ、透明な絵の具を色水に垂らしたように。
「ああ、きっと僕達の感情を表しているんだろう。」
「ふふっ、アランったら変なもの付けるから、心が読めちゃうよ。」
「でもこれがなかったら君を会えなかった。ていうかアランって。」
「知ってるよ、さっき記憶を全部覗いちゃった。」
そう言って、ペロッと舌を出すそれと同時に
グーッ
アルベラの腹の音が鳴る。
「はははっ、アルベラらしいな。」
「もうっ。」
そう言ってほほが膨れる。
「何か食べるものあるかな。」
「泉の精を呼ぼうか。」
「お食事の時間です。」
部屋の外から不思議なの声がする。
扉を開けると書庫とは違う型の自動人形が二人分のフルコースの食事を持っている。
「そんなにいっぱいどこに置くんだ?」
ガシャッ
机が巨大なテーブルに変化し、中央までまるで足が生えたかのように移動する。
「なるほど、便利だな。」
「それより早く食べよっ!」
自動人形は次々にテーブルに並べていく。
多い。
一人分で10皿分ぐらいあるな。
「何してるの、アラン私が食べちゃうよ?」
ってもう食ってるし。
2つあったメインらしき鳥焼きと
もう一つの香ばしそうな肉がもうない。
まぁ、元気になって良かった。
俯いて今にも消えそうな表情はアルベラには似合わない、
こんな感じで少し元気過ぎる方がいい。
「なに?私の顔まじまじと見て。」
「いや、なんでもない。」
「もー、気になるじゃない。」
「本当になんでもないんだ。」


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ふふっ、ありがとう。
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筋坊主

物語100連発 改

物語の体操より薫陶を賜りました。 僕が考える楽しい物語を書いていきます。 いいねorコメントをよろしくお願いします!

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Alchimisteで合ってます、Alchimistは英語です。
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