試合

先月末の話ではあるが、菊野克紀先生の主催する敬天愛人練武大会に出場したのでその反省を記そうと思う。 私は今回2試合出場した。他人と殴り合ったことは何度かあるが、試合というものに出るのは初めての経験であった。

1試合目は立ち技・投げ技・寝技・押し出しに加えて目(上段)と金的への寸止め(防具越しのライトコンタクト)が有効となる3ポイント先取のルールである。対戦相手は173cm65kgのキックボクサーで、私は153cm52kgなのでかなり体格差のあるマッチメイクとなった。

彼はアマチュアの試合での実績があり、更に昨年の敬天愛人では対戦相手をスーパーセーフ(空道などで用いるヘルメットのような防具)越しに右のハイキックでフラッシュダウンさせていたため、かなり警戒して挑んだ。試合内容だが、まずは間合いを測る為にお互い前手で牽制(私は右利きのサウスポー、相手はオーソドックスの構えである)、相手の左ジャブがきたので右手で払うも2、3発目のストレートを被弾し1ポイントを取られた。この際の反省点を列挙しよう。
①右手で払いながら頭を振って避けたがこれは余計だった(振った頭にアジャストされて被弾したので、攻撃を手で払うのであれば頭はなるべく動かさず、追撃が来た際に初めて動かすべきであった) 
②金的を警戒して右脚を上げてしまったために動きにくくなった(相手と逆構えの場合は距離が取れるので金的は脚で防ぐよりも手で払った方がいいかもしれない)
③右手で払うと同時に左でカウンターを入れるべきであった(練習していたはずだが正中線を晒すことを恐れて逆突きを出すことに心理的負担があった)

一旦距離を取って仕切り直そうとしていると、即座に右のハイキックが飛んできたためダッキングで間一髪躱し(後で動画を見返したところこの際会場が沸いていて嬉しかった)、同時に金的を狙うが距離が足りず失敗。一瞬相手が体勢を崩したため両手で相手の拳を封じながら懐に入るが、私のブロックを避けて右フックを続けて打たれ、避けるのに必死で何もさせてもらえなかった。この際の反省点は、
④カウンターに思い切りが足りなかった
ということだ。明らかな隙をものにできなかったのが悔やまれる。

今度は大きく距離を取り様子を見る。右脚のフェイントに怯えながらも、このままでは防戦一方になるので意を決して右の上段フェイントからの下段、更に左の下段で金的を狙う。この際触れはしたと思うがポイントにならず残念だった。またあまりにもリーチ差が大きいため、こちらから攻めたにも関わらず相手の拳が先に届くという恐ろしい事態が起きたが、これほど小さい相手には慣れていないのだろう、上手く躱しながら攻めることができた。

距離を取ると再び右のハイキックを狙われたためダッキングで回避(また会場が沸いた!)、同時に金的を狙うが距離が足りず失敗、一瞬相手が体勢を崩したため懐に……と先程と全く同じ展開になるが、今度は見事にアジャストされワンツーを被弾し2ポイント目を取られた。しかし同時に金的狙いのストレートが有効と認められ、こちらも辛うじて1ポイント獲得となった。

リーチをかけられたため及び腰になり、コーナーに追い詰められる。再び両手で相手の拳をブロックするも、左右左とフックを打たれたため屈んで避けながら金的を狙う。今度は距離こそ良かったが肝心の狙いが外れてしまい、離れて仕切り直そうとした隙を狙われ右ハイキックを被弾。3ポイント目を取られて敗戦となった。ちなみにこのハイキックで脳が揺れ1時間ほど気分が悪かった。

2試合目の相手は169cm62kgのシラット使いで、長髪の女装家で鬱病の元プロ漫画家というよくわからない経歴の持ち主である。1試合目程ではないがやはり大きな体格差があった。シラットというのは東南アジアの武術だが、その流派はあまりにも多く(500以上あるとされている)、また実戦的な技術体系であるため言ってしまえばこれといった特徴がない。彼の昨年の試合を見たが、早い段階で寝技にもつれ込むも1分間という試合時間では双方決定的な技を出すことができなかったようで、正直言って何の参考にもならなかった。そのため最早対策を講じることを放棄していたのだが、1試合目の直前に彼の試合を見て(彼も2試合出場していた)昨年よりも格段に動きが良くなっており戦慄したのを覚えている。

今度は立ち技・投げ技・寝技有りのフルコンタクトルールで、基本的にKOか一本か判定での決着だが、明確なダメージが見て取られた場合と押し出しにポイントが入り、2ポイント先取である。

今度も私がサウスポー、相手がオーソドックスの逆構えであった。間合いに入ると同時にお互い右の上段突きを3発放つもヒットなし。懐に入ったため上下に打ち分けるがバックステップで躱され、追いかけたところに右の膝蹴りがきたので下がりながら右のオーバーハンドでカウンターを当てた。それなりに手応えはあったが怯まずに右の膝を追撃してきたので、躱しながら更に右のオーバーハンドを狙うも空振り。しかしここで偶然練習していた投げ(ガーナの空手チャンピオンが元極道とのスパーリングで披露していた、相手と逆構えになり前脚を相手の背後に、前腕を相手の胸に当てて引き倒す技。私は練習試合でもこれを成功させた)の形になったためすかさず引き倒した。しかし倒した際に距離ができてしまいすぐさま立ち上がられ、押し出しを狙うも持ちこたえられてしまった。今回の反省は、
⑤倒す際にそのまま密着し寝技かマウントに持ち込むべきだった
という点である。

引き込まれたら危険なので一旦距離を取りながら右の追い突きで牽制するも、距離が足りず失敗。右の蹴りを貰うが上手く衝撃を逃がせてダメージにはならず、カウンターで右のオーバーハンドを狙うもいい加減に見切られてしまった。
⑥上下左右に打ち分けるべきだった
先程の試合で引き際にやられた反省を活かしとにかく前に出るも、リーチ差の前に一方的な右フックを被弾。体勢を崩したところでアッパー気味の右がきたためブロックするも間に合わず、額の骨から右の眼窩にかけて被弾してしまった。(強い骨で受けたので脳へのダメージはなかったが、これにより右目がしばらくチカチカしていた。また相手選手はこの際拳を骨折していたらしい)

追撃がきたのでクリンチで避けながらまたもや右のオーバーハンドを狙うも見切られる。見返すと本当に右のオーバーハンド一辺倒になっており悲惨だが、打ち分ける余裕が無かったのだと思う。一旦離れた際に相手が右腕を振るのが見えたので、上段を警戒しガードを固めるも、意識外からの右の膝蹴りが脇腹にモロに入り死ぬほど効いてしまった。苦し紛れに右のオーバーハンド(また?)を振るも再度膝を被弾。内臓をやられ戦意を喪失するがここで引いたらボロクソにされると思い、左脇腹のガードを固め突っ込むもガードの上から殴られる。ここで先程の膝が明確なダメージと見なされ相手に1ポイントが入り、一旦ストップがかかる。

仕切り直して試合続行。既にかなり嫌になっており様子見のジャブに過剰にビビってしまう。左脇腹のガードを固めたため元々右のオーバーハンド一辺倒だったところを本当に右ばかり打つようになる。打ち合いが嫌になり押し出しを狙うもまた膝がきたため、怯んで下がったところこれが偶然崩しになり相手が倒れる。起き上がられたところを更に押し出そうとするが勢いを逃がされ失敗。ここでごちゃつくがお互い被弾なし。

一旦離れて様子見をしているとレフェリーから「頭を下げすぎたら(戦意喪失と見なし)減点を取る」と警告を受ける。この身長差で顎を引いたら嫌でもそういう姿勢になるだろ!?と苛立ちを覚えて(後で映像を見返したら明らかに及び腰だったので妥当な判断でした)ヤケになり、考えなしにガンガン詰めながら左右のフックで上段を狙うが全て躱された挙句右を被弾。体勢を崩したところに右の蹴りが来るが左腕でブロックに成功。とはいえ体重差があるので飛ばされてしまい、詰めてきたところに渾身の右カウンターを放つが紙一重で躱される。ヤケクソで懐に入るがまた右の膝蹴りがきたため躱しながら後退するも、今度は逃げられないように背中を抑えられ右膝を被弾。怯んだところにさらに追撃を受け、ポイントを取られて敗戦となった。

2試合に共通する反省点として、
⑦緊張感を高めすぎた
というものが挙げられる。私は呼吸法とLSDによって緊張とリラックスを意識的に切り替えることが可能になっているのだが、日常生活ならいざ知らず試合においてはある程度の緊張感を保っていた方がいいだろうと踏んでそのようにしていた。しかしそのために過剰にビビってしまい、何度かあった好機を逃してしまったように思う。緊張とリラックスは一長一短であり、緊張すれば反応速度が上がるが視野が狭くなり動きが単調になる。リラックスすれば視野が広くなり自由に動けるが反応速度が落ちる。恐らく緊張とリラックスは切り替えるものではなく、同居させるもの、即ち最低限の緊張を保ちながらリラックスをする、というのが理想的な形なのだろう。イメージの話になるが、私はハンターハンターの"円"のように「他人に侵入されたら嫌なエリア」を広く取れば緊張、狭く取ればリラックス、という認識でそれらを切り替えていた(円の大きさを変えていた)のだが、広い円とか狭い円ではなく、常に自由に形を変えるものとしてイメージする方が適しているのだと思う。そして戦闘においては、食らったら駄目な部分(正中線)のみを緊張させ、残りの手足は極力リラックスさせるべきなのだろう。

生まれて初めて試合というものに挑戦し、残念ながら2試合とも負けてしまったが、非常に良い経験となった。また少なくとも見ていて面白い試合にはなったと自負している。マススパーに関しては道場や稽古会でよくやるが、やはり本気で殴り合う緊張感は格別である。単に暴力的な意味の強さだけでなく、日常生活における精神的な強さという意味でも大きな成長を遂げたように思う。空手を始めて本当に良かった。元々武術には興味があったが、和道流の元師範代でありながら鬱病で無職で癇癪持ちのアル中というろくでもない人間を見て育った結果、長いこと空手に対する嫌悪感を払拭できずにいた。中学の頃やっていた合気道も、素晴らしいものだとは思いつつも「父親にやれと言われて始めた」という理由から身が入らなかった。そんな私を「空手が強いこと自体は刃物がよく切れる状態と変わりません。使い方次第で人を幸せにすることも不幸にすることも出来ます。待ってますよ」と誘ってくださった菊野先生には、感謝してもしきれない思いである。

最後に今回の試合での反省点をまとめてみよう。

①相手の攻撃を手で捌く際は極力正中線を動かさない
②距離がある場合金的狙いの蹴りは脚よりも手で防いだ方がいい
③相手の攻撃を捌いたらすかさずカウンターを入れる
④カウンターは思い切る
⑤投げる際は相手から離れない
⑥上下左右に打ち分ける
⑦最低限の緊張を残しつつリラックスする

たった2試合でこれだけの改善点が見つかるのだから実戦の経験が如何に重要であるかがわかる。はやく最強になりたい。



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