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虫干

「オレは山は好きだよ、だけど、ただ山が好きだからというだけで、いつも山にいくんじゃあないよ。街にいて、ご存知辻まことを演じていると、自分がどうしようもなく嫌になり、なさけなくなってきてな、むしょうに山へ逃げ出したくなるんだよ。分かるだろう....。山へ独りで行って、地球上の一匹の生物としての辻まことになりたくて行くんだ」と - 解題 志村俊司 -『山からの言葉』辻まこと

 上記は、昨夜、何気なく手に取り読んでいて合点した部分である。「自分がどうしようもなく嫌になり、なさけなくなってきて」ということはないが、人間という「衣」が窮屈になると山へと足が向く。ほんの僅かなひと時だが「ただの一匹」になると、膨らんだ妄想が萎んで足が地につく。

 足が地につくと、動力源が切替わったかように世界が変わる。仲間入りとまではいかないものの自然に溶けいっていく。何が起きようと、誰のせいでもない。Whatever happens happens.  下記は、本日落手した本からの引用。遮眼革や色眼鏡に気づけば、振り回されることは少なくなる。

人間以外の動物たちも、人間と名附けられている動物同様に、金錢をつかませることであっさり従順になるのだったら、北國の曠野の秋を駆け廻る狐との交渉も多分それ程困難ではない。そこで金錢に代わる餌によって手懐ける。これを人間の方は勝手に友情などと呼ぶ。しかも純粋な愛などと氣持の悪いことを言う。逃げろ逃げろ。私も恥しいさまざまの行爲に麻痺している人間の仲間である。お互いに別々の道を行こうではないか -「別々の道」- 串田孫一『光の神話 2』

※見出し画像は「串田孫一」さん作