見出し画像

《スペイン情報》 ブルバリェス

外国人観光客にはウケが悪いけれど、地元の人たちは愛してやまないマヨルカ島の伝統料理 

文・撮影/市川路美 

世界的に有名なスーパーリゾート地 

スペインのバルセロナから飛行機で45分の距離にあるマヨルカ島は、地中海に浮かぶバレアレス諸島最大の島。年間300日以上が晴天という恵まれた気候をもち、透明度抜群のエメラルドグリーンに輝く海に囲まれているだけでなく、美しい山脈地帯もあることから「地中海の楽園」と呼ばれています。ヨーロッパの人たちにとって憧れのバカンス先で、特にドイツ人から絶大な人気を誇る場所。毎年夏のバカンスシーズンともなれば圧倒的大多数のドイツ人観光客が押し寄せるので「ドイツの植民地」とまで称されるほどです。

インスタグラムで人気のビーチ
マヨルカ島独特の海の色

しかし、マヨルカ島を訪れるのはドイツ人だけではありません。この島は、世界中のセレブたちを虜にしてきました。レオナルド・ディカプリオをはじめとしたハリウッドの俳優たち、クリスティアーノ・ロナウドを筆頭としたサッカー選手たち、更にはクラウディア・シファーやマイケル・ダグラス夫妻などのように、マヨルカ島が好きすぎて別荘を購入してしまったセレブたちも数多くいます。スペイン王室の別荘、マリベン宮殿もあるので、ロイヤルファミリーも頻繁に訪れるヨーロッパで一番、世界でも有数のスーパーリゾート地なのです。

マヨルカ島の数あるヨットハーバーの一つ

その人気は凄まじく、マヨルカ島の面積は約3640キロ平方メートルで、沖縄本島の約3倍、通常の人口は90万人ほどなのですが、夏のバカンスシーズンとなれば1650万人もの観光客が訪れます。ヨーロッパで最も人口密度の高い島となるので「地中海の夏の首都」とも呼ばれています。

マヨルカ島の歴史と伝統料理

そんな超バカンスリゾート地マヨルカ島では、どんな料理が食されているのでしょうか。マヨルカ料理を語るには、まずはその長い歴史を紐解かなくてはなりません。

マヨルカ島に初めて人が住んだのは、先史時代の紀元前6000年頃。紀元前8世紀には東部地中海沿岸地方からやってきた航海民族フェニキア人、紀元前123年からはローマ人によって支配されました。特にローマ人支配は550年にも及んだので、現在のマヨルカ島の食文化の基盤となりました。この時代にオリーブ、アーモンド、ぶどうの栽培が始まり、塩を作る技術も導入されました。マヨルカ島の塩は今でもとても有名です。マヨルカ島はローマ人に支配された後もギリシャ人、イスラム勢力などに占領された歴史を持ちます。古くから色々な国の食文化の影響を受けてきたので、スペイン本土とはかなり異なった食文化が生まれました。

更に、マヨルカ島は食材がとても豊かです。海に囲まれた島なので新鮮な魚介類はもちろんのこと、島の北西部にはトラムンタナ山脈、そして南東部にはリェバン山地があるので山の幸も豊富です。異国の多彩な食文化とバラエティ豊かな食材を元に、マヨルカ島独自の食文化が開花しました。

数多くあるマヨルカ島の郷土料理の中で、今回紹介したいのはブルバリェス。昔から存在する伝統料理なのですが、かなりレアな存在です。マヨルカ島の多くのレストランは、島の人口を遥かに超える圧倒的大多数の観光客のために存在します。そのため、ドイツやイギリスなどの主要観光客の国の料理を提供するレストラン、または観光客が好む料理を主体としたレストランが中心となります。ドイツ料理、イギリス料理、イタリア料理、インド料理のレストランが多く、スペイン料理の中でも独特なマヨルカ島の郷土料理を提供するレストランとなれば数がとても限られます。

ブルバリェス

更にはこの料理、観光客からあまり人気がないので、レストランのメニューで見かけることが殆どありません。しかし、地元マヨルカの人たちからはとても愛されている郷土料理。今回はマヨルカ島の5つ星ホテルのレストランでメインシェフとして働いているカタリーナさんが、自宅に招いて特別にブルバリェスを作ってくれました。

カタリーナさん

マヨルカ島独自のパスタ

まず用意しなければならないのが、料理名にもなっているブルバリェスと呼ばれるパスタ。マヨルカ島で作られている、マヨルカ島でしか売られていない希少なパスタで、平らなタイプとふちがひらひらしたタイプの2種類存在します。このマヨルカ島独自のパスタを肉、ソブラサーダ、季節の野菜と一緒に土鍋で煮込んだスープパスタがブルバリェスなのです。

ブルバリェス

マヨルカ島の人たちは、この料理を作った翌日に食べることを好みます。パスタにスープを吸い込ませ、スープとパスタの境界線がなくなる寸前のトロトロ状態にして食べるのが大好きなのです。

そして、これが外国人観光客から嫌われる理由となっているのです。近年のイタリア料理ブームで、パスタはアルデンテで食べるべきものと認識が広まっているので、ブルバリェスを苦手とする観光客が多いのです。特にイタリア人観光客はブルバリェスの話を聞いただけで眉をしかめます。そんな経緯でマヨルカ島の郷土料理でありながら、レストランでなかなか目にする機会がないのですが、マヨルカ島民にとっては愛して止まない郷土料理です。

ブルバリェスのレシピ(4人前)

●材料
・ブルバリェス 一人につき一握り
・アーティチョーク 4つ
・カリフラワー 1カップ
・玉ねぎ 1個
・ニンニク 4かけ
・トマト 2個
・ニンジン 2本
・絹さや 8本
・豚の骨付きあばら肉またはウサギの肉 300g
・ソーセージ 1本
・ソブラサーダ 2かけ
・オリーブオイル
・塩
・コショウ
・パプリカパウダー
・シナモン
・ナツメグ

ブルバリェスの材料一式

①肉を食べやすい大きさにカットし、塩、コショウ、パプリカパウダーでマリネしておきます。

②土鍋にオリーブオイルを入れて火にかけ、マリネした肉を入れて炒めます。土鍋がベストですが、スープたっぷりの料理なので、手頃な大きさの深鍋を使用して下さい。

③細かくカットした玉ねぎとニンニクを入れて更に炒めます。

肉と野菜を炒める

④玉ねぎに色が付きはじめたら、細かく切ったトマトとソブラサーダを加えます。このソブラサーダが味の決め手となります。マヨルカ島名物の豚肉、豚の脂身、塩、コショウ、パプリカパウダーをよく混ぜて腸詰にした柔らかいタイプの赤いソーセージ。 同時に塩、コショウ、パプリカパウダー、ナツメグ、シナモンを加えてトマトがピューレ状になるまで炒めます。

⑤適度な大きさにカットした野菜を加えます。レシピ通りの野菜の他にキノコなどを入れても美味しいです。

⑥材料が隠れるくらいの分量の水を加え、煮立ったら更に5分ほど煮込みます。

水を入れる

⑦この段階でもう一度味見をして、足りないスパイスを付け足します。

⑧最後にブルバリェスを加え12~15分ほど煮込んだら完成です。

最後にブルバリェスを投入

もちろん出来立ても食べますが、マヨルカ島の人たちは残ったブルバリェスを冷蔵庫に一晩おき、翌日にトロトロ状態で食べる方を好みます。そのためブルバリェスを作る時は、何時もレシピより多めに作るのが定番なのだそう。

出来立てのブルバリェスならパスタもアルデンテなので、外国人観光客のウケもそれほど悪くないのではと思いました。

マヨルカ島にはその他にも沢山郷土料理が存在します。スペイン本土とは全く異なる独特のマヨルカ料理を更にもっと知りたい方は、カタリーナさんのインスタグラムを是非訪れてみてください。美味しそうな珍しい料理が沢山紹介されています。

●Catalina Salas Morey Instagramアカウント  @cata_chef


(2023年3月31日発行「素材のちから」第48号掲載記事)

「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?