20小節のラブソング ~「1日10分!40歳からの速弾き奏法革命」末松一人 著~

YouTubeでもお馴染みの有名ギタリスト末松一人氏の書籍
「1日10分!40歳からの速弾き奏法革命」

 これは、ギターの教則本の体をした自己啓発本である。
 ビジネスシーンでも活かせるかもしれないマインドの構築術が、随所に散りばめられている。

こんなギター教則本を見たことがない!

 私が今まで見てきた・読んでみたこの類いの本は、総じてたくさんの譜例・フレーズ集が収められていた。
 見ただけでウンザリするような長いものから、「これいつ使えるんだろ?」というものまで。。。

しかし、この書籍に譜例は29しかない

長くて4小節の譜例、全部で43小節しか楽譜がない!
数ページをペラペラとめくりながら、思わず探してしまったが、
87ページまでページをめくらないと怪人「五線譜」は現れない。
書籍の約半分、第3章になってやっと奏法の解説になるのだ。

しかも、その初めて現れた怪人は、ワンフレーズ。
ドラ〇ンクエストで言うところの「スライム」
スーパー〇リオでいうところの「クリボー」
であるかのように、今後も何度となく現れるであろう必須のフレーズ
かつ、電車内でも運指の想像がつく程度のもの。
この「想像できる」は意外と重要で、脳内にインプットしやすい。
ということはアウトプットもそんなに困難ではないのだ。
ここに末松氏のマジックがあるのだと感じた。

ギターを構えて、本とにらめっこしながら・・・という今までとは違うスタンス。

譜例じゃないから、通勤・通学の電車の中でも読める!

そして、その少ない譜例の中でも、最大の肝は「CメジャースケールのTAB譜」だ。
譜例1から譜例5まで、末松氏の推奨する「Cメジャースケールを覚える」ための5ポジションを覚えることに特化した楽譜になっている。
各4小節で合計20小節からなる楽譜。
末松氏が自身のYouTube動画、自身が学校の講師に就いていた頃から提唱している、「Cメジャースケールを覚える」これが譜例では一番大事な役割を担っているように思う。

まるで末松氏から読者への「20小節のラブソング」

かのように
【本質・根本を知れば、すべての状況に対応できる】という知識の身に着け方の原理原則ともいうべき部分は、このCメジャースケールが担っていると言っても過言ではないであろう。

 この第3章の手前、第1章、第2章がめちゃくちゃ大事なことのオンパレードだった。
 普通の初心者向けの教則本でよくあるのは、ギターの構造・部品の名称・周辺機器の説明・メンテナンス方法・道具類・姿勢・構え方と続くのだろうが、この本は題名にあるよう「40歳あたり」の、実際には一度挫折した・しかけた人をターゲットにしていると思われ、そんな部品の名前などの解説はない。
 それはページを無駄にしていない感じで、好印象。
 その代わり、第1章、第2章は内容が濃いのだ。ここが肝ではないかとさえ感じる。
 刑事コロンボや古畑任三郎のように、先に犯人がわかっていて、それを少しずつ紐解くような展開なので、読んでいて面白い。
 また、章の中の一節一節をコラムのように読めるので、新聞の社説のように読み切れるのも心地いい。
 一節一節が短い読み切りになっているので、目次で気になった部分だけを拾い読みすることもできるのが有難い。学生の頃の「参考書」のようでもあるし、法律系のやさしく解説している手続きの実務本のようでもあり、まさに40歳前後の社会人が読むのに抵抗のない体裁になっているのが、内容の受け入れやすさに一役買っている感がある。

 と、ここまで絶賛しているが、別に忖度しているわけでもなく、忖度は、私のポリシーにも反するので、不満な点も述べてみたい。
 初心者向けになっているものの、すっかり上級者が読んでも参考になる部分がある。
 それは、読み手によって感じ取る部分が違うからなのであって、どのレベルの人が読んでも参考になる情報が多いということなのだが、それ故、「で、結局どうなんだろ?」という疑問符が残る記載もあったりする。ちゃんと読み解けば理解できるのだが、気楽に流し読みで読むものではないと思えた。読みやすい体裁だが、内容が濃いので活字慣れしていない人は苦労するかもしれない。

さて、冒頭で、「ビジネスシーンでも活かせる」と書いた。
・慣れない仕事を覚えるには、どうすればよいか
・効率よく仕事をこなすには、どうするべきか
・まわりとのコミュニティはどうすればよいか
この辺の構造を、随所で認識させてくれる記事がある。中身だけじゃなく、それぞれ項目にある「まとめ」だけ読んだだけでも「お!!」と思う部分があるはずだ。そこを入り口にして興味をもって読んでみても面白いかもしれない。

 肝になる内容は、ここでバラしたくないので(笑)
是非とも、手に取って読んでみてほしい。
初心者には、「眼から鱗」な真実が。
玄人には「これ、バラしちゃってよかったんですか?」的なプロギタリストがよく語る内容の真実が。

プロ中のプロギタリストが語る赤裸々な奏法の暴露本となっていると思うことができるであろうから。