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煮干しと偏愛と、好きと才能と。

昨日、知人に誘われてごはん会に行った。場所は代官山で、豚汁好きな女子と料理好きな男子が、共に手を取り合い、友人たちと楽しもうという朗らかな会だ。

場所は恵比寿と代官山の中間。オシャレな看板が8個ぐらい集合した看板群が目印だ。そこから路地を入り、小さな階段を登った場所に、そのレンタルスペースはあった。

中はバーのようになっていて、カウンターの奥では、その二人が働いている。手前にはスタンディングのテーブルがふたつ。カウンターに面した椅子が4つほど。窓に面したカウンターがあり、そこにも3席ほどあったか。その全部に人がいて、密集度はかなり高い。

僕は一人で行ったのだが、友人がいた。友人の和田くんは爽やかイケメンで、今日の主催の女性の家で一緒にごはんを食べた仲だ。本当は待ち合わせをしていこうと思ったのだが、前の予定で、何時に来るかわからない友人がいたので、それを考えると、先に入ってもらうのが得策だと思った。

事実、前の予定では、ある友人が3時間遅刻(もはや遅刻でもないが)してきたため、予定よりも30分後ろ倒しで、豚汁の会に到着することとなる。事前の予測が冴えていたし、もし、和田くんに「一緒に入ろう」なんて言っていたものなら、和田くんの時間を無駄に奪うことになっていた。

皆一様に、豚汁と新米を楽しんでいる。焼き野菜やナスのピクルス。いくらの醤油漬けと塩麹漬け、魚も数種類出てきたし、なめろうも出てきた。お酒は缶ビールもあったし、日本酒は黒龍やその他諸々。到着した時にはスタートから1時間以上経っていたから、満腹で満足そうな顔をしている人もたくさんいた。

到着した僕は、その左奥のカウンターに和田くんを見つけた。そして、その横には女性がいて、紹介をしてもらった。スクエアのメガネが知的な印象を与え、背筋がピンと、凛とした雰囲気。白のワイシャツと赤いスカートは、どこか女教師を思わせるインテリさを醸し出す。

船山「どうもはじめまして、そーたです。いや船山です」

女性「はじめまして〜」

和田くん「彼女は魚の絵を描いてるんですよ」

船山「はー、そうですか〜。……えっ。魚の絵を描いてるんですか」

とりあえず、何か飲みたいと、不思議な自己紹介を一度、ごめんなさいと遮り、カウンターに置いてあった缶ビールに手を伸ばす。はい、乾杯。

船山「え、それはお仕事で、ですか?」

女性「いえ、趣味といえば趣味でして、見てください、これ」

といってインスタを差し出されると、そこにはカラフルな魚たちがいっぱいいて、彼女はそれを見せながら、嬉々とし、笑っている。

やばい、何から聞いたらいいかわからないほどの個性! うっ、とりあえず豚汁を食べないと!

船山「(主催者の)あゆみさん、ご無沙汰です。豚汁食べたいです〜」

豚汁が手元に来る。うん、おいしいし、豚のブロックがいい感じ。

女性「船山さん、煮干し好きですか?」

船山「あ、え、まあ、好きでも嫌いでも……」

女性「私、煮干しが大好きで、それで魚の絵を描くようになったんです」

と言って一枚の絵を見せてくれた。スマホの小さな画面だからわらなかったが、キャンパス一面に煮干しらしきものが書かれていて、彼女曰く、「この中で、9匹だけ生きている」のだとか。

わかるかい!

そんな調子で、とにかく煮干し愛を語られたわけだが、何しろ面白い。「煮干しってグレーだと思ってますよね、実は綺麗な煮干しはお腹が虹色なんです」と、小学生のような純粋な目で語られたり、煮干しが自分の人生にいかに影響を与えたのかを語ってくる。

いや、普通に考えればとても変な人(褒め言葉)なのだが、嫉妬するほどにこの人は素敵だと思った。だって、こんなにピュアに好きなものを語れるんだから。聞いてるうちに煮干しが食べたくなったのは言うまでもなく、彼女に私が持ってる煮干し情報やエピソードを捧げた。それはそれは楽しそうに聞いてくれたものだ。

最近つくづく、好きになれるって、才能だなと思う。そして、今、人を動かすものって愛とか好きが根底にないと成り立たないんだなと考えた。

情報も何もかもコモディティ化の最果てまできたから、あとは愛とか好きとか、根源の感情だけが人を動かす力になる。

はて、自分の好きなものってなんだろう。自分に問いかけてみる。








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