short story series『と、私も前々から考えていた』くつ下 case02

作・木庭美生

私には付き合って5年の彼氏がいます。

同じ部屋で暮らしはじめて3年。

私は26歳で、彼は27歳。

大学の先輩後輩で、特別親しかったわけでもないけれど卒業後に再会、何度か食事をしたりしてそのまま交際。あの時はここまで続くと思ってなんてなかった、別にタイプでもなかったし。この歳まで付き合っているけど結婚の気配なんてない。まだ女性の初婚平均年齢には達してないし別になんとも思ってないつもりだった。

でも、白いドレスを着て幸せそうな友人たちを何度か見ることがあって、いつまでそのままでいる気なのかと聞かれたこともある。なんともないと思っていたからかそれが意外ときつかった。

彼は意外と子供っぽい。彼の笑顔はどこか幼い。

ある休日。お互いに特に何をするでもなくだらだらと過ごしていた。いつのまにか時計の針は13時30分を指している。おなか空いたね、というと彼は僕が用意するよ、と立ちあがる。素直にありがとうとお礼を言う。少しすると、彼の手にはお湯の注がれたカップ麺が2つ。2人での生活を始めたばかりの頃はそれなりに頑張ってご飯を作ったりもしていたのにいつのまにカップ麺でよくなってたのだろうか。

2人で手を合わせいただきますをする。特に何も喋らずに食べすすめていると彼が突然声をあげる。スープをはねさせたようだ。くつ下に。

シミができた。これくらいなら洗えばすぐにとれるだろう。彼は眉を下げて必死に謝ってくる。ボーダーのくつ下についたカップ麺のスープのシミと眉の下がった彼の顔を見るとなんだかおかしくて笑ってしまった。戸惑う彼と、シミのついた彼のくつ下。

あぁ、たぶん私今、幸せ。

2018年11月20日

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