「小指に付けた金色のリングを湯船に沈めて思い出すこと」

きっと、小さくて大切な思い出をわたしは人よりたくさんもっている。


中学生の時一人ぼっちだったわたしによく話しかけてくれた用務員のおじいさん。君は人の小さな一面にもよく気付く、きっと人よりも小さな星が見えるんだねって言ってくれたこと。今はどうしてるかもうわからない。まだ生きてるかってことでさえ。

三者面談のときに担任にこの子はきっとなんだかんだ幸せになりますよって言われたこと。

あなたは野良猫みたいですね、ずっと家を探してるんです。ここじゃあないな、ってしょんぼりしてまた飼い主を探すんですって職員室でわたしに言ってヒンシュクをかった高校の先生は元気かな。わたしはこの言葉が好きだった。

高校三年生の冬の帰り道、当時付き合っていた人とジャイナ教について話したこと。ジャイナ教の人って種を食べれないんだって、じゃあジャイナ教徒に飼われてるハムスターってどうなっちゃうんだろう。こんな話でバカみたいに笑ってた。彼はわたしよりも遥かに頭が良かった。器用だけど不器用な彼を自分勝手なわたしは傷付けた。

俺はお前のそういう退屈しないところが好きと言ってくれた人。お互い昔みたいにばかではなくなってしまった。もう今何をしているか知らない。変わってしまった彼を見るくらいならもう連絡を取らなくてもいい。

パイタン鍋のことを「さゆ鍋」と読んでしまったわたしを可愛いと思ってくれたこと。考え込んで目を細めるあなたを見るたびに、大切にしようと思う。

だから、俺は他の子よりも君のことが一番、と言いかけて口をつぐんで いや、なんでもないですと言った人。わたしも一番好きだけど、上手くはいかない、全部。あなたのためにわたしの大切なものを投げ出すことはできない、そしてこれはあなたもきっと、同じ。

さよならも言わずにみんなわたしの手のひらから落ちていく。指先の隙間をすり抜けて。小指にやっと合うリングを見つけた。ゴールドの1号。わたしの指を小さいね、と言ってくれた人たちはもういない。

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埋葬

何度も読み返したい素敵な文章の数々vol.10

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