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《スペイン情報》 ロモ・コン・コル

ショパンと世界遺産と地元の名物を全て使って作る郷土料理 

文・撮影/市川路美 

マヨルカ島の魅力 

スペイン沖の地中海に浮かぶマヨルカ島は、世界を代表するスーパーリゾート地。閑散としていたシーズンオフが終わり、賑やかなバカンスシーズンが始まりました。この島には世界中から観光客が押し寄せるのですが、多くの人は太陽と海にしか興味を示しません。しかしマヨルカ島の本当の魅力は、海岸沿いではなく山脈地帯にあります。トラムンタナ山脈地帯には、キリスト教文化とイスラム教文化の両方の知恵を駆使して、斜面を切り開き石を積み上げ棚田を作り、用水路を巡らせた伝統的な農耕システムをもつ美しい村々が点在しています。美しい自然はもちろん、ドライストーンと呼ばれる独特の建築方式を使用して、人間と自然の間にバランスのとれた関係性を築いた文化的重要性が評価され、ユネスコ世界遺産にも登録されています。

山岳地帯
バルデモサ

トラムンタナ山脈の最高峰はプッジ・マジョーの1445メートル。それほど高くはない山脈地帯ですが、マヨルカ島北部から西海岸に平行して南部まで90キロメートルに渡って山々が続きます。紀元前から人が住んではいましたが、険しい斜面が多く岩だらけ。そして夏になるとほとんど雨が降らないことから農耕には全く適していない土地です。

そんな厳しい環境条件をものともせず、数千年前からこの土地の人達は、コツコツと農地を広げていきました。石だらけの土地から石を取り除き、その石を使って石垣、棚田、灌漑システム、道路などを構築しました。

独特の建築様式

こうして遠方から建築資材を運ぶことなく、そこにあるものだけで全てを作り上げたのです。土地、水、そして建材、全てが不足していた土地を、人間の知恵と努力をフルに活用して農業と生活に適した土地に作り変えてしまったのです。

ドライストーン

石の壁で地滑りを抑え、溜まった水は石と石の間を通して排水させる。水を貯め、運び、土壌侵食を防ぎながら排水させる、そんな農業に必要な全てのシステムを、漆喰などを全く使用せず、積み上げた石の力だけを使って築き上げていったのです。

黄色の石で作られた街並み

山の麓から頂上まで延々と続く石垣で作られた棚田には、オリーブをはじめオレンジ、アーモンドの木などが植えられました。そんなかつての村人たちのたぐいまれな努力が実を結び、現在トラムンタナ山脈地方一帯は、素晴らしいクオリティを誇るオリーブオイルの産地として有名です。

トラムンタナ山脈には、マヨルカ島で最も美しい村とされるバルデモサがあります。この村に住んでいたのが、日本人にも大変人気のある音楽家フレデリック・ショパン。この地で、有名な「雨だれのプレリュード」をはじめ、「バラード第2番」、「2つのポロネーズ」、「スケルツォ第3番」を生み出しました。

ショパンは恋人の女流作家ジョルジュ・サンドと共に、パリからマヨルカ島にやってきました。おそらく村の人達からは全く受け入れられていなかったと思います。マヨルカ島の人々は閉鎖的な人が多く、 ショパンの恋人はズボンを履き葉巻を吸って乗馬や狩りなどに興じていた珍しいタイプの女性。更にショパンは、当時のスペインで不治の病と恐れられていた結核の持ち主でした。最終的に二人は追い出されるような形でマヨルカ島を後にします。

「雨だれ」は甘く優しい旋律と感じる人が多いのですが、マヨルカ島での背景を知ると、全く違った曲のように聞こえるのではないでしょうか。

地方に伝わる郷土料理

バルデモサの名物はコカ・デ・パタタ。生地にジャガイモを練りこんだパンなのですが、フワフワしていて中には何も入っていません。バルデモサの人達はこのパンに粉砂糖を振りかけて、朝食やおやつ時によく食べています。

コカ・デ・パタタ

そして忘れてはならないのがロモ・コン・コル。島の名物を全てつぎ込んで作る郷土料理です。

ロモ・コン・コル

今回はマヨルカ島のレストランで美味しい郷土料理を提供しているダビ・マスカロ(David mascaro)さんに、ロモ・コン・コルを作ってもらいました。

ダビ・マスカロさん

●ロモ・コン・コルの材料
豚ロース 500g
キャベツの葉 400g
玉ねぎ 1個
ニンジン 1本
トマト 1個
ニンニク 2片
2種類のソーセージ 150gずつ
松の実 15g
レーズン 50g
水 適量
豚のラード 適量
塩 少々

①土鍋を熱し豚のラードを入れます。

②軽く塩コショウした豚ロースを土鍋に入れ、肉の表面が少し色付くまで炒めます。後で軽く煮込むので、肉汁の美味しさが外に流れ出ないように蓋をするのです。

豚ロースを炒める

③肉を取り出した土鍋に再びラードを入れ、今度はみじん切りにした玉ねぎを炒めます。本来は土鍋で調理するのが正式で一番美味しい作り方なのですが、今回は土鍋に穴が開いているのが発覚。急遽普通の鍋で作ることになりました。

玉ねぎを炒める

④玉ねぎがキャラメル色になったら松の実とみじん切りにしたニンジンを加えて更に炒めます。マヨルカ島の郷土料理には、松の木の種子が入るものが多いです。ナッツのように固くはなく、しっとり柔らかい食感が特徴的です。食感、そして風味にもかなり癖があるのですが、煮込みや炒め物に加えると良いアクセントになります。
現在、松の実は価格が高騰しているので他のもので代用したいところなのですが、なかなか同じ風味を持つものが見つからないのだそう。

松の実

⑤マヨルカ島名物の2種類の豚肉ソーセージを一口サイズにカットします。赤い方のソーセージは唐辛子入りなのでピリ辛、黒っぽい方のソーセージには豚の血が少し入っています。

2種類のソーセージ

⑥キャベツの葉を一枚ずつはがしてよく洗います。塩を少し入れたお湯にキャベツの葉を入れて暫く放置し、少し柔らかくなったら取り出します。よく水を切ってからお皿に置いて冷ましておきます。

キャベツを柔らかくする

⑦キャベツの葉が冷えたら台の上に置き、芯の部分を切り取ります。切り取った芯の部分を重ね合わせ、その上に豚肉をのせます。さらに2種類のソーセージとレーズンをのせてキャベツで包みます。

キャベツの芯を取る
具をキャベツで包む

⑧先ほど炒めた野菜に擦り下ろしたトマトを加え、かき混ぜながら弱火でじっくりと炒めます。このじっくりがポイントなので、トマトの汁気がなくなるまで、焦げないように時折かき混ぜながら頑張って炒めましょう。

トマトを加える

⑨完全にトマトの汁気がなくなったら水を加えます。かき混ぜながら少し煮立てます。

水を加える
煮立てる

⑩先ほど作っておいたキャベツで包んだ豚ロースをスープの中に入れていきます。蓋をして15分ほど煮たら出来上がりです。

ロールキャベツを投入

ロモ・コン・コルは素朴で優しい味のする郷土料理でした。

マヨルカ流ロールキャベツ

マヨルカ島を訪れたら、ショパンの「雨だれ」を聞きながら、是非山脈地方まで足をのばして美味しい郷土料理を堪能して下さい。


(2023年6月30日発行「素材のちから」第49号掲載記事)

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