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フヴェルゲルミル伝承記 -1.5.2「ローザVSユミリア」

はじめに

タイトル通り、ユミリアとローザの戦闘です。

 では、どうぞ。

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第1章 第5話
第2節「ローザVSユミリア」

 黒い喪服のようなドレスを着た女は、同じ黒の闇を纏う夜の世界に溶け込んでいた。
 女はのんびりと散歩がてら景色を見やる気軽さで、天を突く程の高さを誇る城壁をを眺めていた。
 彼女の前では今まさに、現在進行形で惨劇が繰り返されている。
 魔物が人を襲い、人が魔物を駆逐する。
 夥《おびただ》しい血の雨が降り注ぎ、悲鳴と絶叫が大気を振るわせる。
 呪文と呪言が飛び交い、魔力の奔流が駆け巡る。
 剣は踊り、鉄が歌う。戦の演者は堆く積まれ、悪臭を満たす。
 何とも良くある光景だ。
 もう間もなくこの砦は落ちるだろう。
 何ともあっけない幕引きとなるものだ。

 女は待ち焦がれる。
 囚われの姫を救う王子様のごとく、滅び行く世界を救う救世主のごとく、魔王を倒す勇者のごとく。
 その、主役を。
 しかし、彼は、または彼女は一向に現れない。
 女はあまりの退屈さに思わず欠伸が出そうになる。

(いけない)

 そう、口元を押さえ、戦場を歩む。
 魔物の群れを抜けた運の良い兵士が彼女の首を狙う。
 宙に丸いモノが飛び、赤い噴水がしぶきを上げる。
 地面に中身の入った兜が転がり、体は崩れ落ちた。
 彼女の後ろに赤い花を咲かす人型の魔物。
 降り注ぐ液体を気にもせず、彼女は歩む。魔物を連れて。

 ふと、女は唐突に風の流れが変わったのを感じた。

(……来た!)

 随分と久しぶりに感じるその狂喜に身を震わせ、その招かれざる来訪者を歓迎する。





「アハハハハハハ! 弱い!弱イ!!弱イィ!! ンだァこの愚鈍な魔物共は! 束になっても相手にならないんだよ! もっと強いヤツ引っ張って来いよォ!!!!」

 ユミリアは敵陣に突っ込むと、容赦なく魔物を切りつけていった。
 そこに、戦略も、戦術も技術も存在しない。
 ただただ、森の木々を伐採するかのように敵を切りつけている。

「アぁ?」

 ユミリアは魔物の動きが変わった事に気付く。
 まるで道を作るかのように魔物の群れが左右に割れた。
 道の先に二人の、いや、二体の魔物。

「お見事ですわぁ。ワタクシ、すっかり目が覚めてしまいました」

 黒い喪服のようなドレスを着た女が恭しく礼をすると、ユミリアはそこで、はじめて寒気というモノを感じた。

「ワタクシ、ブリーキンダ・ベルが一塔主『ローザ・リフィル』と申します」

「リ、フィル?……リフィル、リーフィル……リフ……アぁ、ハハ……アア、そうか、そうか……アハハハハハハ!!!」

「うふふ、お会いできて嬉しいですわぁ」


「ブッ殺す!!!」

 ユミリアが剣を構えて突撃する。

「ああ、いい、イイですわぁ!おいで下さいまし!!ぜひに!是非とも!!!!」

 ローザは手品のように短剣を取り出し、構え、ユミリアに投擲する。
 首をふって短剣をよける。
 ローザに向かって一直線に肉薄する。

「!」

 側面から花の魔人の拳がユミリアを捉える。
 剣を捨て、手首から血を引っ張り出す。
 血液が一枚のシーツのように広がりユミリアを被うと拳を防いだ。

「へぇ、リンさんの拳をこうも容易く防ぎますの……」

「リン?アぁ、アンタがナナの姉って事でいイかァ?」

 その言葉にリンの動きが一瞬止まる。
 ユミリアはその動きを見逃さない。
 血の被膜を解き、リンを蹴飛ばすと、一気に距離をとる。
 着地先で、魔物を数体、再び出した剣で切り付ける。
 取り囲んでいた魔物は恐れおののき、一歩引いた。
 ユミリアに並々ならぬ『何か』を感じて。
 一歩引き、よろめき、動揺し、動きが乱れた魔物は敷き詰められた群集に広がる。
 それは池に小石を投げられたように波状に伝播した。


 体勢が崩れた。


 突如、ユミリアの後方を雷が横に流れた。
 アルフの槍による雷撃だ。
 砦までの道が開け、同時にアルフ達五人が走りぬける。

「後は任せたぞ」

「言われなくとも」

 そうして五人が駆け抜けた後、ユミリアは剣を肩にかけ、リンを観察する。

「これは、興が削がれるな。やりづらい……」

「うふふ、ワタクシ達は興が乗ってきましたわ」

「そうかよ」

 そう言って後方から遅い来る魔物を蹴飛ばして二人に突撃する。
 ローザは再び短剣を投げる。

「効くかよ!」

「どうかしら」

 先程と同じように首を振って避けようとするが、一瞬ぞわりと寒気がユミリアを襲った。
 地面を蹴飛ばし、強引に方向を変え、横に飛んだ。
 直後、凄まじい爆音と共に炎が吹き荒れ、爆風が辺りを飲み込む。
 体勢を崩したユミリアはもろにそのあおりを受け、魔物の群れに衝突した。

「さすが! さすがですわぁ! あんな状態で体勢を整える方はじめてみました」

 ユミリアは爆風に煽られながらも猫のように体を回転させ、衝突時には魔物を踏み台にして地震の衝撃を抑えていた。

「そりゃ、どうもっ!」

 リンの拳を前方に転がって避ける。
 空を切った拳はそのまま魔物の頭を砕き、吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた魔物はそのまま砲弾のごとく、後方数体の魔物を吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた魔物は悉く粉砕された。

「ヤっべぇ、全力で殺してぇ……」

 落ち着け、落ち着けと自己暗示を繰り返すユミリア。
 その間にも、周囲の魔物を着々と減らしていた。

「アレはナナの姉、ナナの姉……殺しちゃア、わァ……あァ、ダメ。ダメだよォ、ボク」

「ほら、ほらぁ、まだいきますわぁ!」

 次々に短剣を投げ飛ばすローザ。
 ユミリアは避け、弾いて、短剣と爆風とリンの攻撃を回避する。
 爆炎が重なり硝煙は厚みを増す。
 音と視界が塞がれた戦場で彼女らは戦い続ける。
 爆炎が止み、硝煙が晴れた時、気が付けば、彼女らの周りには誰一人として立っている者はいなかった。

「お前、馬鹿なのか?」

 ユミリアが魔物を倒した数よりも、ローザの爆炎に巻き込まれた魔物の方が圧倒的に多い。
 結果、ローザは自分から魔物を殆ど倒す事態になっていた。
 対して、ローザ自身は余りその事を気にしていなかった。

「別に構いませんわぁ、この魔物こんなもの、ただの現地調達ですもの、兵站を考えればこの辺りで消耗させた方が効率的ですわ」

「て事は撤退か?」

「ええ、目標は達成しましたもの。ここいらでおいとまさせていただきます」

「ボクがアンタらを逃がすとでも」

「逃げますわぁ、ええ、逃げられますわぁ」

 ローザが指を鳴らすと、それに応じたリンがはしりだし、ローザを抱えた。
 そのまま走り去ろうとする。

「逃がすかよ!」

 ユミリアが追いかけようとした時、上から爆炎の雨が降り注いた。

 上空を見ると巨大なワイバーンがその背に何体ものトカゲの魔物を乗せていた。
 どうやら、炎はそのトカゲから出ているようだ。

「ナイスですわぁ、フスさん。ギロゥさん」

『せ、わノやケル……』

『テメェは遊んでないでさっさと帰れ』

 魔物から声が聞こえる。
 一つは、風船から空気が抜けるような掠れた声。
 もう一つは怒声に近い野太い声だ。
 どちらも、魔物から出た声ではなく、魔法による遠隔通話によるものだ。
 よって、声の主はこの場にはいない。

「うふふ、了解ですわ」

 そう言ってリンに抱えられたまま戦場を去った。

「チッ」

 ユミリアは早々に追跡を諦め、天空の魔物を睨む。

「んじゃ、次の相手はアンタらって事で良いのかな?」

 その声に呼応するかのように、火の雨が再び降り注いた。

「んじゃア、憂さ晴らし、付き合って貰おうかア!!」

 ユミリアはそう叫ぶと、空中の魔物へと飛びかかった。



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