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ないものはないからこそ

わたしは少し前に、島根県の隠岐諸島のひとつの島、海士町(あまちょう)というまちに1週間ほど滞在していた。本土からフェリーで3時間、東京からは移動に半日かかる離島だ。

海士町に行って、というか、東京に帰ってきて一番感じたことは、いろんなものがないからこその、生活だった。

海士町から帰って最初の休みの日、特に予定がなかったので、なにがしたいかなぁと思ったときに、頭に浮かんだのが「釣り」だった。

島にいる間に2回、島のひとに釣りに連れて行ってもらった。人生でほぼ初めての釣りだった。1回目は夕方行ってアジが何匹も連れて楽しくて、2回目は夜中に夜釣りに行って1匹しか釣れなかったけど、どうぶつの森でしかやったことのなかったサビキ釣りができたのでかなり興奮した。

そして、SUP(サップ)(スタンドアップパドル)も、ずっとやってみたいとはおもっていたけれど、島でやったのが初めてだった。ちょうど日の出のタイミングだったので、景色もよくてすごく気持ち良かった。

でも、どちらもやろうと思えば関東でもいつでもできる。神奈川や千葉に行けば釣りだってできるし、サップも今はできるところは多い。

「ないものはないからこそ、あるものに目がいくんだな」
ということに、東京に戻ってから気づいた。

東京にいると、どこでも釣りなんてできる・いつでも行けると思ってわざわざ行かないし、休みの日にやれることがありすぎて逆に何をしていいかわからないから一日中家でYouTubeを見てしまう。

けれど、島での休日はきっと、釣りかサップか草刈り、くらいの選択肢だからこそ、そのどれかをやってみることができる。

東京だと、カフェがありすぎて選択するのに体力を使うから、いつもスタバに入ってしまうし、居酒屋を選ぶのが大変だから鳥貴族に行ってしまう。

でも、海士だったら選択肢が少ないからこそ、今日はあそこの飲み屋に行こう、とポジティブに選べる。住むとまた違うのだろうけど、わたしはそのないものはないからこその楽しさを感じた。

しかも、これは多くの田舎に言えることなのかもしれないけれど、離島だと特にそうだということに気づいた。

コンビニを例に出すと分かりやすいので少し話すと、海士町にはコンビニがないということを事前に聞いてはいたし、頭ではわかっていたけれど、「離島でコンビニがない」というのがどういうことなのかがわかっていなかった。

結構な田舎でも、車で10分くらい走れば24時間やっているコンビニがあるし、そうでなくても20時くらいまでやってるスーパーがあったりする。わたしの実家がある新潟でもそうだ。

けれど、海士の場合、本当にコンビニに行こうとしたらフェリーで3時間かかるし(そのフェリーは1日に2本しかないし)、商店は17時には閉まってしまうから、東京で一人暮らしをしている感覚で夜までのんびり何も買わずに過ごしていると夜になって食べるものがない…!となってしまう。(わたしも島でなりかけた。)

本土で、過疎の村にコンビニがないというのとはワケが違って、単純な田舎暮らし、ともまた違う生活リズムというか、生活のなかで気にするところが全然違うのがおもしろかった。

つまり、本土だと車で少し走ればデパートがあるようなところだと、スタバができたからと言ってスタバに行くように、都市の人と生活のなかの選択がそんなに変わらないのだと思う。

いろんなものが、少し離れているけれど「ある」のだ。

ないものはない、とは?

わたしが使っている「ないものはない」とはどういう意味なのか。

海士町とは、「島まるごと持続可能」をコンセプトに掲げる島。人口2300人の町ながら、10年間で約600人のひとが移住しており、子どもの数も増えている、という少子化で地方に人が来ないと嘆く日本ではとても特殊な町で、「まちづくり」「地域活性」の分野では知らない人はいない。

そんな海士町が大事にしているのが「ないものはない」という言葉だ。「ないものはない」と聞いてどういう意味を想像するだろうか?

1.なにもない(ないんだから我慢しなさい的な意味)
2.ないものなんてない、大事なことはすべてここにある

多くの人が1の意味を想像すると思うけれど、海士町で大事にしているのは2の意味。

離島である海士町は都会のように便利ではないし、物も豊富ではないけれど、自然や郷土の恵み、暮らすために必要なものは充分あり、今あるものの良さを活かそう。そして、

地域の人どうしの繋がりを大切に、無駄なものを求めず、シンプルでも満ち足りた暮らしを営むことが真の幸せではないか、という心意気だ。そんな風に、海士町を象徴する言葉・島らしい生き方を表現する言葉として、「ないものはない」という言葉が町のいたるところに見受けられるのだ。

海士町に行くまでは、海士町の魅力やすごさを語るひとに多く出逢っていたために、なにかパッと見てわかるような特徴があると思っていたけれど、一定期間過ごしてみてわかることや、東京に戻ってから気づく離島の特徴を、じわじわと感じた旅だった。

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