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人間の条件/東京の条件

岸井大輔氏による「戯曲|東京の条件」を中田一会(きてん企画室)が送ってくれた。100BANCHを構想した頃にハンナ・アーレントの著者「人間の条件」に大いに触発された事を知った一会が、この戯曲は松井への推薦図書だと思ったとのこと。

「東京の条件」とは、岸井大輔氏による演劇でハンナ・アーレントの「人間の条件」に着想を得ている。

東京都及び東京文化発信プロジェクト室との共催で、三年間にわたり上演した『東京の条件』の戯曲。

演劇、その戯曲といえば、多くの人からしたら自分には対象外と思わせがちだが、冒頭、岸井氏は「そもそも皆、生きている上で何かを演じてるでしょ。」と読み手に問いかけて、自分ごと化させて始める。それだけで既に面白い。

「東京の条件」もまた100BANCHと同様にハンナ・アーレントの「人間の条件」を下敷きに構想されている。人間たる条件を「労働・仕事・活動」に分けた時、岸井氏は労働と消費者をプライベート、活動と当事者をパブリックと潔く分類し、東京(渋谷)にはプライベートつまり労働と消費者しかないと言い放つから気持ちが良い。

だから今回は渋谷、東京に「共(コモン)」から始まる「公(パブリック)」をデザインしようということで、この戯曲がかかれている。それは100BANCHも同様じゃないかと僕は膝を叩きながら読み進めた。(100BANCHも「当事者が活動する場所」と定義している。)

演劇そのものは残念ながら観てないので、「東京の条件」について感想を述べることはできないが、設計(戯曲)の妙からして、評価が難しく、議論が議論を呼ぶ面白い作品に仕上がったに違いない。とても実験的な作品だったのだろうと予想できる。

特にパブリックをつくる構図をハンナ・アーレントのディスカッションのテーブルになぞらえて、会議体、TAbleを発案し実演したことが面白い。企画者(思考)、製作者(仕事)、生産者(仮説技術)、当事者(活動)で囲んでパブリックをつくる(再現する/演じようとする)というのもまた面白い。

一方で、この西欧的なディスカッション(テーブル)だけでは、日本の公共は良くも悪くも成立していないというのも合点がいく。議論の「テーブル」に代わって「鍋」が必要になるのが日本流。同じ鍋のスープを飲めば全て丸くおさまってしまう、なんとなく話が進んでしまうという視点だ。

100BANCHも月に一度、鍋会があってメンバーが自由に鍋を囲んで過ごす。主たる目的はなく、鍋を囲む行為そのものが意義なのに、何か大事な通過儀礼のようでもある。鍋的なる行為に日本におけるコモンズとパブリックデザインのヒントがあるのではないかと思って続けている。

この読書感想には僕自身に都合よい解釈が混じっている。でも演劇というのはそれで良いはずだ。「東京の条件」が2000年代の東京で構想されたことは一番興味深い。同時代にうまれた戯曲がアーレントと僕の思考を時空をこえて繋いでくれた。中田一会ありがとう。叶うなら岸井大輔氏を100BANCHに招待して公共と鍋について議論してみたい。

#東京の条件 #人間の条件 #ハンナアーレント #100BANCH #パブリックデザイン #推薦図書

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