怪奇現象

暖かくなってきてホラー系のコンテンツが盛り上がっているので、実体験を(というか身の回りに起きた一連の現象について)書こうと思う。

高校生の頃、私にはSという友人がいて、時折互いの家に遊びに行く程の仲だった。ある日彼はいつものように私の家でゲームをして、夜になったため自分の家に帰っていった。

その後夕飯を食べていると、母親から今日来てた子は誰かと訊ねられた。「Sだよ」と答えると、「それは知ってるけど、もう一人女の子がいたでしょう」と返ってきた。部屋には私達しかいなかったし、二人とも声が低いので聞き間違えることもないだろう。しかし近所の誰かの声と勘違いでもしたのかな、とその時は特に気にすることもなく、風呂に入るために階段を下りて犬を撫でていると、階下に住む伯母に「今日来てた子誰?」と質問された。

聞き返すと母親と同じく、「二人の声に混じってずっと女の子の笑い声が聞こえていた」とのことだった。「玄関を見ても靴がないので不思議に思っていた」と。これが一度なら変な話で済むのだが、それ以降、Sを家に呼ぶ度に同じことが起きるのである。更に気味の悪いのは、この「女の子の声」はどうやら女性にしか聞こえないらしいのだ。スピった占い師である伯母はともかくとして、霊感などとは無縁の人生を送っている母親でさえ毎回その声を聞いている。対して、霊感があるらしい父親には一切聞こえないというのである。自称霊感持ちであれば聞こえておらずとも話に乗ってきそうなものなので、そういった意味でも信憑性が高い。

極めつけは、ある日の深夜、Sと近所の公園で駄弁っていて、私が充電器か何かを取りに一旦家に戻ったときの話である。その間Sを門の前で待たせていたのだが、次の日の朝、伯母に「アンタあんな時間に誰を連れ歩いてるの」と謂れもなく怒られてしまった。どういう訳か訊くと、ちょうど私がSを待たせていた午前2時頃に、家の前でケラケラと笑う女の子の声で目が覚めてしまったというのだ。無論Sは静かに待っていたし、伯母は私がその日Sと会っていたことなど知る由もない。

特にオチはないが、以上が私の身近に起きた怪奇現象である。残念ながら私は何も感じることができなかったが、複数人が同時に観測している点、同条件における再現性が高い点からも、一連の現象が事実である蓋然性は高いように思う。私はあまり幽霊というものを信じていなかったし、この「女の子の声」が我々の想像する幽霊によるものなのかは定かではないが、少なくとも「普通の人には感じられない何か」が存在することは、もはや確信せざるを得ない。

実のところ我が家ではしょっちゅう怪奇現象が起きていたらしく、誰もいない私の部屋で私の声がしたとか、座敷童子が出たとか、寝ていたら女に首を絞められたとか、幼少期から色々と聞かされて育ったが、いずれも父親か伯母が一人でいるときに観測しただけの話であり、幻覚である可能性は否めない。信憑性の高い怪奇現象といえば、食器棚に置いてある箸置きがガタガタと揺れたのを家族三人で見たことと、父親の鬱が酷いときはどういうわけか決まってテレビがおかしくなることくらいのものである。

あとは私のよく行く新宿のバー(「出る」らしく、やはりそこでも複数人が同時に観測しているため信憑性が高い)に霊感のある友人を連れていったところ、何も言っていないのに突然辺りを見回して、「今なんかいたな〜」と呟いていて怖かったということがある。いずれにせよ現実に起こる怪奇現象などは、我々の期待に反して至って地味なものらしい。

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